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28・リセの価値
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***
「私にはもったいないようなお話、本当にありがとうございました」
翌日の早朝、リセはサヴァードと精霊についての話をした溺れ森の帰り道、側妃の話を断った。
サヴァードは聞いているのかいないのか、終始笑顔で頷くと聞き返す。
「僕も君と話した後、もう一度考えたんだ。その方が良いと思ったよ」
意外とあっさり了承されて、リセはほっとした。
「私では力不足かもしれませんが、精霊のことを違う形でお手伝いできませんか?」
「ああ。リセには正妃になってもらう」
「……え?」
耳を疑う言葉に驚いてリセの動きが淀む。
サヴァードもそれに合わせて立ち止まり、にこりとした。
「大丈夫だよ。僕がついてるから」
(やっぱり、聞き間違いじゃない……?)
「あの。どういうことですか? 急に、そんな」
「だってリセが見張っていてくれないと。僕は精霊を見たことを、うっかり人に話してしまうかもよ?」
脅されているのだとわかり、リセは落胆する。
「私、サヴァード王子が精霊や国のことを考えているお話、本当だと信じていました」
「誤解しないで。考えているから、君を失うことの損失を回避したいんだよ。僕を助けて欲しい」
「もちろん私、サヴァード王子に協力したいと思っているんです」
「それはリセが誰の手にも落ちていないことが条件だろう? もし別の奴が卑劣な手段で君を捕まえたら? 精霊を悪用するような奴が君を見つけないと言い切れる? そんな奴に抵抗できるとどうして信じられるの? 正式な僕の庇護を受けることは、君の身を守るためでもあるんだよ」
「そうかもしれませんが、私を捕まえようと考える方なんて……」
「君は自分の価値をわかっていないみたいだね。見てごらん」
サヴァードの視線の先には、以前リセが精霊獣に変化したジェイルを抱き枕にしていた場所がある。
その周辺だけ、草木が若々しく根付いているのは一目瞭然だった。
「はじめは精霊獣の力だと思ったけど。あれは君の仕業だね」
サヴァードの口調は明らかに、リセの精霊獣を癒す力に気づいている。
(それだけじゃない。私が精霊を……ジェイルを癒した時、周辺の自然にも影響を与えていたから。その力にサヴァード王子は気づいて、私の力が他の人に悪用されることを警戒しているんだ)
「僕の言っていること、わかってくれたかな? 君が危険な誰かの手に落ちるのは、この国にとっての損失なんだよ」
「おっしゃることはわかりました……。でも私、」
「正妃はリセにとって一番いい方法だと思うよ。その力を知れば悪い奴が寄って来るのは間違いないから、僕が大切にしてあげる。余計なことを考える前に、このまま王都へ行こう」
反射的に踵を返すと、背後に控えている威圧的な二人の護衛がさっと行く手を遮った。
(逃げられない)
立ち尽くすリセに、サヴァードは安心させるように微笑みかける。
「リセが正妃になれば、家族や侍女……周りの人は喜んでくれる。みんなを幸せにできるんだよ。悪い奴からは僕が守るし、何も心配はいらないからね」
妙に優しい声色とは裏腹に、サヴァードの有無を言わせない手つきがリセに迫った。
その時、リセの視界に痺れるような閃光が溢れる。
大気に雷鳴が走ると、サヴァードと護衛の男たちが白い光に弾き飛ばされた。
「リセに汚い手で触るな」
振り返ると、背の高い青年が魔術師のフードを深々とかぶり、飄々とした足取りで近づいて来る。
「それに安心しろ。俺はお前が心配するほど悪い奴じゃないから、な?」
「私にはもったいないようなお話、本当にありがとうございました」
翌日の早朝、リセはサヴァードと精霊についての話をした溺れ森の帰り道、側妃の話を断った。
サヴァードは聞いているのかいないのか、終始笑顔で頷くと聞き返す。
「僕も君と話した後、もう一度考えたんだ。その方が良いと思ったよ」
意外とあっさり了承されて、リセはほっとした。
「私では力不足かもしれませんが、精霊のことを違う形でお手伝いできませんか?」
「ああ。リセには正妃になってもらう」
「……え?」
耳を疑う言葉に驚いてリセの動きが淀む。
サヴァードもそれに合わせて立ち止まり、にこりとした。
「大丈夫だよ。僕がついてるから」
(やっぱり、聞き間違いじゃない……?)
「あの。どういうことですか? 急に、そんな」
「だってリセが見張っていてくれないと。僕は精霊を見たことを、うっかり人に話してしまうかもよ?」
脅されているのだとわかり、リセは落胆する。
「私、サヴァード王子が精霊や国のことを考えているお話、本当だと信じていました」
「誤解しないで。考えているから、君を失うことの損失を回避したいんだよ。僕を助けて欲しい」
「もちろん私、サヴァード王子に協力したいと思っているんです」
「それはリセが誰の手にも落ちていないことが条件だろう? もし別の奴が卑劣な手段で君を捕まえたら? 精霊を悪用するような奴が君を見つけないと言い切れる? そんな奴に抵抗できるとどうして信じられるの? 正式な僕の庇護を受けることは、君の身を守るためでもあるんだよ」
「そうかもしれませんが、私を捕まえようと考える方なんて……」
「君は自分の価値をわかっていないみたいだね。見てごらん」
サヴァードの視線の先には、以前リセが精霊獣に変化したジェイルを抱き枕にしていた場所がある。
その周辺だけ、草木が若々しく根付いているのは一目瞭然だった。
「はじめは精霊獣の力だと思ったけど。あれは君の仕業だね」
サヴァードの口調は明らかに、リセの精霊獣を癒す力に気づいている。
(それだけじゃない。私が精霊を……ジェイルを癒した時、周辺の自然にも影響を与えていたから。その力にサヴァード王子は気づいて、私の力が他の人に悪用されることを警戒しているんだ)
「僕の言っていること、わかってくれたかな? 君が危険な誰かの手に落ちるのは、この国にとっての損失なんだよ」
「おっしゃることはわかりました……。でも私、」
「正妃はリセにとって一番いい方法だと思うよ。その力を知れば悪い奴が寄って来るのは間違いないから、僕が大切にしてあげる。余計なことを考える前に、このまま王都へ行こう」
反射的に踵を返すと、背後に控えている威圧的な二人の護衛がさっと行く手を遮った。
(逃げられない)
立ち尽くすリセに、サヴァードは安心させるように微笑みかける。
「リセが正妃になれば、家族や侍女……周りの人は喜んでくれる。みんなを幸せにできるんだよ。悪い奴からは僕が守るし、何も心配はいらないからね」
妙に優しい声色とは裏腹に、サヴァードの有無を言わせない手つきがリセに迫った。
その時、リセの視界に痺れるような閃光が溢れる。
大気に雷鳴が走ると、サヴァードと護衛の男たちが白い光に弾き飛ばされた。
「リセに汚い手で触るな」
振り返ると、背の高い青年が魔術師のフードを深々とかぶり、飄々とした足取りで近づいて来る。
「それに安心しろ。俺はお前が心配するほど悪い奴じゃないから、な?」
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