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50・フロイデンの説得
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レオルは冷ややかに沈黙しているので、フロイデンと名乗った青年は不満げに眉を寄せた。
「僕の持ってきた話は、コシマにとってもすごくいい話だから、君からも頼んで欲しい。カシュラ王国で募集している星石師の報奨のことを知っているかい? 今、カシュラ王国で星石師として迎え入れてもらえれば、生活の保障は万全だし、給金も十分だ。コシマ、カシュラ王国に戻らないか?」
「フロイデン様、ありがたいお話ですが、今のワシはレマノルト王国で暮らし、ハーキス領主様のお世話になっています。それにワシはただの馬丁です。祖父は星石師でしたが、ワシにはあなたの望むような詳しい知識などありませんので、残念ながらお役に立てません。それに今の生活に満足しています」
「そんな……コシマ、頼むよ。それならせめて、星石師の知り合いを紹介してくれないか?」
「レマノルト王国へ来て長いので、そのような知り合いも思い当たらず……申し訳ない」
レオルはフロイデンと彼の側にいる三人の男たちにも声をかけた。
「コシマさんは断ったのだから、この話は終わりでいいな? 俺たちもコシマさんに用があって来たんだ。あんたたちは帰ってくれないか」
「アドレ、待ってくれ、僕は……」
「途中でハーキス領内で評判のいいスイーツカフェに男四人で寄って、最近のニュースになっている特殊詐欺と新種の恐竜化石の話でもしたら、あいつらも喜ぶよ。なぁ」
先ほどの珍回答で興味のあることが明らかな男たちは、レオルの提案にまんざらでもない顔をして頷いている。
フロイデンは男たちの期待に満ちた様子にぎょっとすると、レオルに訴えた。
「誘惑に弱いやつらを手なづけるやり方、やっぱりアドレだな! 僕とコシマのために、説得に協力してくれたっていいじゃないか!」
引き下がる様子のないフロイデンの態度に、レオルは険を含んだ眼差しを向ける。
「コシマさんは俺の友人で、このハーキス領主のもとで働く、領主の大切な使用人だ。あんたらのようなならず者に連行されかけた彼を守ったと証明してもらえれば、いい小遣い稼ぎになるだろうな。試してみようか?」
レオルは腰に下げた長剣ではなく、小回りの利く短剣の方を引き抜いて軽く一振りする。
空を切るだけでわかる見事な軌道に威圧され、多少腕に覚えのありそうな男の一人が息をのんだ。
「そいつ、見覚えがある……ダムシグの英雄だ! 数年前、ここのオルドーが北の防衛を任された時、蛮族に攻められて陥落しかけたダムシグ砦に駆けつけて守り切ったあいつだ!」
その呟きに、フロイデンを含め、男たちのレオルを見る目が明らかに変わった。
「アドレ、君はこっちの国で成功しているのか? それならなおさら、僕を助けてくれても……」
「いつまで寝言を言い続けるつもりだ」
「聞いてくれ、僕はあの果樹園をまだ続けたいんだ! そうだ、サリアが好きだった果実を覚えているか? 栽培が少しずつ軌道に乗って来ていた所だったんだよ。サリアはどうしている?」
レオルは返事として、フロイデンの襟首をつかむと玄関から外へと放り出し、室内の男たちに感情のこもらない眼差しを向ける。
「もうコシマさんの元へ二度と押しかけないと約束するのなら、見逃す。次はない……いいな?」
有無を言わせない声を浴びせると、男たちは慌てた様子でフロイデンを連れて逃げ去った。
「僕の持ってきた話は、コシマにとってもすごくいい話だから、君からも頼んで欲しい。カシュラ王国で募集している星石師の報奨のことを知っているかい? 今、カシュラ王国で星石師として迎え入れてもらえれば、生活の保障は万全だし、給金も十分だ。コシマ、カシュラ王国に戻らないか?」
「フロイデン様、ありがたいお話ですが、今のワシはレマノルト王国で暮らし、ハーキス領主様のお世話になっています。それにワシはただの馬丁です。祖父は星石師でしたが、ワシにはあなたの望むような詳しい知識などありませんので、残念ながらお役に立てません。それに今の生活に満足しています」
「そんな……コシマ、頼むよ。それならせめて、星石師の知り合いを紹介してくれないか?」
「レマノルト王国へ来て長いので、そのような知り合いも思い当たらず……申し訳ない」
レオルはフロイデンと彼の側にいる三人の男たちにも声をかけた。
「コシマさんは断ったのだから、この話は終わりでいいな? 俺たちもコシマさんに用があって来たんだ。あんたたちは帰ってくれないか」
「アドレ、待ってくれ、僕は……」
「途中でハーキス領内で評判のいいスイーツカフェに男四人で寄って、最近のニュースになっている特殊詐欺と新種の恐竜化石の話でもしたら、あいつらも喜ぶよ。なぁ」
先ほどの珍回答で興味のあることが明らかな男たちは、レオルの提案にまんざらでもない顔をして頷いている。
フロイデンは男たちの期待に満ちた様子にぎょっとすると、レオルに訴えた。
「誘惑に弱いやつらを手なづけるやり方、やっぱりアドレだな! 僕とコシマのために、説得に協力してくれたっていいじゃないか!」
引き下がる様子のないフロイデンの態度に、レオルは険を含んだ眼差しを向ける。
「コシマさんは俺の友人で、このハーキス領主のもとで働く、領主の大切な使用人だ。あんたらのようなならず者に連行されかけた彼を守ったと証明してもらえれば、いい小遣い稼ぎになるだろうな。試してみようか?」
レオルは腰に下げた長剣ではなく、小回りの利く短剣の方を引き抜いて軽く一振りする。
空を切るだけでわかる見事な軌道に威圧され、多少腕に覚えのありそうな男の一人が息をのんだ。
「そいつ、見覚えがある……ダムシグの英雄だ! 数年前、ここのオルドーが北の防衛を任された時、蛮族に攻められて陥落しかけたダムシグ砦に駆けつけて守り切ったあいつだ!」
その呟きに、フロイデンを含め、男たちのレオルを見る目が明らかに変わった。
「アドレ、君はこっちの国で成功しているのか? それならなおさら、僕を助けてくれても……」
「いつまで寝言を言い続けるつもりだ」
「聞いてくれ、僕はあの果樹園をまだ続けたいんだ! そうだ、サリアが好きだった果実を覚えているか? 栽培が少しずつ軌道に乗って来ていた所だったんだよ。サリアはどうしている?」
レオルは返事として、フロイデンの襟首をつかむと玄関から外へと放り出し、室内の男たちに感情のこもらない眼差しを向ける。
「もうコシマさんの元へ二度と押しかけないと約束するのなら、見逃す。次はない……いいな?」
有無を言わせない声を浴びせると、男たちは慌てた様子でフロイデンを連れて逃げ去った。
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