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42・ハーキス領の変化(ヘイグリッド視点)

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 私はイヴァン・エイゼル・ヘイグリッド、王都東の領地を任された公爵で、現在はこの国レマノルト王国の宰相という立場でもある。

 今日は隣国カシュラ王国へと赴いての会談帰り、国境を接しているハーキス領を通ったので、ハーキス伯爵夫人として暮らす愛娘ヘリンの元へ少し顔を出したが、本当に驚いた。

 ヘリンは平民の血を幾分引くことで嫌な思いをしたこともあるのだろう、幼い頃から人の目を気にする気性で自分を苦しめていたが、少し見ない間に随分おおらかな様子で笑うようになっている。

 ヘリンの姪のイライナも、私の荒れた手に気づいて珍しく寄って来ると、良い香りのするハンドクリームを塗ってくれた。

 それがきっかけとなり話を弾ませていると、ヘリンは急にイライナを連れて下がってしまったが……。

 少し見ない間に、ハーキス領に変化を感じる。

「義父上、お待たせしてすみません」

 応接間へとやって来た娘婿のオルドーが、急ぎながらも品を損なわない程度の勢いで入って来た。

 その様子は以前より力強く、どことなく顔色も良い。

 ヘリンから聞いていたが、実際に会うとその違いがよくわかった。

「いや。突然やって来たのだから、会えただけでも幸運だった。元気そうでなによりだ」

「はい、ヘリンが支えてくれているおかげです」

「近頃は君の調子が良いとヘリンから聞いたよ。多忙な君に気に入った携帯食が出来て、よく間食を取るようになり、やつれることがなくなったと」

「ええ、皆にもそう言われます」

「舌の肥えた君を満足させると聞いて、私も興味が湧いてね。ヘリンから少し分けてもらったが、確かに携帯食とは思えない、味も食感も素晴らしい食べやすさだな」

「やはりそう思いますか? 実は工程を簡略化する話が出てきて、誰でも買える菓子程度の価格で販売する準備をしているところなんです」

「ほう、君がやるのか? 忙しくし過ぎて自分から仕事を増やす余裕など全くなかったのに、珍しいじゃないか」

「最近は移動時間が減ったので少し時間をとれるようになって、それで自分のしたいことに目が向くようになったんです。あれが店で手ごろな価格で買えれば、領民に喜ばれると思うんですよ」

「相変わらず良い男だな、君は。それに目の付け所も悪くない。必ずうまくいくから、手広くやるつもりなら次は王都より先に私の領でお願いするよ。馬車酔いも良くなったそうだね」

「ええ、ヘリンから聞きましたか? 不調が減ったのはこいつのおかげもあるんです」

 オルドーから錠剤の入った小瓶を渡される。

「ほぉ。これが噂の酔い止めか?」

「そうです。これ一粒で本当に酔いが収まりますし、胃の調子も変わりませんし、なにより味が良いので食べやすいんです」

 試しに口に含んでみると、覚えのある甘味が舌の上に広がった。

 それがカシュラ王国の高地でよく採れる小粒で黄色い果実だと気づき、私は久々に口にした希少な生薬に思わず語調を強める。

「まさかこの酔い止め、マティムが入っているのか?」

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