37 / 67
37・ハーキス家の変化
しおりを挟む
オルドー様の館へ贈り物を渡しにいくと、夫人であるヘリン様はいつものように喜んでくれた。
「あらリシア! 来てくれたのね、嬉しいわ」
近づいてくる彼女から、柔らかな香りが流れてきた。
「ヘリン様、私が作ってみた保湿クリームをつけてくれているんですね」
「もちろんよ」
彼女の優美な微笑も素敵だけれど、今日はにこっとする少女のような笑顔を見せてくれた。
「馴染みも良くて長年の乾燥肌の悩みが一瞬で消えたんだもの、もう手放せないわ。つけるたび花に包まれているような香りがして、心まで癒されるし」
「気に入っていただけて良かったです」
「そうだ、イライナがあなたがいつ来るかとずっと待っていたの。少し顔を見せてあげてくれない?」
そう誘われて、彼女の姪のイライナ様も含め、三人でお茶をごちそうになっている。
イライナ様は引っ込み思案だとヘリン様が気にかけていたけれど、そんな心配もなさそうなくらい、明るい声を弾ませてくれた。
「リシア、あのね! わたし、ワンちゃんがとてもうまくかけたから、見てほしかったの!」
イライナ様はお絵描きが好きで、まだ五歳なのに私より絵がずっと上手だし羨ましいわ。
「それは楽しみです、ボリーみたいな感じかしら」
「ボリー?」
「馬丁のコシマさんが飼っている、栗色の毛並みの、大きな子犬ですよ。やんちゃなので、跳びつかれると私でも倒されてしまうくらいです」
「おっきいワンちゃんなのね、すてき! 次はそのワンちゃんをそうぞうして、かいてみたいわ。どんなワンちゃんなのかしら?」
そのままボリーについてのクイズが始まり、イライナ様が「背中に妖精の羽が生えている」「巨大グマと戦った傷が額にある」「好きな色はピンク」と、不思議な予想をするので私もヘリン様も笑ってしまった。
「リシアが来るとイライナがはしゃぐのを見て、古くからの使用人たちは、オルドーの子どもの頃によく似ているって言っているのよ」
「そういえばレオルが、最近のオルドー様は馬車酔いが減ったので、同行すると子どもの頃みたいにはしゃぐようになったと」
呆れていた、というのは伏せておくことにする。
「あら、やっぱりそうでしょう? オルドーは出かける時に必ずあなたの作ってくれた携帯用のビスケットを持って行って、おやつを喜ぶ子どもみたいに食べているのよ。ふふ、だけど一緒にいるレオルにも分けてあげるって。末っ子のせいかしら、いまだにお兄さんのように振舞いたがってるって、みんなで笑ってるの」
「オルドー様が気に入って下さって、良かったです」
「実はあの人だけではなくて、私もイライナもこっそり頂いているのだけどね。本当に美味しくて、つい口に運んでしまうわ。たくさんあったはずがいつの間にか無くなってしまわないように、気をつけないといけないくらいよ」
「あらリシア! 来てくれたのね、嬉しいわ」
近づいてくる彼女から、柔らかな香りが流れてきた。
「ヘリン様、私が作ってみた保湿クリームをつけてくれているんですね」
「もちろんよ」
彼女の優美な微笑も素敵だけれど、今日はにこっとする少女のような笑顔を見せてくれた。
「馴染みも良くて長年の乾燥肌の悩みが一瞬で消えたんだもの、もう手放せないわ。つけるたび花に包まれているような香りがして、心まで癒されるし」
「気に入っていただけて良かったです」
「そうだ、イライナがあなたがいつ来るかとずっと待っていたの。少し顔を見せてあげてくれない?」
そう誘われて、彼女の姪のイライナ様も含め、三人でお茶をごちそうになっている。
イライナ様は引っ込み思案だとヘリン様が気にかけていたけれど、そんな心配もなさそうなくらい、明るい声を弾ませてくれた。
「リシア、あのね! わたし、ワンちゃんがとてもうまくかけたから、見てほしかったの!」
イライナ様はお絵描きが好きで、まだ五歳なのに私より絵がずっと上手だし羨ましいわ。
「それは楽しみです、ボリーみたいな感じかしら」
「ボリー?」
「馬丁のコシマさんが飼っている、栗色の毛並みの、大きな子犬ですよ。やんちゃなので、跳びつかれると私でも倒されてしまうくらいです」
「おっきいワンちゃんなのね、すてき! 次はそのワンちゃんをそうぞうして、かいてみたいわ。どんなワンちゃんなのかしら?」
そのままボリーについてのクイズが始まり、イライナ様が「背中に妖精の羽が生えている」「巨大グマと戦った傷が額にある」「好きな色はピンク」と、不思議な予想をするので私もヘリン様も笑ってしまった。
「リシアが来るとイライナがはしゃぐのを見て、古くからの使用人たちは、オルドーの子どもの頃によく似ているって言っているのよ」
「そういえばレオルが、最近のオルドー様は馬車酔いが減ったので、同行すると子どもの頃みたいにはしゃぐようになったと」
呆れていた、というのは伏せておくことにする。
「あら、やっぱりそうでしょう? オルドーは出かける時に必ずあなたの作ってくれた携帯用のビスケットを持って行って、おやつを喜ぶ子どもみたいに食べているのよ。ふふ、だけど一緒にいるレオルにも分けてあげるって。末っ子のせいかしら、いまだにお兄さんのように振舞いたがってるって、みんなで笑ってるの」
「オルドー様が気に入って下さって、良かったです」
「実はあの人だけではなくて、私もイライナもこっそり頂いているのだけどね。本当に美味しくて、つい口に運んでしまうわ。たくさんあったはずがいつの間にか無くなってしまわないように、気をつけないといけないくらいよ」
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
大嫌いな令嬢
緑谷めい
恋愛
ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。
同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。
アンヌはうんざりしていた。
アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。
そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
【完結】昨日までの愛は虚像でした
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。
従妹と親密な婚約者に、私は厳しく対処します。
みみぢあん
恋愛
ミレイユの婚約者、オルドリッジ子爵家の長男クレマンは、子供の頃から仲の良い妹のような従妹パトリシアを優先する。 婚約者のミレイユよりもクレマンが従妹を優先するため、学園内でクレマンと従妹の浮気疑惑がうわさになる。
――だが、クレマンが従妹を優先するのは、人には言えない複雑な事情があるからだ。
それを知ったミレイユは婚約破棄するべきか?、婚約を継続するべきか?、悩み続けてミレイユが出した結論は……
※ざまぁ系のお話ではありません。ご注意を😓 まぎらわしくてすみません。
あなたの嫉妬なんて知らない
abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」
「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」
「は……終わりだなんて、」
「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ……
"今日の主役が二人も抜けては"」
婚約パーティーの夜だった。
愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。
長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。
「はー、もういいわ」
皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。
彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。
「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。
だから私は悪女になった。
「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」
洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。
「貴女は、俺の婚約者だろう!」
「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」
「ダリア!いい加減に……」
嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる