【完結】精霊獣を抱き枕にしたはずですが、目覚めたらなぜか国一番の有名人がいました

入魚ひえん

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13・睡魔も吹き飛ぶ

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(わ、ふわふわ。気持ちいい)

 それまでのためらいが消えてしまうほど、滑らかで柔らかい銀毛がリセを包みこむ。

 リセはそのうっとりとする感触を存分に堪能しながらも、初めて会ったときとは違う不思議な緊張感に気づいた。

(なんだろう。前の方がもっと自由な気持ちで抱きつけたのに。今は、なんだか怖くてできない)

 そう思ったが、嫌な感じでもない。

(ドキドキするけど、初めて会った精霊獣のジェイルに対する高揚感や、人の姿を前にしたときの恐怖感とは違う気がする)

 幸せなのに胸の奥が苦しいような、不思議なもどかしさがあった。

『リセの力、本当に効果あるな。身体が軽くなる』

 森の梢を見上げながらぽつりと呟く精霊獣の横顔を、リセは見つめる。

「やっぱりジェイル、ずっと具合が悪いの?」

『まぁ割と』

(そうなんだ……)

「つらい時は言ってね。ジェイルが嫌じゃなければ、その……私が触れば、人の姿の時でも楽になるんだよね?」

『さぁ、どうだったかな』

「私、真面目に聞いてるよ」

『わかってるって。とりあえず少し肩の力抜け』

 ジェイルのふさふさの尾が、リセの背を包むように寄り添った。

(なんだか、ごまかされてる気がする。私に触られるのそんなに嫌なのかな)

 リセは極度の人見知りによってやってしまった様々な無礼に思い当たり、罪悪感にぐさりと突き刺される。

(失礼な態度ばかりだったから、嫌われて仕方ないかも)

 リセは沈んだ心のまま、自分を包んでいる抱き枕を、いつもより苦い気持ちで抱きしめた。

(そうだよね。ジェイルは優しいから隠してるけど、あんな酷いことばかりしてきたんだから、きっと本音は……)

 それを言葉にするとジェイルに「違う」「勘違い」などとごまかされる気がしたので、胸の内だけで呟く。

(体調を整えるためだとしても。私がこうして触ってるの、嫌だったらごめんね)

『どうした』

「えっ」

『なんか、妙な気配。思いつめてないか?』

「……また、優しい」

『何言ってんだ? 今日は天気も風もいいし。ようやく手に入った抱き枕でもうひと眠りすれば?』

「だけどジェイルは、私がくっついていて、その……ちょっと嫌じゃない?」

『いや、ようやく抱き枕を渡せてほっとしてる。お前が触れていれば身体も楽だし。好きに使ってくれ』

 律儀に抱き枕の役目を果たそうとするジェイルにリセは少し迷うが、身体を預けているもふもふな居心地の良さを意識してしまうと抗えなくなり、その感触を思い切り堪能するように瞳を閉じた。

(やっぱり、ジェイルにくっついているとほっとする)

 リセはそのまま甘えたいような気持ちになって、黙ってその柔らかな毛並みに身をうずめる。

 そうして触れているだけで治癒の力を使っているため、しだいに心地よい疲労感が滲んできて眠気を誘い、リセの瞼が重くなってきた。

『かわいいな』

 リセは睡魔も吹き飛ぶ言葉を受け、目を見開く。

「えっ、え……?」

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