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3・抱き枕にできない
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ガウンを羽織った男が妖艶な笑みを浮かべると、リセは殴られた様に顔を背ける。
「あなたのことはもういいです。それより、この部屋にいた私の命より大切な精霊獣を見ませんでしたか? ジェイルと言う名で、神秘的な狼みたいな。あんなに美しい生命は他にいないと断言できる奇跡のもふもふ感を持った精霊です」
「リセの目の前にいるだろ」
「えっ」
リセは正面に男しかいないので辺りを見回した。
「すみません、あなたしか見つけられません。私が探しているのは精霊獣なんです」
「俺がお前の探しているジェイルだよ」
「……」
「どうして絶句する」
「だって人が精霊になるなんて神話でしか聞かないし、真顔で変なこと言う人だと思って……。あっ、あなたは恵まれた容姿をしているけれど、頭の方はイマイチなんですね?」
「それなら裸の俺がどうやって、何のためにこの部屋にいるのか説明できるか」
「それは……」
「お前のおかげで助かったよ。もともとそういう体質だったんだけど、一年くらい前から徐々にコントロールが利かなくなってきて、突然あの姿に変化することが増えてきたんだ。それで人目を避けて生活していたんだけど昨夜はつい、久々に酒を飲んだせいか気が緩んで変化したところをたちの悪い奴に見つかって……結構危なかったから」
リセはまだ信じられなかったが、出て行った様子のない精霊獣の姿が見当たらず、代わりのようにいる男の銀の毛や瞳の色は精霊獣と一致している。
精霊獣の時は嫌がられても好き勝手抱きついていたリセだが、人の姿だとその美しさが威圧感のようにしか思えず、深い落胆に突き落とされた。
「抱き枕にできない……」
「したいのか? ほら」
ジェイルが両腕を広げて、ガウンのはだけた胸元へ飛び込んでくるのを待っている。
リセはぶんぶんと首を振って拒否した。
「無理です」
「え? なんだよ急に。昨日は嫌がる俺をあんな」
「あれは精霊獣だったから……!」
「俺だよ」
「そ、そうだとしても、私にとっては全く別なんです。精霊獣は大好きだけど、人間は怖くて……。特にあなたのような優秀な素材で作られた集合体の男性が最も苦手で、近づくと動悸が……」
「俺が精霊獣だったときも、くっついてきたリセの心臓の音はバクバクしてたはずだけど」
「あ、あれはときめきの方で、今は危機的状況の方です。あなたの存在は、私にとって恐怖の権化なんです」
「そんな拒絶……はじめて言われた」
ジェイルはそこそこ傷ついた様子で苦笑を浮かべている。
「ごめんなさい、つい本音が……。確かにあなたは全く悪くないんです。むしろ人類代表だと思います。私がただ情けなくて、そういう人がものすごく苦手なんです」
「そうか。人が怖いって、こういう意味だったのか?」
「夜に話したことを知っているってことは、やっぱりあなた……!」
「だからジェイルは俺だって……ん? 夜と様子が違うと思ったけれど、リセ」
ジェイルはベッドから素足で降りると、床に座り込むリセの前にかがんだ。
「ひっ、来ないで!」
緊張で身をすくませたリセの頬にたくましく骨張った手が添えられると、顔を上げさせられる。
「あなたのことはもういいです。それより、この部屋にいた私の命より大切な精霊獣を見ませんでしたか? ジェイルと言う名で、神秘的な狼みたいな。あんなに美しい生命は他にいないと断言できる奇跡のもふもふ感を持った精霊です」
「リセの目の前にいるだろ」
「えっ」
リセは正面に男しかいないので辺りを見回した。
「すみません、あなたしか見つけられません。私が探しているのは精霊獣なんです」
「俺がお前の探しているジェイルだよ」
「……」
「どうして絶句する」
「だって人が精霊になるなんて神話でしか聞かないし、真顔で変なこと言う人だと思って……。あっ、あなたは恵まれた容姿をしているけれど、頭の方はイマイチなんですね?」
「それなら裸の俺がどうやって、何のためにこの部屋にいるのか説明できるか」
「それは……」
「お前のおかげで助かったよ。もともとそういう体質だったんだけど、一年くらい前から徐々にコントロールが利かなくなってきて、突然あの姿に変化することが増えてきたんだ。それで人目を避けて生活していたんだけど昨夜はつい、久々に酒を飲んだせいか気が緩んで変化したところをたちの悪い奴に見つかって……結構危なかったから」
リセはまだ信じられなかったが、出て行った様子のない精霊獣の姿が見当たらず、代わりのようにいる男の銀の毛や瞳の色は精霊獣と一致している。
精霊獣の時は嫌がられても好き勝手抱きついていたリセだが、人の姿だとその美しさが威圧感のようにしか思えず、深い落胆に突き落とされた。
「抱き枕にできない……」
「したいのか? ほら」
ジェイルが両腕を広げて、ガウンのはだけた胸元へ飛び込んでくるのを待っている。
リセはぶんぶんと首を振って拒否した。
「無理です」
「え? なんだよ急に。昨日は嫌がる俺をあんな」
「あれは精霊獣だったから……!」
「俺だよ」
「そ、そうだとしても、私にとっては全く別なんです。精霊獣は大好きだけど、人間は怖くて……。特にあなたのような優秀な素材で作られた集合体の男性が最も苦手で、近づくと動悸が……」
「俺が精霊獣だったときも、くっついてきたリセの心臓の音はバクバクしてたはずだけど」
「あ、あれはときめきの方で、今は危機的状況の方です。あなたの存在は、私にとって恐怖の権化なんです」
「そんな拒絶……はじめて言われた」
ジェイルはそこそこ傷ついた様子で苦笑を浮かべている。
「ごめんなさい、つい本音が……。確かにあなたは全く悪くないんです。むしろ人類代表だと思います。私がただ情けなくて、そういう人がものすごく苦手なんです」
「そうか。人が怖いって、こういう意味だったのか?」
「夜に話したことを知っているってことは、やっぱりあなた……!」
「だからジェイルは俺だって……ん? 夜と様子が違うと思ったけれど、リセ」
ジェイルはベッドから素足で降りると、床に座り込むリセの前にかがんだ。
「ひっ、来ないで!」
緊張で身をすくませたリセの頬にたくましく骨張った手が添えられると、顔を上げさせられる。
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