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38・私を百人くらい欲しい

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 その他にも、ヘリン様は私の作った酔い止めや、浮遊石を加工した衝撃緩和石を取り付けたことで、馬車の乗り心地が良くなったと驚いていた。

 酔い止めは子どもでもおいしく食べられる薬の味を再現しようと、レオルやディノと何度も試食を重ねたし、衝撃緩和石は、浮遊石の加工知識のあるコシマさんに相談したり、レオルにも文献探しを手伝ってもらった。

 そうして出来た衝撃緩和石の付いた馬車は、振動の軽減や速度も向上したため、オルドー様は諦めていた馬車酔いが軽くなったり、移動時間が短縮出来たり、負担が減って喜んでくれているらしい。

 みんなに協力してもらっていい物ができて、誰かに喜んでもらえるのは嬉しいけれど……。

「リシア。浮かない顔をしているわね。どうかしたの?」

「本当は、もっとたくさん作れたらいいのにと思っているんです。私が百人くらいいたら……」

「あら、一人であんなにたくさん作ってくれて、本当に感謝しているのよ。リシアがそこまで思いつめることなんてないわ」

 私は曖昧に笑い返した。

 お茶を終えた後は、イライナ様に絵を見せてもらったり、手を繋いで庭を散歩をしたり、花壇の花の種類を数えたりする。

 途中でコシマさんと会い、イライナ様がボリーのことを質問すると、コシマさんの話すボリーのやんちゃっぷりが面白くて笑ってばかりだった。

 ヘリン様の言う通り、イライナ様は会った頃より明るくなった気がする。

 最後に私は、いくつか飴玉が入った小さな紙袋をイライナ様に渡した。

 近頃はそれがお別れの合図になっていて、私は別館へ向かいながら振り返ると、イライナ様はいつものように飴を小瓶の中に移した後、空に向けて高く掲げている。

 喜んでくれているのだと思うけれど、それは飴を渡すたびにしている不思議な姿だった。

「私を百人くらい欲しいわ」

 ディノにおみやげをねだられて、レオルに連れて行ってもらった美味しいケーキのお店の帰り道、もう薄暗くなって街灯のともる道を二人並んで歩きながら、ふと呟く。

「まだまだ作ろうと思えば作れるのに。欲しいって言ってくれる人がいるのに。作れないふりをしているんだもの。嘘つきになったような気分だわ」

「百人いれば百倍作れるって、すごい単純計算だな」

「本当は一人でも百倍くらい作れるわ。だから他のリシアには休んでもらっていて、百人で作っているふりをするだけでもいいの。魔力も余っているんだし、私、たくさん作りたいのよ」

「それなら、リシアの欲しい物でも作っていればいい」

「私の?」

「そう。自分用なら誰にも知られずに作れるから。何が欲しい?」



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