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69・予想外の援護

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 ガーゴイルたちはグリフィン像を奪い合っているようだった。

 そこに船内へと通じる扉が開き、弓騎士たちが甲板へ走り出てくると、浮遊するガーゴイルたちへ魔力を帯びた矢を射始める。

(飛空船の人が、あの像を守ろうとしている。すごく大切なものなのかも)

 ガーゴイルたちは石から作られた腕を振って飛んでくる矢を弾くと、弓騎士たちへと襲いかかった。

 ヴァルドラは白雲を突き抜けると、まっすぐ飛空船へと向かう。

『ティサリア、行くぞ!』

「うん!」

 ヴァルドラはティサリアの負担にならないように気を配りながら加速すると、あっという間に飛空船のそばへと躍り出た。

 そして大気を震わせる咆哮と共に、凍てつく氷のブレスを吐く。

 それよりわずかに早く、ティサリアが結界術を発現させた。

 ガラスのような結界が自分たちと、そして弓騎士たちの周囲を覆い、痛みすら伴う冷気を遮断する。

 突如現れた緋色の巨竜とその息吹におののき、ガーゴイルたちは悲鳴を上げて逃げ散った。

 辺りの空気が急激に冷え込んでゆき、ティサリアは身震いする。

「結界を張っていても、さ、寒いね……ガーゴイルたちも、これでびっくりして諦めてくれたかな?」

 ガーゴイルたちは、息吹の直撃をかわして旋回した。

 そして威嚇的な甲高い声を上げながら、翼や体を振ることで生成した風の刃を、幾重も繰り出す。

 群れから放たれる無数の連撃に対し、ヴァルドラは翼を一振りすると、巻き起こした風でそれを相殺させた。

『諦めないつもりのようだな』

「ガーゴイルたちはあのグリフィンの像に執着しているように見えるけど……大事なものなのかな?」

『あれが邪魔なら粉砕するか』

「ええっ!? でも弓騎士さんたちが一生懸命守っていたし、飛空船の機能に関わる重要なものかもしれないよ。それに人の物を勝手に壊したら、ヴァルドラがまた悪い竜だと誤解を受けてしまうかも……」

『人がどう思おうと関係ない。俺は必要だと判断したことをやるだけだ』

 そう断言すると、ティサリアは悲しそうに黙る。

 ヴァルドラは自分の立場を真剣に案じられることに慣れていない様子で、口ごもりながら言い直した。

『……ま、まぁ、ティサリアがうるさいから、像を破壊するのは止めて、いつものようにブレスで追い払うことにする』

「ヴァルドラ、ありがとう!」

『ただ気が変わっただけだ。俺の攻撃は範囲と威力がでかいから、結界で周囲の防備は頼むぞ。それと相手にする数が多いから、飛行が乱れるかもしれない。振り落とされるな』

「うん!」

 複数のガーゴイル相手でも、ヴァルドラは臆することもない。

 甲板へ近づけさせる隙は見せず、凍てつく息吹を吐き出してけん制した。

 その度にティサリアも良いタイミングを狙い、自分たちと飛空船を守るための結界を発現させる。

 町を襲う魔獣退治を繰り返してきたこともあり、ぴったりと息の合った見事な攻守が続いた。

 甲板に立つ弓騎士たちはどよめきながら、薄い結界に覆われた空を見上げる。

「すごい……今まで見たどんな竜にも劣らない威力のブレスだ! しかもまだ手加減しているように見えるぞ!!」

「それにあの竜騎士は結界士でもあるのか、絶妙なタイミングで結界術を発現させているぞ。最小限の魔力で最大の効果を引き出しつつ、強力な竜のブレスやガーゴイルの攻撃から、この飛空船を結界で守っている。その技も判断力も、昨今の王城結界士よりずっと実戦的だ!」

 弓騎士たちは、予想外の援護に沸いた。




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