【完結】厄災王女、千年後に自分の力を知る~戸惑っているので、そんなに甘やかさないでください~

入魚ひえん

文字の大きさ
上 下
2 / 67

2・目覚めると

しおりを挟む
 光を得た海底のような、明暗を宿す瞳と視線がぶつかる。

「……っ!」

 青い目が驚いたように見開かれると、私から素早く遠ざかった。

 同時に頭にあった感触が離れたので、相手が私を撫でていたのだとわかる。

 誰?

 ゆっくり上体を起こすと、塔の内壁を背にした黒髪の青年が、緊張した様子でこちらをうかがっていた。

 背はすらりと高くて迫力があるけれど、屈強というよりも細く鍛え上げられた、しなやかな骨格をしている。

 腰には長剣を下げているし騎士か剣士か……彼の旅人風の服装は細部が見慣れないデザインなので、異国の出身のようね。

 だけどその黒髪碧眼の整った顔立ちと容姿なら、この国では、おそらくどの国でも、もてることは間違いない。

 人を寄せ付けないような、でも惹きつけられてしまうような……涼しい美貌の彼は瞬きもせず、私を見つめている。

「フィリシア……?」

 低く響くいい声が私の名を呼んだ。

 つまり彼は、私のことを知っている。

 まさか目覚めたばかりのタイミングで、私の死体を確認する人が来たのかしら。

(正直疑っていたけれど……。ディノ、あなたのおかげで助かったみたいね。だけどどこにいるの? 無事なら返事をして)

 ディノが従姉のルネのように人質(猫質?)に取られている可能性を考えて、私は思念を送りながら見回した。

 返事は無かったけれど、塔の床がひび割れだらけになっていたり、壁も風化したように崩れていることに気づく。

 建物が驚くほどボロくなっているのはなぜかしら?

 疑問に思いながら見回していると、青年が慣れた様子で身を構えた。

 あ、見事な動き。

 このままだと絶対捕まるわ。

 それとも殺される?

 迷っている余裕はなかった。

 私が手を振りかざすと、彼の目の前で空気が弾けるようにバン! と威勢のいい破裂音を立てた。

 思ったより威力が出なくて、ここが魔力を封じ込める塔の中だったと思い出す。

 ただ少しは発現したのだから、塔の劣化で魔力抑止効果が薄れているらしい。

 それでも、不意の衝撃と音に彼は一瞬ひるんだ。

 私はその隙を逃さず、彼が開けてくれたらしい入り口から外へと飛び出す。

 すると見知らぬ光景が広がっていた。

「ここは……どこ?」

 塔の外は森だった。

 周囲には建物や塀などの人工物の形が残っているけれど、どれもが草やつたに覆われていて、自然に埋没した遺跡のような風景になっている。

 おかしいわ。

 ここは要塞ややぐらが備えられた、切り開かれた平原だったはずなのに……。

 呆然とする私の前に人影が回り込む。

 思わず後ずさると、黒髪の青年は私の左右に両腕を突きつけた。

 私は背後にある塔の壁と彼の腕に阻まれ、退路を断たれる。

 適当に謝っても許してくれそうにない、研ぎ澄まされた鋭い視線が私を見下ろした。

「逃げるな。聞きたいことがある」

 声は低くて心地よいけれど、有無を言わせない口調だった。

 それにこの至近距離。

 先ほどのように力を使って逃げようとしても、魔力暴発が私自身にまで当たることを想定しているのだろう。

 つまり、降参するしかない。

 と、思っているのね?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。 しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。 その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。 どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。 そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが…… 一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。 当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...