【完結】厄災王女、千年後に自分の力を知る~戸惑っているので、そんなに甘やかさないでください~

入魚ひえん

文字の大きさ
上 下
47 / 67

47・難易度が高すぎる

しおりを挟む
 ぱくり。

 レオルは私が食べかけているビスケットを頬張った。

「あっ!」

 私はむぐむぐしている端正な横顔に呆気に取られていたけれど、彼の青い瞳にちらりと目配せされて、ようやく自分の失態に気づく。

「レオル、それは私の食べかけなの!」

「知ってる」

「えっ? ご、ごめんなさい! 私、あなたが人のものを食べるほど飢えているとは気づかなくて……あの、まだ新しいものがたくさん」

「……いい。満足した」

「一口で? 少食過ぎない?」

「違う。最近リシアが構ってくれないから、拗ねてたんだよ。言わせるな」

 私ははっとして、レオルが食べて残り一口となったビスケットを見つめた。

 そうよね。

 私がレオルに構わずむしゃむしゃやっていたら、食べかけのビスケット以下のような気持ちになってもおかしくないわ。

「レオル、それは誤解よ。私、かじりかけのビスケットよりあなたの方がずっと大切だもの」

 レオルは微妙な表情を浮かべて黙っている。

「本当よ。今はまだ、信じることすら難しいかもしれないけれど、わかってもらえるように努力するわ」

 心を込めて訴えると、レオルはこらえきれないように笑いだした。

「それ、喜んでいいのか? まあいいや。努力って何するんだ?」

「あなたと一緒にいる時は試作のビスケットのことを一旦忘れて、拗ねないように構い続けるわ」

「それはいいな。せっかくだから抱きしめてもらおうか」

「えっ!?」

 それは……難易度が高すぎないかしら。

 意識すればするほど、隣に座ったレオルとの距離が開いていく。

「リシア、そこまで椅子の端に寄ったら落ちるぞ。おいで」

「だって私……思えばレオルを抱きしめたことがないような」

「はい、どうぞ」

 楽しげなレオルは手綱を片手で持ち、空いている私側の腕を向けて待っているので、私は何度も指を伸ばしては失敗を繰り返しながらも、最大限の勇気を振り絞ってようやくつんつんつつく。

「触れたわ!」

「俺は汚物か。ほら、見本」

 私の肩にレオルの片腕が伸びてきて、そっと引き寄せられた。

 顔が熱くなってきたのを感じて、私はそれを隠すようにうつむく。

 レオルがふとしてくれることで、突然心臓が高鳴って治まらなくなるのは、一種の病のようにも思えた。

「リシア、こっち見て」

「……からかわないでちょうだい」

「俺は真剣だよ。顔、上げて」

 つまり、真剣にからかっているのね。

 すぐ動揺するから、そうしたくなるのかもしれないけれど。

 私がもっと冷静に、理性的になれたら……そうよね、理屈で説得すれば、この悪癖だって直るかもしれないわ。

「レオル、動揺した私の顔なんか見てどうするつもり? 別に、その……そう、見たって何も起こらないわ。これを機に、意味のない行動を控えるべきだと思うの」

「意味はあるよ。目が合ったら、次にすることはひとつだろ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...