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43・希少な果実(ヘイグリッド視点)

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 私の指摘に、オルドーも納得したように頷いた。

「ああ、この旨味はマティムの実だったのですね、どうりで味が良いわけだ。しかしマティムと言えば昨年の凍霜とうそう害にやられてカシュラ王国でも打撃を受けたらしく、近ごろは全く入ってきませんよ。この酔い止めの味がどこか懐かしかったのは、そのせいかもしれません」

「ああ、マティムは味もよく、あらゆる薬の材料になる可能性を秘めた果実だからな。私も先ほどカシュラへ行ったから聞いてはみたよ。しかし君も知っている通り、マティムはカシュラ王国内でも価格が跳ね上がっていて、我が国への輸出のめどは立ちそうにない」

「やはりそうですか……」

「しかし、こんなことがまた起こるのも不便だな。出来ることなら、このレマノルト王国で栽培してみたいものだが……果樹大国であるカシュラ王国の技術をもってもマティムは栽培が難しく、基本的には自生に近いものを採取しているそうだ」

 今までは私もオルドーも多忙を極めて後回しにしていた課題だったが、これをきっかけに、何か手を打ってもいい頃合いかもしれない。

「酔い止めに入っているこのマティムは、一体どこで手に入れたんだ?」

「作った者が、遠くから来た時に採ってきたものを使ったと言った気もしますが、場所までは……」

 遠くから……人の入らない土地でも通ったのかもしれない。

「マティムが自生する場所も興味深いが、この酔い止めの味もマティムが贅沢に使われていて素晴らしいじゃないか。酔い止めの効果を確かめるために、これから馬車に乗って帰るのが楽しみだよ。携帯食もそうだが、異国の菓子職人にでも作ってもらったのか?」

「……ええ、まぁそんなところです」

 品物を作った人物を聞くと、オルドーはヘリンと同じく濁している。

 私にも明らかに隠したがっているということは、引き抜きを恐れるほどの優秀な人材か、または訳ありか……。

 そろそろ、本題に入るとするか。

「私も美味い物は好きだが、馬車はもっと好きなんだよ。特に、君の乗っている馬車が気になるね」

「気づきましたか」

「気づくさ。これからは商品や人の移動が一層重要になる。一体どんな改良をしたんだ?」

「浮遊石を加工して衝撃を緩和する石を付けました。刺激を受けるとわずかに浮くので、乗っている者にも馬にも負担が少なくなったんです。おかげで馬車酔いも減りました」

 浮遊石を加工……カシュラ王国の失われつつある技術だろうか。

「レオルから仕入れたのか?」

「いいえ。レオルは隣国出身のようですが、戦渦から逃れてきた孤児ですので、星石師のような特別な技術を身に付けることもなく渡って来たはずです。あいつは優秀ですし気にかけていただけるのはありがたいのですが、あまり構わないでやって下さい。知っての通り、人目に神経質なところがあるので」

 先手を打ってレオルを庇っているな。

 オルドーもヘリンも、レオルの出自について気づいていないはずだが……。

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