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65・お祝いの時間

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「アドレ……」

 レオルが否定も肯定もせず黙っているので、フロイデンは言いなおした。

「色々とありがとう……レオル」

 フロイデンは少し寂しそうだけれど、もうあの名を呼ばずに上着を受け取った。

「心の整理がついたら、まだ聞きたいことがあるんだ。君の姉のことを……」

「わかったよ、フロイ」

 以前はそう呼ばれていたのか、フロイデンは少し驚いたようにレオルを見つめていたけれど、ふいと顔を背けて、盛り上がっている男たちを伴って去っていく。

 私が隣を見上げると、レオルは晴れやかな顔をしていた。

「レオルは結局、自分で自分の悩みを解決してしまったのね。私、あなたの力になりたかったけれど、結局何もできなかったわ」

「俺のこと、待っていてくれたんだろ? 例え人質になったとしても、リシアなら大丈夫だってわかっているつもりだけど……それでも姿を見るまでは、生きた心地なんてしなかったよ。無事で本当に良かった」

「そんな期待を、危なく裏切るところだったわ。私、レオルのためなら、彼らを葬るくらいするもの」

「つまり……心配すべきはリシアじゃなく、あいつらの方だったんだな」

「そうね。だけどさっきフロイデンに刺されかけて、私もちょっと危なかったのよ」

「それ、ちょっとではないな。かなり危ないだろ」

「そうかもしれないわ。だけど私、フロイデンが大切な人を失った気持ちを想像していたら苦しくなって、身体が思うように動かなかったの。でも私に何かあったら、レオルが悲しむのよね。そんなこと、させないわ」

 私はレオルと二人で、ディノにケーキを買った帰り道のことを思い出す。

 あの時、必要なら離れる覚悟もしていた寂しい私をレオルが励ましてくれたことは、今も私の中に残っている。

「会えなくなることは、私だけの問題ではないのよね」

 ふと口にした思いが強く胸に刺さるように痛んで、瞳に熱いものがにじんでくる。

 泣き出したいほどの切実な思いに、だけど不思議と微笑んでいた。

「私、まだレオルと一緒にいたいわ」

 これからも、そうでありたい。

 レオルの手が伸びて、何かを伝えてくるように私の頬に触れる。

 気づけば自然と、私たちは見つめ合っていた。

 言葉の代わりに、お互いの影が寄り添って一つになる。

 夜の静けさが心地よかった。

「にゃーん」

 今まで出したことのない猫のような鳴き声で、収納袋から首だけを出してこっちを見ているディノが、失ったケーキの作り直しを待ちわびている。

 すっかり忘れていてたけれど、だいぶ長いこと放置していたわ。

 これ以上忘れているのもかわいそうだし、私がどうしても欲しかった完成品のお披露目と、そのお祝いの時間にしようかしら。


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