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23・王子の思惑
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「リセはいつも森に行って、ああやって精霊獣と戯れているの?」
(そっか。サヴァード王子は精霊獣を見た話を他の人に知られないように、人払いをしてくれたんだ)
「いえ……その。あの時は運が良かっただけです。あ、あの」
サヴァードが精霊獣に興味を持っているらしいことを感じ取り、リセは緊張で震える手をきつく握りしめる。
「私は一方的に精霊が傷ついたり、捕まって命を奪われたりするのが心配なんです。精霊獣のことはこのまま、誰にも伝えないでいて頂けますか?」
「わかっているよ。護衛にも口止めしているから」
(あの時にいた他の二人は王子の護衛だったのかな。王子が命令して下されば、ジェイルが見られたことは他の人に知られる心配もないよね)
リセは深々と礼をした。
「サヴァード王子、本当にありがとうございます」
「だけど驚いたよ。近年の精霊は自然のバランスが崩れて不安定に暴れるばかりで、とても危険だと聞いていた。それなのに僕の見た光景は、君と精霊獣が恋人同士みたいに寄り添っていたからね」
「いえ、その。嫌われてはいないだけで……」
言いながら、自分を抱きしめて眠るジェイルの無防備な寝顔を思い出す。
(だけど、もしかしたらちょっとくらいは、その……クッキーの次くらいに好きでいてくれたら嬉しいけど。それは欲張りすぎ?)
真剣な様子でうつむくリセに、サヴァードは楽しそうな眼差しを送る。
「だけどリセは気づいていた? あの時、君と精霊獣の周囲だけ、木々や草がみずみずしくなっていたよ」
「えっ、そうなんですか?」
「僕の優秀な護衛たちも同じ意見だったから、間違いないと思うけれど。あれは精霊獣の力なのか気になってね」
「いえ、私も今はじめて知りました」
「不思議な光景を目撃して、僕も精霊の力に興味が湧いてね。昨今は、国内の自然の疲弊も深刻だから……あ、君が心配しているような精霊に危害を加えるような解決ではないよ。きちんと理解したいということだから、そこは誤解しないで」
「ありがとうございます。みんな、見たことが無くても怖がるので。そんな風に精霊獣に興味を持ってもらえて、とても嬉しいです」
「それなら良かった。それで、リセの知っている精霊の話を僕に教えてくれないかな」
「私の話ですか?」
「もちろん。だってリセは精霊獣の友達だからね。それとも恋人だったかな?」
「いえ、あの! 嫌われてはいないだけで! 目標は高めにクッキーの次で!」
「ん? ごめんごめん、冗談だよ。そんなにかわいい反応されたら、癖になりそうだけど」
(か、からかわれてるだけなんだ……。そうだよね、王子はジェイルの人型のことを知らないんだし。私きっと、変なところで動揺して話を逸らしてしまってる)
「あ、あの。私の知っている精霊の話は拙い知識です。それでもよろしければ」
「聞かせてよ」
そうしてリセはしばらく、自分の知っている精霊獣のことについて話した。
サヴァードは何から話せばいいのかわからないリセに上手く質問をするので、次第にリセの緊張感もほぐれていく。
(良かった。思ったよりずっと話しやすい方かも。精霊の話題なら、私でも人並みに会話出来そう)
そうは思ったが、その後は精霊にとどまらず互いの話などもなかなか盛り上がり、あっという間に時間が過ぎた。
「なるほどね。リセの話を聞いていて、今までの精霊と違う面を知った気がするな。僕だけじゃなく、みんながもっと正しい知識を身につけて、精霊について国内に周知していった方がいいかもしれないかもね。リセはどう思う?」
「そんな風に言っていただけて、とても嬉しいです」
「それならリセにも、僕の手伝いをしてみない?」
「私にできることがあるのなら、ぜひ」
「それなら一度、僕と王都に来てみないかな」
「王都、ですか……」
「君が人見知りなのは知っているから、無理強いはしないよ。でももし人目を避けたいのなら、僕の側妃として地方で静かに暮らすのがいいかもね」
「そうなんですか? 側妃とはどのような……ん? 側妃、とは、あの……えっ?」
驚いて言葉を失うリセに、サヴァードは相変わらずの笑顔を向ける。
(そっか。サヴァード王子は精霊獣を見た話を他の人に知られないように、人払いをしてくれたんだ)
「いえ……その。あの時は運が良かっただけです。あ、あの」
サヴァードが精霊獣に興味を持っているらしいことを感じ取り、リセは緊張で震える手をきつく握りしめる。
「私は一方的に精霊が傷ついたり、捕まって命を奪われたりするのが心配なんです。精霊獣のことはこのまま、誰にも伝えないでいて頂けますか?」
「わかっているよ。護衛にも口止めしているから」
(あの時にいた他の二人は王子の護衛だったのかな。王子が命令して下されば、ジェイルが見られたことは他の人に知られる心配もないよね)
リセは深々と礼をした。
「サヴァード王子、本当にありがとうございます」
「だけど驚いたよ。近年の精霊は自然のバランスが崩れて不安定に暴れるばかりで、とても危険だと聞いていた。それなのに僕の見た光景は、君と精霊獣が恋人同士みたいに寄り添っていたからね」
「いえ、その。嫌われてはいないだけで……」
言いながら、自分を抱きしめて眠るジェイルの無防備な寝顔を思い出す。
(だけど、もしかしたらちょっとくらいは、その……クッキーの次くらいに好きでいてくれたら嬉しいけど。それは欲張りすぎ?)
真剣な様子でうつむくリセに、サヴァードは楽しそうな眼差しを送る。
「だけどリセは気づいていた? あの時、君と精霊獣の周囲だけ、木々や草がみずみずしくなっていたよ」
「えっ、そうなんですか?」
「僕の優秀な護衛たちも同じ意見だったから、間違いないと思うけれど。あれは精霊獣の力なのか気になってね」
「いえ、私も今はじめて知りました」
「不思議な光景を目撃して、僕も精霊の力に興味が湧いてね。昨今は、国内の自然の疲弊も深刻だから……あ、君が心配しているような精霊に危害を加えるような解決ではないよ。きちんと理解したいということだから、そこは誤解しないで」
「ありがとうございます。みんな、見たことが無くても怖がるので。そんな風に精霊獣に興味を持ってもらえて、とても嬉しいです」
「それなら良かった。それで、リセの知っている精霊の話を僕に教えてくれないかな」
「私の話ですか?」
「もちろん。だってリセは精霊獣の友達だからね。それとも恋人だったかな?」
「いえ、あの! 嫌われてはいないだけで! 目標は高めにクッキーの次で!」
「ん? ごめんごめん、冗談だよ。そんなにかわいい反応されたら、癖になりそうだけど」
(か、からかわれてるだけなんだ……。そうだよね、王子はジェイルの人型のことを知らないんだし。私きっと、変なところで動揺して話を逸らしてしまってる)
「あ、あの。私の知っている精霊の話は拙い知識です。それでもよろしければ」
「聞かせてよ」
そうしてリセはしばらく、自分の知っている精霊獣のことについて話した。
サヴァードは何から話せばいいのかわからないリセに上手く質問をするので、次第にリセの緊張感もほぐれていく。
(良かった。思ったよりずっと話しやすい方かも。精霊の話題なら、私でも人並みに会話出来そう)
そうは思ったが、その後は精霊にとどまらず互いの話などもなかなか盛り上がり、あっという間に時間が過ぎた。
「なるほどね。リセの話を聞いていて、今までの精霊と違う面を知った気がするな。僕だけじゃなく、みんながもっと正しい知識を身につけて、精霊について国内に周知していった方がいいかもしれないかもね。リセはどう思う?」
「そんな風に言っていただけて、とても嬉しいです」
「それならリセにも、僕の手伝いをしてみない?」
「私にできることがあるのなら、ぜひ」
「それなら一度、僕と王都に来てみないかな」
「王都、ですか……」
「君が人見知りなのは知っているから、無理強いはしないよ。でももし人目を避けたいのなら、僕の側妃として地方で静かに暮らすのがいいかもね」
「そうなんですか? 側妃とはどのような……ん? 側妃、とは、あの……えっ?」
驚いて言葉を失うリセに、サヴァードは相変わらずの笑顔を向ける。
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