【完結】精霊獣を抱き枕にしたはずですが、目覚めたらなぜか国一番の有名人がいました

入魚ひえん

文字の大きさ
上 下
28 / 32

28・リセの価値

しおりを挟む
 ***



「私にはもったいないようなお話、本当にありがとうございました」

 翌日の早朝、リセはサヴァードと精霊についての話をした溺れ森の帰り道、側妃の話を断った。

 サヴァードは聞いているのかいないのか、終始笑顔で頷くと聞き返す。

「僕も君と話した後、もう一度考えたんだ。その方が良いと思ったよ」

 意外とあっさり了承されて、リセはほっとした。

「私では力不足かもしれませんが、精霊のことを違う形でお手伝いできませんか?」

「ああ。リセには正妃になってもらう」

「……え?」

 耳を疑う言葉に驚いてリセの動きが淀む。

 サヴァードもそれに合わせて立ち止まり、にこりとした。

「大丈夫だよ。僕がついてるから」

(やっぱり、聞き間違いじゃない……?)

「あの。どういうことですか? 急に、そんな」

「だってリセが見張っていてくれないと。僕は精霊を見たことを、うっかり人に話してしまうかもよ?」

 脅されているのだとわかり、リセは落胆する。

「私、サヴァード王子が精霊や国のことを考えているお話、本当だと信じていました」

「誤解しないで。考えているから、君を失うことの損失を回避したいんだよ。僕を助けて欲しい」

「もちろん私、サヴァード王子に協力したいと思っているんです」

「それはリセが誰の手にも落ちていないことが条件だろう? もし別の奴が卑劣な手段で君を捕まえたら? 精霊を悪用するような奴が君を見つけないと言い切れる? そんな奴に抵抗できるとどうして信じられるの? 正式な僕の庇護を受けることは、君の身を守るためでもあるんだよ」

「そうかもしれませんが、私を捕まえようと考える方なんて……」

「君は自分の価値をわかっていないみたいだね。見てごらん」

 サヴァードの視線の先には、以前リセが精霊獣に変化したジェイルを抱き枕にしていた場所がある。

 その周辺だけ、草木が若々しく根付いているのは一目瞭然だった。

「はじめは精霊獣の力だと思ったけど。あれは君の仕業だね」

 サヴァードの口調は明らかに、リセの精霊獣を癒す力に気づいている。

(それだけじゃない。私が精霊を……ジェイルを癒した時、周辺の自然にも影響を与えていたから。その力にサヴァード王子は気づいて、私の力が他の人に悪用されることを警戒しているんだ)

「僕の言っていること、わかってくれたかな? 君が危険な誰かの手に落ちるのは、この国にとっての損失なんだよ」

「おっしゃることはわかりました……。でも私、」

「正妃はリセにとって一番いい方法だと思うよ。その力を知れば悪い奴が寄って来るのは間違いないから、僕が大切にしてあげる。余計なことを考える前に、このまま王都へ行こう」

 反射的に踵を返すと、背後に控えている威圧的な二人の護衛がさっと行く手を遮った。

(逃げられない)

 立ち尽くすリセに、サヴァードは安心させるように微笑みかける。

「リセが正妃になれば、家族や侍女……周りの人は喜んでくれる。みんなを幸せにできるんだよ。悪い奴からは僕が守るし、何も心配はいらないからね」

 妙に優しい声色とは裏腹に、サヴァードの有無を言わせない手つきがリセに迫った。

 その時、リセの視界に痺れるような閃光が溢れる。

 大気に雷鳴が走ると、サヴァードと護衛の男たちが白い光に弾き飛ばされた。

「リセに汚い手で触るな」

 振り返ると、背の高い青年が魔術師のフードを深々とかぶり、飄々とした足取りで近づいて来る。

「それに安心しろ。俺はお前が心配するほど悪い奴じゃないから、な?」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

処理中です...