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14・好き勝手触っても安心安全
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辺りを見回すと、ジェイルは先ほどと同じようにそっぽを向いていた。
「あれっ? 気のせいかな。ジェイル、今何か言った?」
『いや別に』
「そっか……やっぱりそうだよね。早朝の溺れ森に他の人がいるわけないし。今の私、幸せ過ぎて幻聴が聞こえて、」
リセが言い終える前に男の声が響いた。
「やはりそこにいるのは精霊獣だな!」
少し離れた木々の合間に、長い金髪に薄い水色の瞳をした青年が立っている。
(他に人、いた!)
青年は女性にもてそうな上品さと、線は細いが今風の整った見た目をしていて、リセとジェイルを見て明らかに動揺していた。
「女性が精霊獣に襲われている。助けないと……」
リセは見知らぬ美形の青年に怯んだが、精霊獣が人を襲っていると誤解されたまま逃げ出すこともできない。
「待って、違うんです! あの」
リセは心を落ち着けようと無意識にジェイルに寄り添いながらも、必死に訴えた。
「あの、あの……あの! 安心して下さい。この精霊獣は、とても人懐っこいんです!」
「……精霊獣が?」
「見て下さい、私はそばにいても襲われていません。さっき抱き枕にしていたくらいです」
金髪の青年はわずかに冷静さを取り戻した様子で、少し離れたその場所から観察するような視線を向けてくる。
「さっきの君の姿は見間違いではなかったのか。君が精霊獣を抱きしめて幸せそうにしているのがあまりにも可憐だったからつい、見入ってしまったけれど」
「あ。もしかしてあの時『かわいい』と聞こえたのは空耳ではなくて……?」
リセがうっかり呟くと、青年は気恥ずかしそうに苦笑する。
「あれ、言葉にしていたか」
「えっ、あれは私の幻聴では……?」
「いや、不躾な言葉遣いですまなかったね」
青年は少し照れくさそうだが、どこかそういうことに慣れた様子で髪をかき上げる。
「無意識に口にしてしまったかな。君の微笑んでいる表情があまりにも魅力的だったから」
「微笑んで……? それは見間違いではないでしょうか。私、見た通り表情が出ない体質で、初対面の方にはよく気味悪がられています」
「確かに今は無表情だね……。だけど、その精霊獣の隣にいて本当に大丈夫なのか? どう見ても、牙を剥いているようだけど」
「えっ」
見ると、隣にいる銀狼は人でも食い殺しそうな凶悪な顔つきで殺気を放っていた。
「わっ……機嫌悪い?」
『いや別に』
それが精霊の言葉がわかるリセ以外の人に聞こえていないとしても、険のある態度はリセが青年に訴えた人懐っこさが全くない。
(ジェイル、何を怒ってるんだろう? ここで危険だと思われたら、捕まえられてしまうかもしれないのに)
ジェイルは相変わらず青年に睨みを利かせているので、リセは慌てて取り繕った。
「あの、見て下さい! この精霊獣は危険ではなく神々しいほど迫力があるだけで……見た目よりずっといい子なんです、ほら!」
リセは少しでも警戒心を解いてもらおうと、青年に見せつけるように銀狼と化したジェイルを無遠慮に触ったり乗ったり引っ張ったりする。
「ね、こんなに好き勝手触っても安心安全なんです!」
しかしリセの努力もむなしく、精霊獣のジェイルは今だ不機嫌な態度を改めようとしない。
(愛想、愛想をよくして!)
リセは心の中で訴えながら、隣のジェイルを覗き込んだ。
「ね! もしかして私以上に緊張しているのかな、っ?」
その一瞬、ジェイルは隙を盗むような動きでリセに口を重ねる。
「あれっ? 気のせいかな。ジェイル、今何か言った?」
『いや別に』
「そっか……やっぱりそうだよね。早朝の溺れ森に他の人がいるわけないし。今の私、幸せ過ぎて幻聴が聞こえて、」
リセが言い終える前に男の声が響いた。
「やはりそこにいるのは精霊獣だな!」
少し離れた木々の合間に、長い金髪に薄い水色の瞳をした青年が立っている。
(他に人、いた!)
青年は女性にもてそうな上品さと、線は細いが今風の整った見た目をしていて、リセとジェイルを見て明らかに動揺していた。
「女性が精霊獣に襲われている。助けないと……」
リセは見知らぬ美形の青年に怯んだが、精霊獣が人を襲っていると誤解されたまま逃げ出すこともできない。
「待って、違うんです! あの」
リセは心を落ち着けようと無意識にジェイルに寄り添いながらも、必死に訴えた。
「あの、あの……あの! 安心して下さい。この精霊獣は、とても人懐っこいんです!」
「……精霊獣が?」
「見て下さい、私はそばにいても襲われていません。さっき抱き枕にしていたくらいです」
金髪の青年はわずかに冷静さを取り戻した様子で、少し離れたその場所から観察するような視線を向けてくる。
「さっきの君の姿は見間違いではなかったのか。君が精霊獣を抱きしめて幸せそうにしているのがあまりにも可憐だったからつい、見入ってしまったけれど」
「あ。もしかしてあの時『かわいい』と聞こえたのは空耳ではなくて……?」
リセがうっかり呟くと、青年は気恥ずかしそうに苦笑する。
「あれ、言葉にしていたか」
「えっ、あれは私の幻聴では……?」
「いや、不躾な言葉遣いですまなかったね」
青年は少し照れくさそうだが、どこかそういうことに慣れた様子で髪をかき上げる。
「無意識に口にしてしまったかな。君の微笑んでいる表情があまりにも魅力的だったから」
「微笑んで……? それは見間違いではないでしょうか。私、見た通り表情が出ない体質で、初対面の方にはよく気味悪がられています」
「確かに今は無表情だね……。だけど、その精霊獣の隣にいて本当に大丈夫なのか? どう見ても、牙を剥いているようだけど」
「えっ」
見ると、隣にいる銀狼は人でも食い殺しそうな凶悪な顔つきで殺気を放っていた。
「わっ……機嫌悪い?」
『いや別に』
それが精霊の言葉がわかるリセ以外の人に聞こえていないとしても、険のある態度はリセが青年に訴えた人懐っこさが全くない。
(ジェイル、何を怒ってるんだろう? ここで危険だと思われたら、捕まえられてしまうかもしれないのに)
ジェイルは相変わらず青年に睨みを利かせているので、リセは慌てて取り繕った。
「あの、見て下さい! この精霊獣は危険ではなく神々しいほど迫力があるだけで……見た目よりずっといい子なんです、ほら!」
リセは少しでも警戒心を解いてもらおうと、青年に見せつけるように銀狼と化したジェイルを無遠慮に触ったり乗ったり引っ張ったりする。
「ね、こんなに好き勝手触っても安心安全なんです!」
しかしリセの努力もむなしく、精霊獣のジェイルは今だ不機嫌な態度を改めようとしない。
(愛想、愛想をよくして!)
リセは心の中で訴えながら、隣のジェイルを覗き込んだ。
「ね! もしかして私以上に緊張しているのかな、っ?」
その一瞬、ジェイルは隙を盗むような動きでリセに口を重ねる。
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