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4・新しい名前

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 私は彼の背後に広がる、自然に埋もれてしまった遺跡を見つめる。

「つまりここは、私の生きていた千年後の世界なのね」

「お前の話と俺の推測が正しければ、そうなるな」

 それが本当なら、ここには家族も元婚約者もいないけれど、ディノもルネもいない。

 私は千年後の世界で一人、目覚めてしまったらしい。

 気づくと、レオルが私をじっと見つめている。

 彼は何も言わないまま、私を励ますように繋いでいる手に力を込めた。

 先ほどの威圧的にも思える態度から一転、今は私より心配そうな表情をしているのが意外で、つい笑ってしまう。

 そんな顔をされると、ちょっとくすぐったいわね。

 確かに全く知らない場所へ来てしまったのだから、どうすればいいのかもわからないけれど。

 私のせいで、レオルにそんな思いつめた顔をして欲しくなくない。

 気づかってくれる相手への返事として、私は繋いだ手を握り返した。

「悪くないわ。千年後も楽しそうだし」

「……無理してるのか?」

「そうかしら。私、ずっと窮屈だったのよ。ここなら人質を取られて塔に閉じ込められたり、毒を飲まされることもなさそうね。助かったのだから、自由に楽しむわ」

「随分余裕だな。てっきり途方に暮れると思ってた」

「本当に望むことがあるのなら、別のことを諦める覚悟くらいあるわ。それに一人は慣れてるの。だから私のことで、そんなに心配そうな顔をしなくてもいいわ」

 レオルは少し驚いたような顔をしたけれど、すぐ意味深な笑みを浮かべた。

「少しくらいさせてくれよ、フィリシア」

 当然のように名を呼ばれるので、少し引っかかる。

「だけどどうして、レオルは千年前の私の名前を知っているの?」

「あぁ、そのことか……」

 レオルは言いにくそうに黙ってしまった。

 そんなに変なこと、聞いたかしら?

 私が首を傾げると、レオルはためらいがちに答えた。

「ティメリエ王国は古い時代のことだから、詳しいことはわかっていない。それでも国を幾度も苦しめた厄災の王女フィリシアは割と有名なんだよ」

 つまり私は、千年後にも不名誉な称号と名前が残るほど悪名高かったらしい。

 好き勝手に言われるのは慣れているけれど、これからのことを思うと少し不便な気がする。

「それなら他の人に会った時、フィリシアと名乗るのはやめておいたほうがいいのかしら」

「そうだな。フィリシア……リシアにするか?」

 名前なんて全部捨て去っても構わないけれど、レオルがつけてくれたので、それもいい気がしてきて私は頷く。

「だけど私の魔力……というかさっきの暴発、やっぱりこの時代でも怖がられるわよね?」

「そうだろうな。だけどもう一回見せてくれないか」

「えっ? 魔法にもならない、ただの危険な魔力暴発よ? 見たいの?」

「見たい。だけどその前に確認させてくれ」

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