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59・許せない(フロイデン視点)
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ひたひた。
何かが歩いて近づいてくる音がする。
聞き間違いだと思いたいのに、耳にこびりついて離れないその不快な気配と不穏な予感に、ぞわぞわと背筋が粟立った。
「許せない……」
な、何のことだ?
もしかして、僕が先ほどリシアを切りつけようとしたこと?
わからない。
わからないが怖ろしくて、だけどそれを確かめずにはいられなくて、僕は恨みに満ちた声の先に目を向けた。
「……っ!」
半透明に淡く光った、二足歩行の猫が僕たちへ向かって歩いてくる。
昔の魔法使いのような格好をしていて、明らかに現代を生きる存在ではなかった。
目が合えば祟られるような、じっとりと恨みのこもった眼差しで僕を見つめてくる。
「許せない……」
「うわあああああっ、ば、化け猫がああっ!!!」
「ひいいいいいいっ、お、怨念猫だああっ!!!」
トムとサムが顔中から色々な液体を噴き出して半狂乱でわめき、僕も含めみんな足がすくんで動けない。
僕は握りしめていた短剣を向けたが、鬼気迫る気配を垂れ流した異様な猫は静かに迫って来る。
恐怖の限界を超え、トムとサムは声のあらん限り叫んだ。
「く、来るなあっ!!」
「あっち行けえっ!!!」
ひたひた。
「許さない……」
「ぶわあああああ!!!!!」
「ぎゃああああああ!!!!!!」
図体はデカいが心は繊細な男二人は、絶叫の果てに泡を吹きながら白目をむいて気絶した。
この状況から脱することが出来て、逆にその気弱さが羨ましく思えるが、意識があるのは僕だけとなる。
もしかして、これは先ほどの僕への罰なのか?
僕がアドレの幸せを妬み、彼からリシアを奪ってやろうという考えを持って危害を加えようとしたせいか?
それともアドレを許せないという僕の思いが、なぜか祟り猫となって具現化している?
推測している間にも、足音が迷いなく近づいてくる。
「く、来るな……」
「許せない」
ひたひた。
僕は恐怖に耐えられず、震えて懇願した。
「ゆ、許しっ、」
血走った猫の瞳がカッと見開かれる。
「許せない!」
突如、猫の動きが尋常ではないほど速度を増し、あっという間に僕に迫っていた。
「許せない!!!」
「やっ、やめろ!! 来るなあああっ!!!」
僕は握っていた短剣で目の前の化け猫を何度も切りつけた。
しかし刻んだはずの感触がなく、猫の姿はふっと崩れるように消える。
……幻覚か?
恐怖に震える全身から、どっと冷や汗が噴き出した。
「倒したのか……?」
背後に気配を感じる。
「許せない……」
「ひっ!」
ぞっとする声が別の方向から聞こえて、視線を向けるとぎらぎら反射する瞳が瞬きもせず見つめていた。
「返して」
「うわああぁっ!!!!!」
「僕の顔をしたお祝いのケーキ、返しててぇええ!!!!」
「あああああああぁっっ!!!」
闇の中に浮かび上がる化け猫の幻影を払おうと、僕は気が触れたように夢中になって短剣を振り回した。
重たい手ごたえを感じて、短剣で何かを弾きとばす。
しかし当たったのは化け猫ではなく、先ほど人質の女が突然出した宝箱のような物の蓋を開けただけだった。
その時上空の雲が抜けて、再び月光が注がれる。
わずかでも明るくなりほっとした瞬間、開いた箱の中から何かが現れたかと思うと、僕はこの世のものとは思えない異形の群れに襲われた。
怨念か祟りか、悪夢としか思えない醜い猫たちが雪崩のように僕めがけて降り注いでくる。
「びゃあああああああぁぁっ!!!」
絶叫したまま僕の意識は飛んだ。
何かが歩いて近づいてくる音がする。
聞き間違いだと思いたいのに、耳にこびりついて離れないその不快な気配と不穏な予感に、ぞわぞわと背筋が粟立った。
「許せない……」
な、何のことだ?
もしかして、僕が先ほどリシアを切りつけようとしたこと?
わからない。
わからないが怖ろしくて、だけどそれを確かめずにはいられなくて、僕は恨みに満ちた声の先に目を向けた。
「……っ!」
半透明に淡く光った、二足歩行の猫が僕たちへ向かって歩いてくる。
昔の魔法使いのような格好をしていて、明らかに現代を生きる存在ではなかった。
目が合えば祟られるような、じっとりと恨みのこもった眼差しで僕を見つめてくる。
「許せない……」
「うわあああああっ、ば、化け猫がああっ!!!」
「ひいいいいいいっ、お、怨念猫だああっ!!!」
トムとサムが顔中から色々な液体を噴き出して半狂乱でわめき、僕も含めみんな足がすくんで動けない。
僕は握りしめていた短剣を向けたが、鬼気迫る気配を垂れ流した異様な猫は静かに迫って来る。
恐怖の限界を超え、トムとサムは声のあらん限り叫んだ。
「く、来るなあっ!!」
「あっち行けえっ!!!」
ひたひた。
「許さない……」
「ぶわあああああ!!!!!」
「ぎゃああああああ!!!!!!」
図体はデカいが心は繊細な男二人は、絶叫の果てに泡を吹きながら白目をむいて気絶した。
この状況から脱することが出来て、逆にその気弱さが羨ましく思えるが、意識があるのは僕だけとなる。
もしかして、これは先ほどの僕への罰なのか?
僕がアドレの幸せを妬み、彼からリシアを奪ってやろうという考えを持って危害を加えようとしたせいか?
それともアドレを許せないという僕の思いが、なぜか祟り猫となって具現化している?
推測している間にも、足音が迷いなく近づいてくる。
「く、来るな……」
「許せない」
ひたひた。
僕は恐怖に耐えられず、震えて懇願した。
「ゆ、許しっ、」
血走った猫の瞳がカッと見開かれる。
「許せない!」
突如、猫の動きが尋常ではないほど速度を増し、あっという間に僕に迫っていた。
「許せない!!!」
「やっ、やめろ!! 来るなあああっ!!!」
僕は握っていた短剣で目の前の化け猫を何度も切りつけた。
しかし刻んだはずの感触がなく、猫の姿はふっと崩れるように消える。
……幻覚か?
恐怖に震える全身から、どっと冷や汗が噴き出した。
「倒したのか……?」
背後に気配を感じる。
「許せない……」
「ひっ!」
ぞっとする声が別の方向から聞こえて、視線を向けるとぎらぎら反射する瞳が瞬きもせず見つめていた。
「返して」
「うわああぁっ!!!!!」
「僕の顔をしたお祝いのケーキ、返しててぇええ!!!!」
「あああああああぁっっ!!!」
闇の中に浮かび上がる化け猫の幻影を払おうと、僕は気が触れたように夢中になって短剣を振り回した。
重たい手ごたえを感じて、短剣で何かを弾きとばす。
しかし当たったのは化け猫ではなく、先ほど人質の女が突然出した宝箱のような物の蓋を開けただけだった。
その時上空の雲が抜けて、再び月光が注がれる。
わずかでも明るくなりほっとした瞬間、開いた箱の中から何かが現れたかと思うと、僕はこの世のものとは思えない異形の群れに襲われた。
怨念か祟りか、悪夢としか思えない醜い猫たちが雪崩のように僕めがけて降り注いでくる。
「びゃあああああああぁぁっ!!!」
絶叫したまま僕の意識は飛んだ。
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