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29・敵に回して怖いのは
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颯爽と現れたジェイルにリセが声を返す間もなく、魔術の詠唱が左右から紡がれる。
護衛の二人は優秀な魔術師の証拠として素早く、絶妙に合わせたタイミングだった。
彼らからほぼ同時に、ごうと燃えさかる火炎の息吹が上がると、二方向から渦巻く灼熱がジェイルに迫る。
しかし当人は動じる様子もなく、リセへの歩みを緩めなかった。
紅蓮の渦はジェイルへ届くことなく、じゅうと音を立て霧散する。
紛れもなく高度な術が蹂躙されると、国内でも指折りの魔術師たちは信じられない光景に顔を歪めた。
「身振りすらなく打ち消しただと!?」
「常識外れだ……ありえない」
消し潰された炎の渦の威力で強風が巻き起こり、ジェイルのかぶっていたフードがめくれる。
目を見張るほどの美貌があらわになり、護衛の魔術師たちは驚愕した。
「まさか……!」
「俺のことを知ってるのか? それなら動かない方が良いのも知ってるな? 色ボケ王子の命が最優先なら特に」
護衛たちは相手との力量差を全身で理解し、身じろぐことすらできずにジェイルの動向をうかがう。
ジェイルは騒がれ慣れているのか、全く動じることなくリセのそばまで来てその頭を抱いた。
「あのな。どうして黙って遊びに行くんだ? 変な奴に絡まれないように、俺を置いて出歩くなよ」
ジェイルの感触と言葉に、リセはそれまでの緊張で強張っていた心細さがほぐれていく。
「ごめんなさい。少し話をする約束をしていたの。だけど私が出かけることを聞いたら、ジェイルは護衛するって譲ってくれないと思って……。外に出て、また人に見られてしまったらきっと困るのに」
「無理する癖、また出てるぞ。少しは頼れよ。危なっかしいと、ああいうのに目を付けられる」
ジェイルが視線を向けた先には、先ほど白い閃光で弾かれたサヴァードが地面に座り込んでいた。
「本当に……ジェイルなのか?」
以前護衛に付けていたこともあり、ジェイルの規格外の強さを良く知っているサヴァードの顔色が、みるみるうちに青ざめていく。
「だけどお前、ずっと行方をくらませていたはず……」
「ああ。お前らの顔を見るのが嫌だからな。でも気が変わった」
ぞくりとさせる声色だった。
サヴァードが恐怖で目を見開くと、ジェイルは冷酷に美しい眼差しを向けた。
「お前もリセのことを心配してくれているみたいだけど、俺が護衛すれば安心だろ? ほら」
言葉と同時に、サヴァードと彼の護衛たち、それぞれの足元に人より大きな黒い球体の結界が浮かび上がる。
結界の丸い表面には細かな古代文字がぎっしりと書きこまれていて、気づいたときには三人とも、その中にすっぽりと囚われていた。
三人は状況に気づくと、古の術から脱出しようと魔術や身体を使ったが、むなしいほど何も起こらない。
「どうだ? 古代でも禁断とされる亜空間の拘束魔術、珍しいだろ」
淡々としたジェイルの言葉に、サヴァードは蒼白な顔を歪めて叫んだ。
「やめろ、一体何をする気だ!」
「不吉なことは聞かないほうが良くないか?」
「……ジェイル、冷静になれ。王族の僕を葬るのは国を敵に回すことだぞ! その意味の恐ろしさ、僕の護衛をしたこともあるお前ならわかるはずだ!」
「そういうの、本当にくだらないよな。俺、お前みたいな奴に邪魔な国を亡ぼしてくれないかって、あちこちから頼まれるんだよ。敵に回して怖いのは国か? 国を亡ぼせる俺か? お前はどっちだと思う?」
「ジェイル……」
リセが不安そうに見上げると、ジェイルの冷たい眼差しは溶かされたように柔らかくなる。
「そんな顔するな。俺に任せてくれるだろ?」
護衛の二人は優秀な魔術師の証拠として素早く、絶妙に合わせたタイミングだった。
彼らからほぼ同時に、ごうと燃えさかる火炎の息吹が上がると、二方向から渦巻く灼熱がジェイルに迫る。
しかし当人は動じる様子もなく、リセへの歩みを緩めなかった。
紅蓮の渦はジェイルへ届くことなく、じゅうと音を立て霧散する。
紛れもなく高度な術が蹂躙されると、国内でも指折りの魔術師たちは信じられない光景に顔を歪めた。
「身振りすらなく打ち消しただと!?」
「常識外れだ……ありえない」
消し潰された炎の渦の威力で強風が巻き起こり、ジェイルのかぶっていたフードがめくれる。
目を見張るほどの美貌があらわになり、護衛の魔術師たちは驚愕した。
「まさか……!」
「俺のことを知ってるのか? それなら動かない方が良いのも知ってるな? 色ボケ王子の命が最優先なら特に」
護衛たちは相手との力量差を全身で理解し、身じろぐことすらできずにジェイルの動向をうかがう。
ジェイルは騒がれ慣れているのか、全く動じることなくリセのそばまで来てその頭を抱いた。
「あのな。どうして黙って遊びに行くんだ? 変な奴に絡まれないように、俺を置いて出歩くなよ」
ジェイルの感触と言葉に、リセはそれまでの緊張で強張っていた心細さがほぐれていく。
「ごめんなさい。少し話をする約束をしていたの。だけど私が出かけることを聞いたら、ジェイルは護衛するって譲ってくれないと思って……。外に出て、また人に見られてしまったらきっと困るのに」
「無理する癖、また出てるぞ。少しは頼れよ。危なっかしいと、ああいうのに目を付けられる」
ジェイルが視線を向けた先には、先ほど白い閃光で弾かれたサヴァードが地面に座り込んでいた。
「本当に……ジェイルなのか?」
以前護衛に付けていたこともあり、ジェイルの規格外の強さを良く知っているサヴァードの顔色が、みるみるうちに青ざめていく。
「だけどお前、ずっと行方をくらませていたはず……」
「ああ。お前らの顔を見るのが嫌だからな。でも気が変わった」
ぞくりとさせる声色だった。
サヴァードが恐怖で目を見開くと、ジェイルは冷酷に美しい眼差しを向けた。
「お前もリセのことを心配してくれているみたいだけど、俺が護衛すれば安心だろ? ほら」
言葉と同時に、サヴァードと彼の護衛たち、それぞれの足元に人より大きな黒い球体の結界が浮かび上がる。
結界の丸い表面には細かな古代文字がぎっしりと書きこまれていて、気づいたときには三人とも、その中にすっぽりと囚われていた。
三人は状況に気づくと、古の術から脱出しようと魔術や身体を使ったが、むなしいほど何も起こらない。
「どうだ? 古代でも禁断とされる亜空間の拘束魔術、珍しいだろ」
淡々としたジェイルの言葉に、サヴァードは蒼白な顔を歪めて叫んだ。
「やめろ、一体何をする気だ!」
「不吉なことは聞かないほうが良くないか?」
「……ジェイル、冷静になれ。王族の僕を葬るのは国を敵に回すことだぞ! その意味の恐ろしさ、僕の護衛をしたこともあるお前ならわかるはずだ!」
「そういうの、本当にくだらないよな。俺、お前みたいな奴に邪魔な国を亡ぼしてくれないかって、あちこちから頼まれるんだよ。敵に回して怖いのは国か? 国を亡ぼせる俺か? お前はどっちだと思う?」
「ジェイル……」
リセが不安そうに見上げると、ジェイルの冷たい眼差しは溶かされたように柔らかくなる。
「そんな顔するな。俺に任せてくれるだろ?」
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