【完結】精霊獣を抱き枕にしたはずですが、目覚めたらなぜか国一番の有名人がいました

入魚ひえん

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20・嫌ってないけど

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 ジェイルの戸惑いには気づかず、リセは静かに目を伏せる。

「ジェイルは優しいから隠してくれてるけど、やっぱりわかるから」

「何が?」

「だって私、自分が失礼なことばかりしていたのに。ジェイルに嫌われていることがずっと悲しくて」

「嫌ってないけど」

「……え?」

「どっちかっていうと、俺のことを毛嫌いしてるのはリセだろ」

「私?」

 リセが目をしばたくと、ジェイルは最近癖になったような、いつものため息をつく。

「リセにとって俺は耐え難いほど気持ちの悪い存在なんだろ。見ると目を背けるし、近くにいたら距離取るし、触ったら倒れるし……俺はあの虫か」

「全然、全然違うよ!」

 冗談にしては重すぎる自虐を交えるジェイルに、リセは今さらながら申し訳ない気持ちでいたたまれなくなった。

「それは誤解だよ! 会ったばかりの時は、ジェイルがその、私と程遠い人というか、あまりにもすごい人過ぎて緊張してしまっただけで、嫌ってなんかいない。だって私、ジェイルのこと……」

 リセはジェイルにじっと見つめられていることに気づくと、やはり視線を逸らした。

「今だって、見たくないわけじゃなくて。ジェイルがこんなに近くにいるから、ドキドキしてしてるだけで。断じて、あれとは別種で……」

 リセは胸の内を明かしながら、自分の顔がどんどん赤くなってくるのがわかる。

「嫌ってなんかいないよ。逆に私、ジェイルに嫌われたくなくて。でもどうすればいいのかわからなくなっていたら、涙が出てきて」

「それは泣き損だったな」

「……泣き損?」

「嫌ってるわけないだろ」

 ジェイルは慈しむように、リセの艶やかな黒髪を指で梳いた。

「だいたい俺のどこに、お前を嫌ってる要素がある? 俺の中では相当、親切丁重に接してるんだけど」

「だってジェイル、今日は私が声をかけると機嫌悪いし、目が合ったらすぐ逸らすし。さっきだって触ったら手を払って「帰れ」って」

「そう言われてみると、かなり感じ悪い奴だな」

「それに、あのキスだって……」

 リセが一段小さな声でつぶやくと、ジェイルは少し言葉に詰まる。

「あれは……嫌な思いをさせたな。悪かった。あんな態度取っておいて、許してもらえないとは思うけれど」

「そ、そんな大げさなことじゃないよ。私、怒ったりしてない、全然」

「だけどあんな嫌そうに……」

「嫌じゃない。ただ、ジェイルは何も教えてくれないし、悲しかった。私のことなんて、どうでもいいみたいだったから」

 どこか不満げな響きに気づくと、ジェイルはリセの唇をとらえるように、その顎に手を添えた。

「やり直す?」

 誘うような囁きと息が、リセの唇を撫でる。

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