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59 王女の秘密
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「マイア王女は慈善活動の裏で、いくつもの罪を犯していました」
聖騎士様の調査によると、マイア王女は薬草園の保護をするという建前で、ケルゲオ草をはじめとする植物を栽培していたそうです。
そして後援する施療院などに配り、薬の効果を調べていました。
東の地の商品を不当に独占していたのも、調合の材料にするためです。
「彼女は自ら作り出した危険な未認可薬を、ヴァイス商会に売りさばいていました。そうして得た資金で違法な素材を買い漁り、さらなる新薬を調合していたのです。ライハント王子が裏取引で手に入れていた記憶障害の薬や睡眠薬も、マイア王女が流したものでしょう」
「ライハント王子自身も、ケルゲオの根の悪臭がしていました。彼の護衛騎士たちもです」
「やはりそうでしたか……」
私がライハント王子の誕生パーティーに来た目的はライハント王子の罪を暴くため、そして会場内の臭気を放つ者たちを見つけることでした。
彼らは未知の薬で悪事を起こすように意識を操られ、記憶障害を起こしている可能性が高いので、聖騎士団が詳しく調査をするそうです。
皮肉な話ですが、ヴァイス商会から未認可薬を買い漁ったライハント王子自身も、マイア王女に薬を飲まされて利用されていたのでしょう。
「リシェラ様、調査へのご協力に感謝します。このままマイア王女を放置していればソディエ王国、もしかすると世界中が未認可の新薬で汚染されていたかもしれません。おかげで被害が広がるのを止めることができました」
「お役に立てて良かったです。ミュナが人身売買の対象になっていた理由はわかりましたか?」
「まだ断言はできませんが、ミュナお嬢様を誘拐したのは、マイア王女の可能性が高いと思われます。彼女が捕まればさらに調査が進むでしょう。離宮にはすでに、マイア王女の捕縛状を得た聖騎士たちが派遣されています」
聖騎士団の調査では、マイア王女の正体について確認できたのはそこまでのようです。
でも私の考えが正しければ、彼女は今も隠している事情があります。
そしてミュナを手に入れようとした理由を聞けば、マイア王女は嘘をつくでしょう。
でも私はきれいな偽りより、本当のことを知りたいのです。
考え込む私の髪を、セレイブ様が撫でました。
「リシェラ、気になることでもあるのか」
「はい、もうひとつ大切な問題があります。これから東の地の商品は、ロアフ領にも流通するのでしょうか?」
「ああ、そのことは確認している。ひと月もすれば、物流も徐々に正常化するそうだ」
「ではようやく、東の地のおいしいものとお会いできるのですね!」
本物のおモチとの対面を思うと、胸が期待で膨みます。
「楽しみです……!」
「ああ、そうだな。俺も待ち遠しい」
私の頬にセレイブ様の手が添えられて、私は彼へと顔を向けました。
きれいなアイスブルーの瞳が、やさしくほほえんでくれます。
「リシェラのために、できる限り早く用意する。食べさせる度に変化するリシェの幸せな表情が早く見たい」
「すでに幸せです。セレイブ様、ありがとうございます!」
「君は本当にかわいいな」
セレイブ様は両腕で私をぎゅっと抱きしめてくれました。
ここはいつも素敵な匂いがします。
「……」
先ほどまで飄々としていた聖騎士様が両手で顔をおおっていました。
隙間から見える頬が赤いです。
「冷淡で有名なおまえに赤面させられるとは思わなかったんだが……」
「嫌なら去ればいいだろう。俺がおまえに遠慮して、妻への愛を控えることはない。なにより俺は今、あの害虫王子がリシェラに愛を乞うという不快な過去を癒やしている最中だ」
セレイブ様の顔が下りてくると、私の額に柔らかい感触がします。
「ちょっ、待て! 展開が早い!」
首まで赤くなった聖騎士様は、逃げるようにその場を去っていきました。
とても俊敏な動きですから、これからの調査もどんどん進みそうです。
「ではセレイブ様、私もそろそろ行きますね」
「あと少し」
「……ではセレイブ様、」
「あと少し」
「…………では」
「あと少し」
そしてかなり少し経ったころ、トマスさんがセレイブ様を呼びに来てくれました。
私はコーヒーの香りとお別れするのを名残惜しみながら、ジンジャーに乗って白亜の森に向かいます。
一年ほど前、はじめてミュナと出会った森です。
「ジンジャー、よろしくお願いします。聖騎士様たちへの証言が終わったら、セレイブ様にそう伝えてください」
「うん、わかったよ。僕とリシェラは魔力がつながっているし、追いかけることは難しくないから。でもリシェラ、なにをするつもり?」
「私はミュナの待つブリザーイェットに向かう前に、確認しておきたいことがあるのです」
これからセレイブ様の妻として再雇用してもらうために、最後の準備をします!
私は再会した白亜鳥の背に乗り、飛び立ちました。
◆◆◆
ヴァイス商会から、猫耳を持つ幼女を仕入れたという連絡が来てから一日ほど経つ。
あの娘はそろそろここにやって来るはず。
そう思うと珍しく調合に集中できず、わたくしは席を立つと塔の最上階にある大窓を開く。
ネイランダー山脈のふもとにある薬草園は朝焼けに染まっている。
美しくなるため、そして人々に愛されるため、わたくしは努力してきた。
離宮で過ごすことはほとんどない。
薬草園のそばにあるこの塔で調合にのめり込み、薬師と呼ばれるほどたくさんの薬と毒を生み出し続けている。
特にケルゲオ草を見つけてから、その有用な薬を調合することに情熱を傾けてきた。
どれも素晴らしい効果がある。
根は暗示薬、葉は人にとって無味無臭の睡眠薬、実は媚薬、そして花は……。
ああ、早く試したい。
そうすればわたくしは本当に美しくなれる。
背後で部屋の扉が開くと、幼女が室内に入ってきた。
ヴァイス商会は予定通り、わたくしの買った商品を運んでくれたらしい。
幼女は黙ったまま、頭からくるぶしまですっぽりと身体をおおうローブを着てうつむいたままだ。
緊張しているのだろう。
そう思う一方で、妙な違和感を覚える。
この子はひとりでやってきたけれど、彼女を連れてきたわたくしの私兵が見当たらない。
……考えすぎかもしれない。
暗示薬を摂取させた私兵たちに、わたくしと幼女がふたりきりになれるように指示したせいだろう。
それよりもまず、幼女の警戒を解かなくては。
「よく来てくれましたね、ミュナ。そろそろあなたが来るころだと待っていました」
その名を呼ぶことに不快感があるけれど、わたくしはひた隠しにしてほほえんだ。
幼女が懐けば、セレイブ様にも薬を飲ませる隙ができるだろう。
わたくしは自分の醜さを埋めるため、完璧な伴侶が欲しかった。
「怖がらなくてもいいのですよ。家から連れ去られたり、倉庫に閉じ込められたりして驚いたでしょう。でもそれは、あなたのためなのです」
歩み寄ると、幼女は手で鼻の回りを抑えた。
わたくしに染み付いたケルゲオの根の臭いが嫌なのだろう。
ロアフ騎士団の訓練所で久しぶりに会ったとき、くさいくさいくさすぎると臭がりやがったこと、わたくしは忘れていない。
「大丈夫、今はこの匂いが嫌いかもしれませんが、ここで暮らせばすぐ好きになりますよ。それにケルゲオの根は、とても良い薬が作れるのです。飲ませた相手の心を聞き出したり、お願いを叶えてもらえるように暗示をかけられます。便利でしょう?」
ただ意志の強い者には効きづらい。
それに両親はわたくしを嫌悪しすぎていたせいで、愛するように命じても効果がなかった。
だから彼らには毒性の強い別の新薬をいくつも試している。
それでもわたくしを愛せないのなら、いずれ毒に耐えられず死ぬだけのこと。
幼女はまだ鼻を手で抑えてうつむいている。
やはり懐かせるには暗示薬を飲ませて、わたくしが好きになるように暗示をかけるのが手っ取り早いだろう。
このために、猫の嗅覚では感じとれない麻痺の毒も調合しておいた。
「そうです、甘いお茶を淹れてあげます。お菓子も用意していますよ」
わたくしがヴァイス商会に流している滋養茶を隠そうと棚の奥へ押しやったとき、幼女ははじめて口を開いた。
「それ、ハリエット夫人の心身を苦しめた毒のお茶ですね」
滑らかな話し声に、わたくしはぞっとして振り返る。
改めて見れば、たたずむ姿に淑女のような気品があった。
「あなた、あの幼女じゃないわね……!」
ではいったい誰?
……いいえ、こんな小さな姿でわたくしのところに現れる者なんて、あいつしかいない!
「呼んでもいないのにまた来たのね、シャーロット!!」
わたくしは死んだ双子の名を叫ぶと、幼女はかぶっていたフードを取る。
それはわたくしが予想もしない人物だった。
「リシェラ……!?」
「はい、私はリシェラです。マイア王女がここにいることは、動物たちに教えてもらいました」
だけどリシェラの姿は、幼女と見間違うほどに小さい。
しかし強い光をたたえた瞳は変わらず、すべてを見透かすように澄んでいた。
「私は自分の扱う魔力を縮めることで、身体を小さく変化させました。マイア王女の私兵は呼んでも来れません。今ごろ腸が刺激されて過敏に……お腹をゴロゴロさせています」
「で、ですが……」
「私が参加していた誕生パーティーは終わりました。主役のライハント王子が数多の罪で捕まったので、さっそくここへ向かいました」
リシェラはわたくしの疑念を読みとることができるかのように、次々に答えていく。
そうして静かに近づいてくるので、わたくしは思わず後ずさった。
「マイア王女にも数々の捕縛状が出ていました。聖騎士団が離宮に派遣されていますので、いずれこの塔にもたどり着くはずです。それまでふたりきりで話しましょう」
なぜ!?
なぜわたくしの罪が暴かれているのに、リシェラがここへ来て話したがっているのか。
まさか、あのことに気づいて……。
わたくしが壁まで追い詰められると、彼女はぴたりと立ち止まった。
「これでマイア王女の疑問に、すべて答えたと思います。次は私の質問です」
……冷静にならなくては。
あれほど信じがたい事実に、他の者が気づけるわけがない。
それなのに、リシェラはわたくしが一番隠しておきたいことを聞いた。
「マイア王女はどうして、ミュナに変装した私をシャーロット王女だと思ったのですか?」
聖騎士様の調査によると、マイア王女は薬草園の保護をするという建前で、ケルゲオ草をはじめとする植物を栽培していたそうです。
そして後援する施療院などに配り、薬の効果を調べていました。
東の地の商品を不当に独占していたのも、調合の材料にするためです。
「彼女は自ら作り出した危険な未認可薬を、ヴァイス商会に売りさばいていました。そうして得た資金で違法な素材を買い漁り、さらなる新薬を調合していたのです。ライハント王子が裏取引で手に入れていた記憶障害の薬や睡眠薬も、マイア王女が流したものでしょう」
「ライハント王子自身も、ケルゲオの根の悪臭がしていました。彼の護衛騎士たちもです」
「やはりそうでしたか……」
私がライハント王子の誕生パーティーに来た目的はライハント王子の罪を暴くため、そして会場内の臭気を放つ者たちを見つけることでした。
彼らは未知の薬で悪事を起こすように意識を操られ、記憶障害を起こしている可能性が高いので、聖騎士団が詳しく調査をするそうです。
皮肉な話ですが、ヴァイス商会から未認可薬を買い漁ったライハント王子自身も、マイア王女に薬を飲まされて利用されていたのでしょう。
「リシェラ様、調査へのご協力に感謝します。このままマイア王女を放置していればソディエ王国、もしかすると世界中が未認可の新薬で汚染されていたかもしれません。おかげで被害が広がるのを止めることができました」
「お役に立てて良かったです。ミュナが人身売買の対象になっていた理由はわかりましたか?」
「まだ断言はできませんが、ミュナお嬢様を誘拐したのは、マイア王女の可能性が高いと思われます。彼女が捕まればさらに調査が進むでしょう。離宮にはすでに、マイア王女の捕縛状を得た聖騎士たちが派遣されています」
聖騎士団の調査では、マイア王女の正体について確認できたのはそこまでのようです。
でも私の考えが正しければ、彼女は今も隠している事情があります。
そしてミュナを手に入れようとした理由を聞けば、マイア王女は嘘をつくでしょう。
でも私はきれいな偽りより、本当のことを知りたいのです。
考え込む私の髪を、セレイブ様が撫でました。
「リシェラ、気になることでもあるのか」
「はい、もうひとつ大切な問題があります。これから東の地の商品は、ロアフ領にも流通するのでしょうか?」
「ああ、そのことは確認している。ひと月もすれば、物流も徐々に正常化するそうだ」
「ではようやく、東の地のおいしいものとお会いできるのですね!」
本物のおモチとの対面を思うと、胸が期待で膨みます。
「楽しみです……!」
「ああ、そうだな。俺も待ち遠しい」
私の頬にセレイブ様の手が添えられて、私は彼へと顔を向けました。
きれいなアイスブルーの瞳が、やさしくほほえんでくれます。
「リシェラのために、できる限り早く用意する。食べさせる度に変化するリシェの幸せな表情が早く見たい」
「すでに幸せです。セレイブ様、ありがとうございます!」
「君は本当にかわいいな」
セレイブ様は両腕で私をぎゅっと抱きしめてくれました。
ここはいつも素敵な匂いがします。
「……」
先ほどまで飄々としていた聖騎士様が両手で顔をおおっていました。
隙間から見える頬が赤いです。
「冷淡で有名なおまえに赤面させられるとは思わなかったんだが……」
「嫌なら去ればいいだろう。俺がおまえに遠慮して、妻への愛を控えることはない。なにより俺は今、あの害虫王子がリシェラに愛を乞うという不快な過去を癒やしている最中だ」
セレイブ様の顔が下りてくると、私の額に柔らかい感触がします。
「ちょっ、待て! 展開が早い!」
首まで赤くなった聖騎士様は、逃げるようにその場を去っていきました。
とても俊敏な動きですから、これからの調査もどんどん進みそうです。
「ではセレイブ様、私もそろそろ行きますね」
「あと少し」
「……ではセレイブ様、」
「あと少し」
「…………では」
「あと少し」
そしてかなり少し経ったころ、トマスさんがセレイブ様を呼びに来てくれました。
私はコーヒーの香りとお別れするのを名残惜しみながら、ジンジャーに乗って白亜の森に向かいます。
一年ほど前、はじめてミュナと出会った森です。
「ジンジャー、よろしくお願いします。聖騎士様たちへの証言が終わったら、セレイブ様にそう伝えてください」
「うん、わかったよ。僕とリシェラは魔力がつながっているし、追いかけることは難しくないから。でもリシェラ、なにをするつもり?」
「私はミュナの待つブリザーイェットに向かう前に、確認しておきたいことがあるのです」
これからセレイブ様の妻として再雇用してもらうために、最後の準備をします!
私は再会した白亜鳥の背に乗り、飛び立ちました。
◆◆◆
ヴァイス商会から、猫耳を持つ幼女を仕入れたという連絡が来てから一日ほど経つ。
あの娘はそろそろここにやって来るはず。
そう思うと珍しく調合に集中できず、わたくしは席を立つと塔の最上階にある大窓を開く。
ネイランダー山脈のふもとにある薬草園は朝焼けに染まっている。
美しくなるため、そして人々に愛されるため、わたくしは努力してきた。
離宮で過ごすことはほとんどない。
薬草園のそばにあるこの塔で調合にのめり込み、薬師と呼ばれるほどたくさんの薬と毒を生み出し続けている。
特にケルゲオ草を見つけてから、その有用な薬を調合することに情熱を傾けてきた。
どれも素晴らしい効果がある。
根は暗示薬、葉は人にとって無味無臭の睡眠薬、実は媚薬、そして花は……。
ああ、早く試したい。
そうすればわたくしは本当に美しくなれる。
背後で部屋の扉が開くと、幼女が室内に入ってきた。
ヴァイス商会は予定通り、わたくしの買った商品を運んでくれたらしい。
幼女は黙ったまま、頭からくるぶしまですっぽりと身体をおおうローブを着てうつむいたままだ。
緊張しているのだろう。
そう思う一方で、妙な違和感を覚える。
この子はひとりでやってきたけれど、彼女を連れてきたわたくしの私兵が見当たらない。
……考えすぎかもしれない。
暗示薬を摂取させた私兵たちに、わたくしと幼女がふたりきりになれるように指示したせいだろう。
それよりもまず、幼女の警戒を解かなくては。
「よく来てくれましたね、ミュナ。そろそろあなたが来るころだと待っていました」
その名を呼ぶことに不快感があるけれど、わたくしはひた隠しにしてほほえんだ。
幼女が懐けば、セレイブ様にも薬を飲ませる隙ができるだろう。
わたくしは自分の醜さを埋めるため、完璧な伴侶が欲しかった。
「怖がらなくてもいいのですよ。家から連れ去られたり、倉庫に閉じ込められたりして驚いたでしょう。でもそれは、あなたのためなのです」
歩み寄ると、幼女は手で鼻の回りを抑えた。
わたくしに染み付いたケルゲオの根の臭いが嫌なのだろう。
ロアフ騎士団の訓練所で久しぶりに会ったとき、くさいくさいくさすぎると臭がりやがったこと、わたくしは忘れていない。
「大丈夫、今はこの匂いが嫌いかもしれませんが、ここで暮らせばすぐ好きになりますよ。それにケルゲオの根は、とても良い薬が作れるのです。飲ませた相手の心を聞き出したり、お願いを叶えてもらえるように暗示をかけられます。便利でしょう?」
ただ意志の強い者には効きづらい。
それに両親はわたくしを嫌悪しすぎていたせいで、愛するように命じても効果がなかった。
だから彼らには毒性の強い別の新薬をいくつも試している。
それでもわたくしを愛せないのなら、いずれ毒に耐えられず死ぬだけのこと。
幼女はまだ鼻を手で抑えてうつむいている。
やはり懐かせるには暗示薬を飲ませて、わたくしが好きになるように暗示をかけるのが手っ取り早いだろう。
このために、猫の嗅覚では感じとれない麻痺の毒も調合しておいた。
「そうです、甘いお茶を淹れてあげます。お菓子も用意していますよ」
わたくしがヴァイス商会に流している滋養茶を隠そうと棚の奥へ押しやったとき、幼女ははじめて口を開いた。
「それ、ハリエット夫人の心身を苦しめた毒のお茶ですね」
滑らかな話し声に、わたくしはぞっとして振り返る。
改めて見れば、たたずむ姿に淑女のような気品があった。
「あなた、あの幼女じゃないわね……!」
ではいったい誰?
……いいえ、こんな小さな姿でわたくしのところに現れる者なんて、あいつしかいない!
「呼んでもいないのにまた来たのね、シャーロット!!」
わたくしは死んだ双子の名を叫ぶと、幼女はかぶっていたフードを取る。
それはわたくしが予想もしない人物だった。
「リシェラ……!?」
「はい、私はリシェラです。マイア王女がここにいることは、動物たちに教えてもらいました」
だけどリシェラの姿は、幼女と見間違うほどに小さい。
しかし強い光をたたえた瞳は変わらず、すべてを見透かすように澄んでいた。
「私は自分の扱う魔力を縮めることで、身体を小さく変化させました。マイア王女の私兵は呼んでも来れません。今ごろ腸が刺激されて過敏に……お腹をゴロゴロさせています」
「で、ですが……」
「私が参加していた誕生パーティーは終わりました。主役のライハント王子が数多の罪で捕まったので、さっそくここへ向かいました」
リシェラはわたくしの疑念を読みとることができるかのように、次々に答えていく。
そうして静かに近づいてくるので、わたくしは思わず後ずさった。
「マイア王女にも数々の捕縛状が出ていました。聖騎士団が離宮に派遣されていますので、いずれこの塔にもたどり着くはずです。それまでふたりきりで話しましょう」
なぜ!?
なぜわたくしの罪が暴かれているのに、リシェラがここへ来て話したがっているのか。
まさか、あのことに気づいて……。
わたくしが壁まで追い詰められると、彼女はぴたりと立ち止まった。
「これでマイア王女の疑問に、すべて答えたと思います。次は私の質問です」
……冷静にならなくては。
あれほど信じがたい事実に、他の者が気づけるわけがない。
それなのに、リシェラはわたくしが一番隠しておきたいことを聞いた。
「マイア王女はどうして、ミュナに変装した私をシャーロット王女だと思ったのですか?」
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