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29・実りの高地
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「俺、これでも結構我慢して、リシアの自由意思を尊重しようとか、しがらみにならないように気をつけようとか、割と誠実に考えてたはずだったんだけど……。リシアがあんな顔するから、吹っ飛んだだろ」
私は先ほどレオルの瞳に映っていた、別れの予感に泣き出しそうな情けない自分を思い出して、顔が熱くなってくる。
「ご、ごめんなさい……だけど迷惑な人を追い払ってもらえるなら、助かるわ……。私、うっかり暴発使ってしまいそうだし……あ、でもレオルを利用してるつもりではなくて……」
しどろもどろで返事をすると、見つめているレオルの横顔が滲み、涙で視界がぼやけてくる。
私は慌てて背中を向けた。
馬車の動く音が止まると、背中からレオルの腕に包まれる。
「どうした、泣いてるのか?」
だって私、ついさっきまで、レオルともう会えないかもしれない覚悟をしていて。
望むことのために何かを諦めるなんて平気だと思っていたのに、想像以上につらくて……だけどまた一緒にいられるとわかったから、気が緩んで、その……。
ど、どうしよう……レオルの匂いに包まれているとほっとするし、くっついてくると温かいし、それは嬉しいはずなのに、余計に涙が止まらなくなってしまう。
だけど私が動揺しているからって、執拗に見つめてくるのはやめてくれないかしら。
そして馬車が止まったまま、一向に目的地へ向かう様子がないわ。
私はすすり泣きそうになるのを抑えて、必死に訴える。
「私、もう少ししたら落ち着くから。だから気にしないで進んでちょうだい」
「嫌だ。落ち着くまで離さない」
耳元でふっと笑われて、私はこの状況に対応できず顔を手で覆う。
「レオル、また悪癖が出ているわ」
「気のせいだろ。それよりこっち向いて。リシアの顔、見たい」
そんなの、絶対に見せられるわけないじゃない。
*
色々あったから……。
私の気持ちが落ち着くまでに時間がかかってしまって、予定よりずいぶん遅くなってしまったけれど、貸し馬車を最寄りの馬車停へ置いてから歩いて、ようやく目的の実りの高地へ着いた。
そこは丈の低い草木が生えた緑豊かな平地でありながら、周囲は山や岩に覆われているので、野草と鉱石どちらも採れそうな場所だった。
遠い空を舞う鷹にレオルが目を細める。
「町だと人の視線がわずらわしいけれど、ここは来る人も少ないし、のんびりできそうだな。オルドーのおかげで、また二人で久々に出かけられたし、色々採るか」
「そうね」
レオルと目が合い、つい逸らしてしまった。
あの悪癖に敗北した後はいつも、自分の度胸が粉砕されているような気分になる。
私は先ほどレオルの瞳に映っていた、別れの予感に泣き出しそうな情けない自分を思い出して、顔が熱くなってくる。
「ご、ごめんなさい……だけど迷惑な人を追い払ってもらえるなら、助かるわ……。私、うっかり暴発使ってしまいそうだし……あ、でもレオルを利用してるつもりではなくて……」
しどろもどろで返事をすると、見つめているレオルの横顔が滲み、涙で視界がぼやけてくる。
私は慌てて背中を向けた。
馬車の動く音が止まると、背中からレオルの腕に包まれる。
「どうした、泣いてるのか?」
だって私、ついさっきまで、レオルともう会えないかもしれない覚悟をしていて。
望むことのために何かを諦めるなんて平気だと思っていたのに、想像以上につらくて……だけどまた一緒にいられるとわかったから、気が緩んで、その……。
ど、どうしよう……レオルの匂いに包まれているとほっとするし、くっついてくると温かいし、それは嬉しいはずなのに、余計に涙が止まらなくなってしまう。
だけど私が動揺しているからって、執拗に見つめてくるのはやめてくれないかしら。
そして馬車が止まったまま、一向に目的地へ向かう様子がないわ。
私はすすり泣きそうになるのを抑えて、必死に訴える。
「私、もう少ししたら落ち着くから。だから気にしないで進んでちょうだい」
「嫌だ。落ち着くまで離さない」
耳元でふっと笑われて、私はこの状況に対応できず顔を手で覆う。
「レオル、また悪癖が出ているわ」
「気のせいだろ。それよりこっち向いて。リシアの顔、見たい」
そんなの、絶対に見せられるわけないじゃない。
*
色々あったから……。
私の気持ちが落ち着くまでに時間がかかってしまって、予定よりずいぶん遅くなってしまったけれど、貸し馬車を最寄りの馬車停へ置いてから歩いて、ようやく目的の実りの高地へ着いた。
そこは丈の低い草木が生えた緑豊かな平地でありながら、周囲は山や岩に覆われているので、野草と鉱石どちらも採れそうな場所だった。
遠い空を舞う鷹にレオルが目を細める。
「町だと人の視線がわずらわしいけれど、ここは来る人も少ないし、のんびりできそうだな。オルドーのおかげで、また二人で久々に出かけられたし、色々採るか」
「そうね」
レオルと目が合い、つい逸らしてしまった。
あの悪癖に敗北した後はいつも、自分の度胸が粉砕されているような気分になる。
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