【完結】精霊獣を抱き枕にしたはずですが、目覚めたらなぜか国一番の有名人がいました

入魚ひえん

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12・変化の予兆

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「ジェイル……大丈夫?」

 早朝の溺れ森に、リセの不安な声が吸い込まれていく。

 返事はない。

(まさか、変化の予兆が出るなんて)

 リセは何度も、木々に囲まれたその先を覗き込みたい気持ちに駆られたが、そこに衣類を脱いだ人の姿のジェイルがいる可能性を考えてしまい、一人やきもきしていた。

(こんなことにならないために、待っていて欲しかったのに)

 ここ数日、ジェイルの体調は思わしくなく、寝込むことが増えている。

 そのためリセは寝る間も惜しんで色々な書物を調べて、ジェイルが周囲の自然に影響を受けやすい精霊獣である可能性を突き止めた。

 そして一番影響を受けそうな場所、溺れ森を調べに行こうと思っている話を何気なくすると、ジェイルは護衛をすると譲らないため、リセが負けて一緒に来たところ変化の予兆が現れたらしい。

 念のためまだ薄暗いほどの早朝で、ひとけのない場所でもあったが、見られる可能性や体の不調は平気なのかとリセは心配ばかりで落ち着かない。

『待たせたな』

 木々の間から、背に乗れそうなほど大きな銀狼が現れた。

 そのうっとりとするほど神秘的な佇まいに、リセの心臓は高鳴り、自然と胸を手で押さえてしまう。

(ほ、本物……。また会えたんだ)

 精霊獣は相変わらず精悍な立ち姿だが、毛は触れれば手が吸い込まれてしまうように柔らかそうで、風になびくと七色の光をちりばめたようにきらめいた。

(綺麗、かっこいい、触りたい。けど……)

 今すぐ駆け込んでその最高の感触を求める衝動に駆られたが、リセは空いている時間のほとんどをジェイルと過ごしていたため、精霊の姿より人の印象が強くなっている。

(思えば初めに会った頃の私、助けたからといって、怪我を治すためだからといって、嫌がるジェイルに無理やり抱きついて離さない、欲望にまみれた変態だったんだ……)

『リセ、どうした』

 以前のように飛びついてくる様子のないリセを前に、精霊獣に変化したジェイルは不思議そうに近づいて来た。

 リセも同じ速度で後ずさる。

「あの、その……嫌がられても無視してくっついていたけれど、本来なら恥じらうべきだったと猛省していて」

『今さらか』

 ジェイルは心底がっかりした様子で息を吐いた。

「あの時はごめんなさい」

『そうじゃなくて……。俺も何も返さずごろごろしているは苦痛だったんだ。ようやく精霊獣になったんだから、使えよ』

「触ってもいいの?」

『抱き枕が欲しかったんだろ。ほら』

 その言葉に、リセの胸の奥で鼓動が強まる。

 ジェイルは近ごろ「寄るな」「見るな」「近づくな」とあまりリセを寄せ付けようとせず、嫌われているのかもしれないと気になっていたので、素直に嬉しかった。

(だけど前の時みたいに夢中に抱きついてしまったら、また嫌がられるかも。気をつけないと)

 腹ばいで座って待っている銀狼の元へ、リセはぎこちない歩き方で近づく。

「あのね、ジェイル。緊張するから……私のこと、あまり見ないでくれる?」

『あ、そう』

 ジェイルがわざとらしく顔を背けたのを確認すると、リセは腹の辺りにかがみ込み、恐るおそる身体を預けた。

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