【完結】精霊獣を抱き枕にしたはずですが、目覚めたらなぜか国一番の有名人がいました

入魚ひえん

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15・何も言ってくれない

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「わっ、なっ、えっ!?」

 突然の口づけに、リセは無表情とはいえ真っ赤になって唖然としているが、それに対しジェイルは知らん顔でそっぽを向いた。

 その様子を見て、青年はくすくす笑い声をあげる。

「もしかしてその精霊獣、君のことを恋人だと勘違いしているんじゃないか? 多分僕をけん制しようとしてるんだよ」

「それは、ありえないです。すごく優しいのですが気が短すぎるので、きっと間違えた方法で私を落ち着かせようとして、真逆の事態になっているだけだと……」

「でも君はかわいいくらい顔を赤くしているのに。相変わらず表情が変わらないんだね……ん、もしかして」

 青年はそこで言い淀むと、面白いことに気がついた、いたずらっ子のような目をしてにやりとする。

「今はあまり時間がないんだ。今度呼ぶから、ゆっくり会えるといいな」

「呼ぶ? でも私、あなたの名前すらわからなくて」

「その時わかるよ。話したいことがあるから、覚悟していて」

 青年が意味深な目配せをして立ち去ろうとするので、リセは慌てる。

「あっ、待って下さい。ここで精霊獣を見たことは、誰にもお伝えしないで欲しいんです。もし知られたら危険だと誤解されて、この精霊獣は一方的に追われてしまいます」

「いいね。僕と君の秘密にしよう。もちろん、二人にも口外を禁じておくから安心して。またね」

「二人?」

 リセは立ち去っていく青年を見送りながら、その背後に他の二人がいて、彼の後を追っていることに気づいた。

(友人の方かな? だけど全員が見たことを黙っていてくれるかはわからない……)

 以前会ったときの、傷だらけで倒れている痛々しい精霊獣の姿を思い出して、リセは怖くなる。

「ジェイル、もう帰ろう。これ以上誰かに見られる前に引きこもったほうがいいと思うから」

 ジェイルは相変わらず不機嫌そうにお座りをしていた。

 リセは先ほどの口づけを思い出してまた顔が熱くなってきたが、ジェイルの様子がいつもと違う気がしてそれも気になる。

(あの男の人が来てから、様子が険悪になった気がする)

「ジェイル、さっきの人と知り合い?」

『いや別に』

「だけど、その……どうしたの?」

『何が』

「機嫌悪い、よね?」

『いや別に』

「だけど……」

(さっきのこと、何も言ってくれないんだ)

 ジェイルの鋭い視線は今もリセに向かず、睨むように遠くを見つめている。

 それがもう話したくないという意思に感じられて、リセはうつむいた。

(ジェイルは何か考えがあるんだろうけど、教えてくれるつもりはないのかな。そもそも私が勝手に動揺しているだけで、深い意味なんてないのかも。そっか、そうだよね)

 リセはそう納得しようとすればするほど、胸の中にぽっかり現れた空洞の中に、沁みるような悲しさがこみあげてきて戸惑う。

(仕方ないよ。私、会ってからずっと失礼なことばかりして傷つけてきたんだから。ジェイルに信頼されていないとしても、何とも思われていなくても、もし嫌われていたって、仕方ない……)

 リセはまだ、この後知るジェイルの本心に気づくことはできなかった。


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