【完結】精霊獣を抱き枕にしたはずですが、目覚めたらなぜか国一番の有名人がいました

入魚ひえん

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11・悪癖(ジェイル視点)

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 ジェイルはソファに寝そべって顔を本で隠したまま、片手を伸ばして宙ぶらりんにする。

「リセ」

 触れて、とは言わなかった。

 けれど物欲しそうな指で暗示している。

 リセに相当嫌われていることはわかっているので自制しているつもりだが、うっかり芽生えたこの思いは時折顔を出し、最近のジェイルはこうやって指先をねだる自分の悪癖に悩まされていた。

(俺も相当酷いな。触ったら気を失うほど嫌がられるのを知ってやってるんだ。しかも見返りも与えないで)

 罪悪感の中、視界が遮られていても勘の良いジェイルにはリセの動揺と、緊張と、そしてゆっくり近づく気配が手に取るように分かり、物欲しがる幼子になったような気持ちでじっと待つ。

 必死に平静を装っていると、指先が重なった。

 触れた所からジェイルの不快な重苦しさが取り払われるように、リセの癒しの力で倦怠感が抜けていく。

 その不快感からの解放を味わっていると、今度は触れている指をとらえて引き寄せ、思い切り抱きしめてしまいたい欲望が顔を出した。

(待て。さすがに待て俺)

 抑えがたいほどの衝動に、ジェイルはまだ触れていたい指先を離す。

「あっ……ジェイル、少しは良くなった?」

「ああ、そうだな」

 適当にごまかし、出かけたため息を慌ててのみ込んだ。

(割と理性的な方だと思ってたけど、そうでもない。全然、ないな)

 リセが再び掃除を始めた気配がする中、ジェイルは内に秘めた未知の衝動にさいなまれる。

(本当、俺……ろくでもない。リセの望んでいる抱き枕すらまともに渡していないのに、嫌がらせばかりして。なんだよ一体。衰弱した身体が治癒を求めているせいなのか?)

 今のようにジェイルは時折リセに触りたくて仕方なくなるが、会った頃に何度も全力で拒絶されているのであまり手荒なこともしたくない。

(……五年だ。五年も探すほど感謝し続けている相手の正体が、おそらく世界で一番嫌いな見た目をしていたんだ。俺は何も悪くないはずだけど良心は一応ある。せめて見返りを渡せるまでは、もう無暗に触るのは控える。控えるからな)

 何度も破った決意を再び胸の中で繰り返しているうちに、ジェイルの記憶の片隅にいつもいた、心細そうに泣いている少女だったリセが浮かんできた。

 全身で泣いているあの悲痛な姿を思い出すと、棘が食い込むように胸が疼く。

(あれから幸せになったって言ってたけど、表情はどこに置いてきたんだろうな)

 ジェイルは精霊獣に変化すると大抵疲れるのであまりなりたくなかったが、リセに手が出ない分身勝手な真似をしなくて済むような気もしたし、自分を抱き枕にしていた時のリセを思い出すと、物欲しい気持ちにもなる。

(笑ってたもんな)

 無表情も悪くないが、ジェイルは自分に抱きついて幸せそうに顔を緩めるリセを思い出すと、また会いたくて仕方なかった。

(最近の俺、おかしい)

 リセと会う前の自分は、割と淡泊な思考をしていると信じていたが、最近はひたすら慣れない欲望と理性のせめぎ合いに疲れている。

(とりあえず、変化したい……)

 またため息が出た。 



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