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4・表情がなくなってる
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ジェイルはリセの頬に手を添えたまま、心配するように見つめる。
「お前、どうしたんだ。朝からずっと違和感あったけれど……表情がなくなってる」
ジェイルの言う通り、リセの顔は心を持たない人形のように感情が見当たらなかった。
無表情のままリセは目の前にいる非常事態に青ざめ、か細い声で訴える。
「こ、この顔は元からです。お願い、離して……」
「元から? だけど夜はあんなにへらへらして……ん。おいリセ、聞いてるか?」
リセは顔面蒼白で固まっていた。
そこで扉のノックが鳴り、返事も待たず慣れた様子で侍女のテニーが入って来る。
「あら、お嬢様。物音がすると思ったら自分で起きられたのかしら! 今日の調子は良さそう……」
「おい。リセの様子がおかしい。表情がなくなってる」
「お嬢様の表情がない? そんなのいつものことで……」
快活な侍女は不意の侵入者にうっかり返事をしたが、ベッドの側に座り込むリセと、彼女の頬を手に添えている美しい男に気づき、顔を驚愕に歪めた。
「わっ! お嬢様の天敵を具現化したような美形の男!?」
「……その評価、どう受け取ればいいんだ」
「私はとても好みということです!」
侍女は頬を染めて言い切った。
「と言いますか、あなたのその美しさならリセお嬢様以外どんな女性でも落とせるのでは? って、あら……」
侍女は男の浅黒く引き締まった身を包むガウン姿に気づき、さらに寝室を見回して目を白黒させる。
「まさかあなた、リセお嬢様まで……?」
「待て。俺にも色々言い訳がある」
「言い訳する時点で有罪でしょう! あの精霊にしか興味を示さないお嬢様が、あわわ……お嬢様」
侍女はジェイルからリセを引きはがすと、放心しているリセを慣れた様子で揺さぶりながら現実に引き戻す。
「……テニー?」
「おはようございますお嬢様! そしてどういうことですか! 人に対しては残念なほど奥手なお嬢様が、最も苦手そうな魅力的な殿方と寝所を共にするなんて。もし旦那様に知られたら……!」
「どうなるんだ、俺」
ジェイルはあまり気にしていない様子で、ベッドに腰掛ける。
リセは興奮気味の侍女を前に、のんきに意識を失っている場合ではないと我に返った。
(そうだ。精霊獣だけでも危険だって捕縛の対象なのに……人が精霊獣の姿になるなんて知られたら、ジェイルはきっと追われて捕まって、まともな生活なんて出来なくなる)
「ま、待ってテニー。ジェイルのことはお父様に……ううん。誰にも言わないで」
「ジェイル……?」
(あっ、名前は言わないほうが良かったかもしれない)
リセが気づいたときには遅く、侍女はジェイルを見て、見る見るうちに表情が強張っていく。
「ま、まさか。あなたは……」
「えっ? どうしたの、テニー」
「まさかその名は、ジェイル様? もしかしてあのジェイル様ですか?」
「あ……ばれた。リセは今まで気づかなかったけど」
「えっ」
リセを嫌な予感がかすめる。
(まさか……)
言われてみると確かに、その名はある人物と同じだと思い当たった。
リセだけではなく、この国の者なら誰もが知っている。
しかしそれは遠い世界のものでもあり、リセは先ほどまで人ではなく精霊獣のものだと思い込んでいた。
「ジェイル・ラドリアウス・テネージュ……」
「正解」
リセが無表情のまま振り返ると、この国一番の誉れと名高い美貌の魔術師は不敵に微笑んだ。
「お前、どうしたんだ。朝からずっと違和感あったけれど……表情がなくなってる」
ジェイルの言う通り、リセの顔は心を持たない人形のように感情が見当たらなかった。
無表情のままリセは目の前にいる非常事態に青ざめ、か細い声で訴える。
「こ、この顔は元からです。お願い、離して……」
「元から? だけど夜はあんなにへらへらして……ん。おいリセ、聞いてるか?」
リセは顔面蒼白で固まっていた。
そこで扉のノックが鳴り、返事も待たず慣れた様子で侍女のテニーが入って来る。
「あら、お嬢様。物音がすると思ったら自分で起きられたのかしら! 今日の調子は良さそう……」
「おい。リセの様子がおかしい。表情がなくなってる」
「お嬢様の表情がない? そんなのいつものことで……」
快活な侍女は不意の侵入者にうっかり返事をしたが、ベッドの側に座り込むリセと、彼女の頬を手に添えている美しい男に気づき、顔を驚愕に歪めた。
「わっ! お嬢様の天敵を具現化したような美形の男!?」
「……その評価、どう受け取ればいいんだ」
「私はとても好みということです!」
侍女は頬を染めて言い切った。
「と言いますか、あなたのその美しさならリセお嬢様以外どんな女性でも落とせるのでは? って、あら……」
侍女は男の浅黒く引き締まった身を包むガウン姿に気づき、さらに寝室を見回して目を白黒させる。
「まさかあなた、リセお嬢様まで……?」
「待て。俺にも色々言い訳がある」
「言い訳する時点で有罪でしょう! あの精霊にしか興味を示さないお嬢様が、あわわ……お嬢様」
侍女はジェイルからリセを引きはがすと、放心しているリセを慣れた様子で揺さぶりながら現実に引き戻す。
「……テニー?」
「おはようございますお嬢様! そしてどういうことですか! 人に対しては残念なほど奥手なお嬢様が、最も苦手そうな魅力的な殿方と寝所を共にするなんて。もし旦那様に知られたら……!」
「どうなるんだ、俺」
ジェイルはあまり気にしていない様子で、ベッドに腰掛ける。
リセは興奮気味の侍女を前に、のんきに意識を失っている場合ではないと我に返った。
(そうだ。精霊獣だけでも危険だって捕縛の対象なのに……人が精霊獣の姿になるなんて知られたら、ジェイルはきっと追われて捕まって、まともな生活なんて出来なくなる)
「ま、待ってテニー。ジェイルのことはお父様に……ううん。誰にも言わないで」
「ジェイル……?」
(あっ、名前は言わないほうが良かったかもしれない)
リセが気づいたときには遅く、侍女はジェイルを見て、見る見るうちに表情が強張っていく。
「ま、まさか。あなたは……」
「えっ? どうしたの、テニー」
「まさかその名は、ジェイル様? もしかしてあのジェイル様ですか?」
「あ……ばれた。リセは今まで気づかなかったけど」
「えっ」
リセを嫌な予感がかすめる。
(まさか……)
言われてみると確かに、その名はある人物と同じだと思い当たった。
リセだけではなく、この国の者なら誰もが知っている。
しかしそれは遠い世界のものでもあり、リセは先ほどまで人ではなく精霊獣のものだと思い込んでいた。
「ジェイル・ラドリアウス・テネージュ……」
「正解」
リセが無表情のまま振り返ると、この国一番の誉れと名高い美貌の魔術師は不敵に微笑んだ。
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