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8・匿う目的
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「悪かったな。さっき」
リセはようやく、先ほど自分が倒れたことでジェイルが哀れなほど落ち込んでいるのだと気づいて慌てた。
「謝らないで下さい。ジェイル様は気さくに接して下さろうとして、すごくありがたいことなのに。私がずっと失礼な態度を取っているせいです」
「違う。俺が考えなしだった」
いつもの飄々とした様子が消し飛ぶほどうなだれたジェイルを、リセは意外に思う。
(ジェイル様には数えきれないほどの噂があるけれど、落ち込んだ話なんてひとつも聞いたこともないのに……。ケンカをして嫌われたり、ズルい人に裏切られたり、わがままな女性に罵られたりしても、いつも面白おかしく相手の態度を受け流せるくらい、色々な経験を積んでいる方だと……)
そこまで考え、リセはひとつの可能性に思い当たった。
(もしかして、はじめて? みんなの憧れる才能と容姿を持ったジェイル様が仲良くしようと手を差し伸べて「見た目や雰囲気が気絶するほど受け付けません」なんて無礼者……)
相変わらず覇気なくうなだれている伝説の大魔術師の姿に、リセの無表情が青ざめていく。
「ジェイル様! あの、私」
「もう謝るのはやめろ。ただ俺が浅はかだっただけだ。リセが無理する必要はないし、好きなだけ俺を避ければいい」
(拗ねてる)
ジェイルは相変わらず絵になるほど美しい佇まいだったが、その横顔が物憂げなせいか、リセの苦手に感じる要素がいつもより薄れている。
(ジェイル様は少し気が短いけど、私のために仲良くなろうとしてくれただけなのに……)
リセは胸の内で謝りながら、威圧感すら影を潜めたジェイルに向かって何度も怯みつつ、必死に言葉を押し出した。
「元気出して……ジェイル」
リセの声色はぎこちなかったが、今は少しでもジェイルと親しく話せるようになりたい一心だった。
それが伝わったのか。
ジェイルはしばらくの間考え込んでいたが、やがて深く息を吐く。
「悪いな。最近は本当に変化がコントロール出来ない。だからここで世話になる間、リセが望む分だけ抱き枕になってやるのは無理だけど」
「えっ。あんなにもふもふされるのを嫌がってたのに、そんな魅力的な提案なんて一体どうしてです……なの?」
「リセが失神するほど嫌な俺のこと匿う目的なんて、抱き枕が欲しいからだろ? 精霊獣に対してのお前の執念すごいからな」
「事情を知る前は、そうでした……だったけど」
リセは昨夜、傷だらけで倒れていた精霊獣の姿を思い出す。
「もしジェイルの体質が知られたら、きっと乱暴なことをしてでも捕まえようとする人がたくさん出てくる。例えどんなに強い人でも一人だったら、本当に怖いことを考える集団から逃げ切るのは難しいって、お父様も言ってた」
「そんな俺を匿ってるのがバレたら、リセも結構危ないからな」
その言葉に、リセは精霊獣だったジェイルの背中にしがみついていた時の思いがよぎった。
(あの時のことは怖くてよく思い出せないけど。ジェイルが私を安心させようと言葉をかけてくれて、ずっと離れたくないほど居心地が良くて……)
「相変わらず優しいんだね。今だってそんな風に私のことを心配してくれて」
「違うな。俺はただ事実を話してる。リセは気に入った思い出を美化しているだけだ」
「例えそうだとしても、私はあの時……五年前溺れ森に一人でうずくまっていていた時。ジェイルが来てくれて、すごく嬉しかったんだよ」
リセはようやく、先ほど自分が倒れたことでジェイルが哀れなほど落ち込んでいるのだと気づいて慌てた。
「謝らないで下さい。ジェイル様は気さくに接して下さろうとして、すごくありがたいことなのに。私がずっと失礼な態度を取っているせいです」
「違う。俺が考えなしだった」
いつもの飄々とした様子が消し飛ぶほどうなだれたジェイルを、リセは意外に思う。
(ジェイル様には数えきれないほどの噂があるけれど、落ち込んだ話なんてひとつも聞いたこともないのに……。ケンカをして嫌われたり、ズルい人に裏切られたり、わがままな女性に罵られたりしても、いつも面白おかしく相手の態度を受け流せるくらい、色々な経験を積んでいる方だと……)
そこまで考え、リセはひとつの可能性に思い当たった。
(もしかして、はじめて? みんなの憧れる才能と容姿を持ったジェイル様が仲良くしようと手を差し伸べて「見た目や雰囲気が気絶するほど受け付けません」なんて無礼者……)
相変わらず覇気なくうなだれている伝説の大魔術師の姿に、リセの無表情が青ざめていく。
「ジェイル様! あの、私」
「もう謝るのはやめろ。ただ俺が浅はかだっただけだ。リセが無理する必要はないし、好きなだけ俺を避ければいい」
(拗ねてる)
ジェイルは相変わらず絵になるほど美しい佇まいだったが、その横顔が物憂げなせいか、リセの苦手に感じる要素がいつもより薄れている。
(ジェイル様は少し気が短いけど、私のために仲良くなろうとしてくれただけなのに……)
リセは胸の内で謝りながら、威圧感すら影を潜めたジェイルに向かって何度も怯みつつ、必死に言葉を押し出した。
「元気出して……ジェイル」
リセの声色はぎこちなかったが、今は少しでもジェイルと親しく話せるようになりたい一心だった。
それが伝わったのか。
ジェイルはしばらくの間考え込んでいたが、やがて深く息を吐く。
「悪いな。最近は本当に変化がコントロール出来ない。だからここで世話になる間、リセが望む分だけ抱き枕になってやるのは無理だけど」
「えっ。あんなにもふもふされるのを嫌がってたのに、そんな魅力的な提案なんて一体どうしてです……なの?」
「リセが失神するほど嫌な俺のこと匿う目的なんて、抱き枕が欲しいからだろ? 精霊獣に対してのお前の執念すごいからな」
「事情を知る前は、そうでした……だったけど」
リセは昨夜、傷だらけで倒れていた精霊獣の姿を思い出す。
「もしジェイルの体質が知られたら、きっと乱暴なことをしてでも捕まえようとする人がたくさん出てくる。例えどんなに強い人でも一人だったら、本当に怖いことを考える集団から逃げ切るのは難しいって、お父様も言ってた」
「そんな俺を匿ってるのがバレたら、リセも結構危ないからな」
その言葉に、リセは精霊獣だったジェイルの背中にしがみついていた時の思いがよぎった。
(あの時のことは怖くてよく思い出せないけど。ジェイルが私を安心させようと言葉をかけてくれて、ずっと離れたくないほど居心地が良くて……)
「相変わらず優しいんだね。今だってそんな風に私のことを心配してくれて」
「違うな。俺はただ事実を話してる。リセは気に入った思い出を美化しているだけだ」
「例えそうだとしても、私はあの時……五年前溺れ森に一人でうずくまっていていた時。ジェイルが来てくれて、すごく嬉しかったんだよ」
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