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16・ありえないだろ(ジェイル視点)
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***
(ありえないだろ)
溺れ森で変化したその後、ジェイルはオース伯に借りている自室に戻って一人でいた。
食事もとらず、寝室で横になっているうちに部屋も暗くなり、先ほど変化も解けて、今は人の姿に戻っている。
久々の変化だったためか、肉体の疲労感がいつになく重苦しく、食欲もない。
しかしなにより気力を削いだのは、今日の感情任せな行動に走った後の、自分に対する嫌悪感だった。
(よりによってあの態度……。ガキか)
思い出すのは、溺れ森での一連のこと。
突然現れた金髪の男が、なれなれしくリセに話しかけてくるのも不愉快だったが、しかしそれすらどうでもよく感じるほど、ジェイルはリセにつまらないキスをした自分の軽率さに嫌気が差していた。
(ああ、気分悪い。昔どこかで見た色ボケ王子みたいだ)
ジェイルは以前護衛したことのある、駆け引きを楽しむように女を追い回すのが好きな優男風の王子を思い出す。
(あいつは自分の気に入った女が俺に寄ってくると、甘言浴びせた後無理やりキスしてその気にさせようとする、しょうもない男だったな)
ジェイルはそんな王子に絡まれても冷淡にあしらい、ただひたすらつまらない生き物を護衛しているような気持ちでいたが、まさに今の自分は彼と同類になった気分だった。
しかも甘言すら与えていないので、もっと質が悪い。
触ることすら嫌な相手にあんなことをされた場合、どう感じるかは容易に想像がついた。
(さらに嫌悪感が募る、の一択だろうな)
先ほどから吹く強風のせいか、窓が強く揺れる。
そんなことも気にならず、ジェイルは深々とため息ついた。
頭の中から離れないのは、口づけた直後のリセが真っ赤になっていた様子ではなく、青年が去った後の憂鬱そうにうつむいた無表情だ。
(表情が変わらなくてもわかるほど沈んでたな。見た目が精霊獣でも人型を知っているから、耐え難いほど嫌だったとか……)
窓の揺れが先ほどよりも強まる。
(ああ、なんだようるさい……ん。まさか)
ジェイルは身体を起こして窓を覗くと、夜の暗がりに華奢な女のシルエットを認めた。
「リセ?」
窓を開けると肌を刺すような風に吹きつけられる。
「おい、寒いだろ」
ジェイルは手を伸ばし急いで引き入れると、腕の中にいるリセは震えながら冷たい夜の匂いをまとわせていた。
(冷え切ってる)
思わず抱きしめかけたが、その気配を恐れるようにリセの細い身がすくむ。
ジェイルは無言の拒絶に落胆し、さっと腕を離して窓を閉めた。
リセは招かれると思っていなかったのか、落ち着かなさそうに辺りを見回している。
「座れよ」
ジェイルがベッドの向かいに置かれた椅子を指し示すと、リセは腰掛けた。
「あ、あの……私」
「どうして入り口から来ない?」
「ジェイルが奥の寝室にいたら、内鍵を開けるために入り口まで移動するのは遠いから。身体がつらいかもしれないと思って」
「それで寝室の窓か」
「驚いた?」
「上着くらい着ろ。冷えるだろ」
「それは気をつけたから大丈夫。ほら」
リセは何かを差し出してきたが、月明りだけではよくわからない。
(ありえないだろ)
溺れ森で変化したその後、ジェイルはオース伯に借りている自室に戻って一人でいた。
食事もとらず、寝室で横になっているうちに部屋も暗くなり、先ほど変化も解けて、今は人の姿に戻っている。
久々の変化だったためか、肉体の疲労感がいつになく重苦しく、食欲もない。
しかしなにより気力を削いだのは、今日の感情任せな行動に走った後の、自分に対する嫌悪感だった。
(よりによってあの態度……。ガキか)
思い出すのは、溺れ森での一連のこと。
突然現れた金髪の男が、なれなれしくリセに話しかけてくるのも不愉快だったが、しかしそれすらどうでもよく感じるほど、ジェイルはリセにつまらないキスをした自分の軽率さに嫌気が差していた。
(ああ、気分悪い。昔どこかで見た色ボケ王子みたいだ)
ジェイルは以前護衛したことのある、駆け引きを楽しむように女を追い回すのが好きな優男風の王子を思い出す。
(あいつは自分の気に入った女が俺に寄ってくると、甘言浴びせた後無理やりキスしてその気にさせようとする、しょうもない男だったな)
ジェイルはそんな王子に絡まれても冷淡にあしらい、ただひたすらつまらない生き物を護衛しているような気持ちでいたが、まさに今の自分は彼と同類になった気分だった。
しかも甘言すら与えていないので、もっと質が悪い。
触ることすら嫌な相手にあんなことをされた場合、どう感じるかは容易に想像がついた。
(さらに嫌悪感が募る、の一択だろうな)
先ほどから吹く強風のせいか、窓が強く揺れる。
そんなことも気にならず、ジェイルは深々とため息ついた。
頭の中から離れないのは、口づけた直後のリセが真っ赤になっていた様子ではなく、青年が去った後の憂鬱そうにうつむいた無表情だ。
(表情が変わらなくてもわかるほど沈んでたな。見た目が精霊獣でも人型を知っているから、耐え難いほど嫌だったとか……)
窓の揺れが先ほどよりも強まる。
(ああ、なんだようるさい……ん。まさか)
ジェイルは身体を起こして窓を覗くと、夜の暗がりに華奢な女のシルエットを認めた。
「リセ?」
窓を開けると肌を刺すような風に吹きつけられる。
「おい、寒いだろ」
ジェイルは手を伸ばし急いで引き入れると、腕の中にいるリセは震えながら冷たい夜の匂いをまとわせていた。
(冷え切ってる)
思わず抱きしめかけたが、その気配を恐れるようにリセの細い身がすくむ。
ジェイルは無言の拒絶に落胆し、さっと腕を離して窓を閉めた。
リセは招かれると思っていなかったのか、落ち着かなさそうに辺りを見回している。
「座れよ」
ジェイルがベッドの向かいに置かれた椅子を指し示すと、リセは腰掛けた。
「あ、あの……私」
「どうして入り口から来ない?」
「ジェイルが奥の寝室にいたら、内鍵を開けるために入り口まで移動するのは遠いから。身体がつらいかもしれないと思って」
「それで寝室の窓か」
「驚いた?」
「上着くらい着ろ。冷えるだろ」
「それは気をつけたから大丈夫。ほら」
リセは何かを差し出してきたが、月明りだけではよくわからない。
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