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27・誤解はほどける
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リセの顔がみるみるうちに赤くなると、対照的にジェイルの顔は沈んでいく。
「俺の見た目、最悪だったもんな」
「えっ! そ、そっち?」
「いい、言うな。性格もこれだから多少自覚はある」
「そんな、気にしすぎだよ。だってジェイル、いつも優しすぎるくらいで……」
リセは静かな胸の痛みを抑えるように、両手をぎゅっと握りしめた。
「今だって、ジェイルは苦しくても私のことを心配して触らないようにしてるでしょ? つらそうなのに……私、全然役に立ててない。ジェイルに元気になって欲しいし、幸せになって欲しいのに。だから一番いい方法を探そうと思って」
「探さなくても、ここにあるだろ」
ジェイルは大切なものを包み込むように、リセを両腕でとらえた。
「俺、休憩中が一番幸せだし」
「幸せ?」
「そう。リセが腕の中にいると幸せだな。お前が自分のこと大切にしてくれると、もっと幸せなんだけど」
その言葉をきっかけに、苦しいほどの感情が突き上げてくる。
リセの心は翻弄されるまま、瞳から透明な液体が溢れて止まらなくなった。
ジェイルの戸惑う気配に、リセは瞳を濡らしたまま笑う。
「ずるいよ、そんな言い方。私の方が幸せ過ぎて、離れたくなくなる」
「ちょうど良かったな。俺の回りにはいつも自分を幸せにして欲しい奴らが山のように群がって来たけど。リセは俺を幸せにする一番いい方法を探してくれるんだろ? そんな貴重な奴、離すと思うか?」
「だけど……」
「俺、嬉しかったよ。お前がクッキー持ってきてくれたあの夜、「行かないで」って言ってくれたこと」
「え?」
「リセは俺に恩返しすることばかり考えていて、本音はずっとわからなかったから。あれがとっさに出たお前の気持ちなんだって思ったら……嬉しかった。だけど今は? 俺に側妃になった方が良いって言われたら怖かったんだろ? そんなお前のこと行かせて、俺が喜ぶと思ってるのか?」
「あ……」
(そうだ。私はジェイルが無理をしているのを見てつらかったけど。ジェイルだって、私のことを見て同じ気持ちだったのかも)
「ごめんなさい、心配させて。私……自分の気持ちを無視してたみたい」
リセは改めて自分の望んでいることを思い直し、言葉を詰まらせた。
「私は、あなたと一緒にいたかったの」
ジェイルは腕に力を込めてリセを思う存分抱きしめる。
「それなら、この抱き枕は手放さなくていいな」
「だけど、あの。私って抱き枕にしては、もふもふ感が足りない気がしていて」
「でも離さない」
「わ、私の口下手、ジェイルにうつってる気がする。さっきからずっと、私が誤解しそうな言い方ばかりで……」
「わかりにくいか? お前が好きなんだよ」
「え……っ?」
ジェイルの不敵な笑みに見下ろされ、リセの赤面が一層熱くなった。
「やっぱ無理だ。リセが望んでも、あんな色ボケには絶対渡せない。残念だったな」
「残念って……どうして? だって私の方がずっと、ずっと前からジェイルに会いたかった。一緒にいたかったの。今は前よりももっと特別というか、その……」
「知ってる。人型の見た目が特別最悪だったこと」
ジェイルは自嘲を混ぜつつも相変わらず余裕の笑顔だったので、リセは真剣に否定しようとしたが、口下手な自分の言葉ではうまくいかない気もして悩む。
(違うのに……見た目が嫌いだって誤解、冗談で笑って欲しくない。だけどどうすれば、うまく伝わるんだろう)
もし自分が伝えてもらうのなら……と考えていると、リセの表情が硬くなった。
「リセ、どうした。俺の渾身の自虐、笑ってすらもらえないのはちょっと傷つくだろ」
「ジェイル、傷つくかもしれないけど全然笑えないよ」
「……そうか」
「そんなことより、聞いて欲しいことがあるの」
「そんなこと……」
「ジェイル、これから私が話すこと、信じてくれる?」
「ん、なんだよ改まって。信じるから、さっきみたいに本音で言えよ」
「ありがとう。あのね……笑わないで聞いて」
いつになく真剣な様子のリセが、秘密の話をするように声をひそめたので、ジェイルもつられるように耳を寄せる。
リセは背伸びをして、自分のものとなった彼の額にそっと口づけた。
予測不能な出来事に、ジェイルは石のように固まる。
「私、ジェイルの全部が好き」
その一言がとどめとなった。
赤面した伝説の魔術師は、あっけなく陥落する。
「俺の見た目、最悪だったもんな」
「えっ! そ、そっち?」
「いい、言うな。性格もこれだから多少自覚はある」
「そんな、気にしすぎだよ。だってジェイル、いつも優しすぎるくらいで……」
リセは静かな胸の痛みを抑えるように、両手をぎゅっと握りしめた。
「今だって、ジェイルは苦しくても私のことを心配して触らないようにしてるでしょ? つらそうなのに……私、全然役に立ててない。ジェイルに元気になって欲しいし、幸せになって欲しいのに。だから一番いい方法を探そうと思って」
「探さなくても、ここにあるだろ」
ジェイルは大切なものを包み込むように、リセを両腕でとらえた。
「俺、休憩中が一番幸せだし」
「幸せ?」
「そう。リセが腕の中にいると幸せだな。お前が自分のこと大切にしてくれると、もっと幸せなんだけど」
その言葉をきっかけに、苦しいほどの感情が突き上げてくる。
リセの心は翻弄されるまま、瞳から透明な液体が溢れて止まらなくなった。
ジェイルの戸惑う気配に、リセは瞳を濡らしたまま笑う。
「ずるいよ、そんな言い方。私の方が幸せ過ぎて、離れたくなくなる」
「ちょうど良かったな。俺の回りにはいつも自分を幸せにして欲しい奴らが山のように群がって来たけど。リセは俺を幸せにする一番いい方法を探してくれるんだろ? そんな貴重な奴、離すと思うか?」
「だけど……」
「俺、嬉しかったよ。お前がクッキー持ってきてくれたあの夜、「行かないで」って言ってくれたこと」
「え?」
「リセは俺に恩返しすることばかり考えていて、本音はずっとわからなかったから。あれがとっさに出たお前の気持ちなんだって思ったら……嬉しかった。だけど今は? 俺に側妃になった方が良いって言われたら怖かったんだろ? そんなお前のこと行かせて、俺が喜ぶと思ってるのか?」
「あ……」
(そうだ。私はジェイルが無理をしているのを見てつらかったけど。ジェイルだって、私のことを見て同じ気持ちだったのかも)
「ごめんなさい、心配させて。私……自分の気持ちを無視してたみたい」
リセは改めて自分の望んでいることを思い直し、言葉を詰まらせた。
「私は、あなたと一緒にいたかったの」
ジェイルは腕に力を込めてリセを思う存分抱きしめる。
「それなら、この抱き枕は手放さなくていいな」
「だけど、あの。私って抱き枕にしては、もふもふ感が足りない気がしていて」
「でも離さない」
「わ、私の口下手、ジェイルにうつってる気がする。さっきからずっと、私が誤解しそうな言い方ばかりで……」
「わかりにくいか? お前が好きなんだよ」
「え……っ?」
ジェイルの不敵な笑みに見下ろされ、リセの赤面が一層熱くなった。
「やっぱ無理だ。リセが望んでも、あんな色ボケには絶対渡せない。残念だったな」
「残念って……どうして? だって私の方がずっと、ずっと前からジェイルに会いたかった。一緒にいたかったの。今は前よりももっと特別というか、その……」
「知ってる。人型の見た目が特別最悪だったこと」
ジェイルは自嘲を混ぜつつも相変わらず余裕の笑顔だったので、リセは真剣に否定しようとしたが、口下手な自分の言葉ではうまくいかない気もして悩む。
(違うのに……見た目が嫌いだって誤解、冗談で笑って欲しくない。だけどどうすれば、うまく伝わるんだろう)
もし自分が伝えてもらうのなら……と考えていると、リセの表情が硬くなった。
「リセ、どうした。俺の渾身の自虐、笑ってすらもらえないのはちょっと傷つくだろ」
「ジェイル、傷つくかもしれないけど全然笑えないよ」
「……そうか」
「そんなことより、聞いて欲しいことがあるの」
「そんなこと……」
「ジェイル、これから私が話すこと、信じてくれる?」
「ん、なんだよ改まって。信じるから、さっきみたいに本音で言えよ」
「ありがとう。あのね……笑わないで聞いて」
いつになく真剣な様子のリセが、秘密の話をするように声をひそめたので、ジェイルもつられるように耳を寄せる。
リセは背伸びをして、自分のものとなった彼の額にそっと口づけた。
予測不能な出来事に、ジェイルは石のように固まる。
「私、ジェイルの全部が好き」
その一言がとどめとなった。
赤面した伝説の魔術師は、あっけなく陥落する。
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