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49・変化
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ガルハルト領主の広大に広がる敷地を案内するケリスに、ティサリアも並んで歩く。
近況を交わしていると、ケリスはティサリアがアルノリスタ王国の王子の婚約者候補に挙がっている話に興味を引かれたらしく、次々と質問した。
ティサリアはクレイルドが自分を他の人と見間違えないことや、ティサリアの家族と仲が良いこと、そして婚約者になる上で起こりうる事情についての兼ね合いを父と相談していることなど、話は尽きない。
「なるほどな。ティサリアと久しぶりに会って、ずいぶんきれいになったと思っていたが、そういうことだったのか。今日は我が騎士団に彼が視察でお見えになるから、みんな緊張しているよ」
「えっ、クレイルド王子が来るの?」
「ああ。彼は最近人が変わったように、周囲を巻き込んで自国のことに着手し始めたからな。その影響もあってアルノリスタ王国では、竜の可能性に興味を持つ人物が増えているようだ。今回も竜の使役の参考にと、我が騎士団への視察が決まったのだが……。彼とそういう話はしないのか?」
「うん。今は王子とあまり会えていないから。忙しいのは知ってるしね」
妙に明るく話すティサリアの横顔をケリスはじっと見つめていたが、やがてぽつりと言った。
「本気なのかもな」
「本気?」
何のことかと首を傾げるティサリアの顔を、ケリスが覗き込んでくる。
「なぁティサリア。アルノリスタ王国で有名な、反竜派のフォスタリア公爵を知っているか?」
「フォスタリア公爵? 最近、名前を聞いたような気がするけれど……」
「そうか。その公爵がティサリアの父君……エイルベイズ伯爵の周辺について調べ回っているようだと、私の兄上が懸念していたんだ。心当たりはないか?」
「えっ。お父様は相変わらず、家ではにこにこしているけど……。あっ、そういえば名前を聞いたのは、以前私がクレイルド王子を訪問したときだったよ。御者の人が馬車置き場で会った人物に、竜に関する嫌味を言われたって気を悪くしていたの。確かフォスタリア公爵領の人だって言ってた気がする」
「……なるほどな。もしかするとクレイルド王子は、君との関係をフォスタリア公爵に勘付かれて、嗅ぎ回られていることを警戒しているのかもしれない」
「どういうこと?」
「彼は本気なんだよ。今まで静観していた国をひっくり返す覚悟を決めたくらい」
「ええっ! 国をひっくり返す!?」
ティサリアはクレイルドが袖をまくった両腕で、アルノリスタの大地をひっくり返そうと物理的に奮闘する姿を想像して、かなり悩ましい顔になる。
「そんなこと……いったい何のために? いくら優秀な方だとしても、できるとは思えないけれど」
「確かにな。だけどティサリアのためなら、彼はやるんだろう」
「私のために、国をひっくり返す……」
ティサリアは一層困惑したが、自分の常識から飛び越えているようなことを、クレイルドがしようとしていることは伝わった。
(だけどクレイは、一人だけでがんばろうとするところがあるから心配だな。忙しすぎて、倒れたりしないといいけど……。何か私にできることはないのかな)
考えながら歩いていると、一階建ての城のように堅牢そうな、灰白色の建物が見えてくる。
ティサリアは幼い頃に戻ったような気持ちになり、胸が高鳴り始めた。
(久しぶりで緊張するな。みんなと最後に会ったのは一年も前だったから、きっと大人みたいになってるよね。もう昔のようには話してくれないかも……)
建物が近づくにつれ、先ほどまで楽しく話していたティサリアの口数が減っていく。
ケリスが門のように巨大な扉を開けた途端、ティサリアへ歓声が降り注いだ。
近況を交わしていると、ケリスはティサリアがアルノリスタ王国の王子の婚約者候補に挙がっている話に興味を引かれたらしく、次々と質問した。
ティサリアはクレイルドが自分を他の人と見間違えないことや、ティサリアの家族と仲が良いこと、そして婚約者になる上で起こりうる事情についての兼ね合いを父と相談していることなど、話は尽きない。
「なるほどな。ティサリアと久しぶりに会って、ずいぶんきれいになったと思っていたが、そういうことだったのか。今日は我が騎士団に彼が視察でお見えになるから、みんな緊張しているよ」
「えっ、クレイルド王子が来るの?」
「ああ。彼は最近人が変わったように、周囲を巻き込んで自国のことに着手し始めたからな。その影響もあってアルノリスタ王国では、竜の可能性に興味を持つ人物が増えているようだ。今回も竜の使役の参考にと、我が騎士団への視察が決まったのだが……。彼とそういう話はしないのか?」
「うん。今は王子とあまり会えていないから。忙しいのは知ってるしね」
妙に明るく話すティサリアの横顔をケリスはじっと見つめていたが、やがてぽつりと言った。
「本気なのかもな」
「本気?」
何のことかと首を傾げるティサリアの顔を、ケリスが覗き込んでくる。
「なぁティサリア。アルノリスタ王国で有名な、反竜派のフォスタリア公爵を知っているか?」
「フォスタリア公爵? 最近、名前を聞いたような気がするけれど……」
「そうか。その公爵がティサリアの父君……エイルベイズ伯爵の周辺について調べ回っているようだと、私の兄上が懸念していたんだ。心当たりはないか?」
「えっ。お父様は相変わらず、家ではにこにこしているけど……。あっ、そういえば名前を聞いたのは、以前私がクレイルド王子を訪問したときだったよ。御者の人が馬車置き場で会った人物に、竜に関する嫌味を言われたって気を悪くしていたの。確かフォスタリア公爵領の人だって言ってた気がする」
「……なるほどな。もしかするとクレイルド王子は、君との関係をフォスタリア公爵に勘付かれて、嗅ぎ回られていることを警戒しているのかもしれない」
「どういうこと?」
「彼は本気なんだよ。今まで静観していた国をひっくり返す覚悟を決めたくらい」
「ええっ! 国をひっくり返す!?」
ティサリアはクレイルドが袖をまくった両腕で、アルノリスタの大地をひっくり返そうと物理的に奮闘する姿を想像して、かなり悩ましい顔になる。
「そんなこと……いったい何のために? いくら優秀な方だとしても、できるとは思えないけれど」
「確かにな。だけどティサリアのためなら、彼はやるんだろう」
「私のために、国をひっくり返す……」
ティサリアは一層困惑したが、自分の常識から飛び越えているようなことを、クレイルドがしようとしていることは伝わった。
(だけどクレイは、一人だけでがんばろうとするところがあるから心配だな。忙しすぎて、倒れたりしないといいけど……。何か私にできることはないのかな)
考えながら歩いていると、一階建ての城のように堅牢そうな、灰白色の建物が見えてくる。
ティサリアは幼い頃に戻ったような気持ちになり、胸が高鳴り始めた。
(久しぶりで緊張するな。みんなと最後に会ったのは一年も前だったから、きっと大人みたいになってるよね。もう昔のようには話してくれないかも……)
建物が近づくにつれ、先ほどまで楽しく話していたティサリアの口数が減っていく。
ケリスが門のように巨大な扉を開けた途端、ティサリアへ歓声が降り注いだ。
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