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46 永久の愛と贈り物
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どうやらこの素敵な包みは、ヴァイオラ様から私とセレイブ様への贈り物のようです。
「お義姉様、ありがとうございます」
「私の方こそお礼を言いたいわ。セレイブは幼いころから大人びた子で、どんな風に接しても淡々としていたから……。私もようやくあの子が心から喜ぶ贈り物ができそうで、すごく嬉しいの」
ヴァイオラ様は弟思いのお姉様のようです。
そんな彼女は努力家で、類まれな努力をしてネスト公爵夫人の地位を勝ち得たため、貴族たちの間でも一目置かれています。
なにより相手のことを考え抜く彼女の贈り物は、どんな人でも驚きと喜びを得られると人気があります。
きっとこの贈り物も私とセレイブ様のために、最良の品を選んでくれたはずです。
これは見たこともないような、おいしいものを食べさせてもらえる予感がします。
……いえ、食べ物ばかり期待しすぎてはいけませんね。
でもとても楽しみです。
「今日はリシェラもソディエ王家の相手で疲れたでしょう?」
ヴァイオラ様は私と並んでソファに座ると、肩や手を揉んでくれました。
これはなんて……なんて心地よいのでしょうか!
まさかおいしいもの以外で、これほど心をときめかせるものがあるとは思いませんでした。
「私はソディエ王家と会ったあと、いつもこうしてエドの手を揉んでいるの」
「旦那様をこんな風に癒せるなんて、とても素敵な奥様です」
「え、逆よ? 癒やされるのは私の方だもの。だってこうすればエドの休憩時間を邪魔せず肩に触れたり、手もつなげるのよ! しかも珍しく気の緩んだ顔をそばで眺められて、疲れもどこかへ飛んでくわ」
ヴァイオラ様はネスト公爵の顔を思い出しているのか、恋する少女のようにうっとりしながら私の手をほぐしてくれます。
これはネスト公爵を労っているわけではなく、ヴァイオラ様自身のごほうびだったのですね。
伴侶に一途なロアフ辺境伯の血筋を目の当たりにした気がします。
「そうだわリシェラ、私が先日出席した夜会で、あなたの裏庭は大評判だったわよ。貴族夫人の間で、野菜のガーデニングが流行しはじめているわ」
私の育てている裏庭の野菜は、相変わらずおいしく実っています。
ただ食べても食べても増え続けるので、ロアフ辺境伯邸に持っていっていったり、使用人に渡したり、配ったりしていました。
どうやらそれが、貴族夫人たちの口にまで届いていたようです。
「私も今日、あれほどたくさんの野菜をもらって驚いたもの。それにあなたのつくった野菜は本当に味が良いから、アーサーもナタリアもよく食べるの」
「野菜をもらっていただけて、私の方こそ助かりました。予想外なことにどんどん増え続けて、どうすればいいのかと思っていたところです」
「それなら来月ネスト公爵領で催される、収穫祭に出品してみない?」
それは年に一度、自然の実りに感謝して行われる、ネスト公爵領のお祭りのような行事だといいます。
その日はネスト公爵邸の広大な敷地が開放され、領民が持ち寄った野菜や果物、焼き菓子などが格安で振る舞われるそうです。
とてもおいしい予感がします。
なにより裏庭で出番を待っている、かわいい野菜たちの行き場ができます!
「子どもたちは仮装すればおかしがもらえるのよ。だからミュナもうちの子と一緒に回ったらどうかしら? きっといい思い出になるわ」
それはとても良いアイデアです。
私は帰りの馬車の中で、さっそくセレイブ様に相談してみました。
「それはミュナも喜ぶだろうな。リシェラが行くなら俺も行くよ」
「いこうね!」
ミュナはヴァイオラ様からいただいた、魔力の空になった魔石杖を掲げて喜んでいます。
いとこたちと遊んだミュナは、魔法使いごっこがとても楽しかったようです。
「しゅうかくさい、はやくこようねー!」
ミュナは馬車の窓から顔を出し、ネスト公爵領の方に向かって伸びやかな声を上げました。
その元気な姿に、セレイブ様もどこかホッとした様子です。
「ミュナは窓を開けていても平気そうだな」
行きの道では、ミュナをはじめオモチやジンジャーが薬草や毒草の強すぎる異臭を訴える地点がありました。
ネスト公爵に聞いてみると、そのあたりはマイア王女が慈善活動で後援する薬草園の近くだといいます。
オモチによれば猫にとって強烈な悪臭となる、ケルゲオの臭いも混ざっていたそうです。
「帰りは別の道を選んで正解だった。ミュナが不満を訴えないということは、体調にも問題いのだろう」
「体調の問題といえば……お義姉様からハリエット夫人がまた不調になっていると聞きました」
ヴァイオラ様が先日出席した夜会では、ハリエット夫人が突然欠席して噂になっていたそうです。
ハリエット夫人は十数年に渡る不調が続いていました。
でも今年の春ごろから急に元気を取り戻し、今回は久しぶりの出席で注目が集まっていました。
ところが数日前に体調が急変し、もしかすると冬まで持たないかも……とささやかれるほど悪化しているようです。
「セレイブ様、私はハリエット夫人の体調の異変で少し気になることがあります。そのことでフレディに手紙を送ってもいいですか?」
「ああ、もちろん」
セレイブ様は頷きながら少し上体を傾けて、隣の私に身を寄せました。
彼は馬車に乗るとき、いつも私の顔をずっと見ていたいと向かいに座るのに、今日はいつもと違うようです。
「セレイブ様、私の隣に座るなんて珍しいですね」
「今日はソディエ国王夫妻にリシェラを会わせて疲弊した。リシェラが足りない」
セレイブ様は私の手を取って、やさしく撫でたり口づけてくれます。
ヴァイオラ様とは違う触れ方で、こちらもとても心地よいです。
セレイブ様は甘えるように私の頭に額を寄せてきます。
「家が遠い……。ネスト公爵からもらった東方の食品を、早くリシェに食べさせたい。心ゆくまで甘やかしたい……」
セレイブ様からかすれた声でささやかれて、馬車の中だというのに私の鼓動が強まってきました。
東方の食品とは、まさか本物のオモチでしょうか?
それは早くお目にかからなければ……私も家に着くのが待ち遠しいです。
なにより他にも、私は期待に満ちた贈り物を忘れていません。
「セレイブ様、実はお義姉様から、私とセレイブ様にプレゼントをいただきました」
「へぇ、姉上が……。あの人は贈り物が上手なことで有名だけど、俺が幼少期からどんな品をもらっても平然としているのが物足りなかったようだな。いつか俺をあっと驚かせるほど喜ばせてみせると、何度宣言されたか」
「弟思いのお姉様ですね」
「負けず嫌いの類だと思うが……。だからおそらく、今回は俺がリシェラに食べさせたくなるような、おいしいなにかを贈ってくれたのだろう」
「やはりセレイブ様もそう思いますか?」
私たちの会話に反応して、ミュナが振り返りました。
「ミュナのプレゼント、まほうつかいのつえ。こっちリシェラとセレイブさま!」
ミュナは私が膝にのせている、ヴァイオラ様からいただいた包みを興味深そうに見つめています。
「きれいなおはな!」
ミュナは花柄の包装が気に入ったようで、手にしてよくよく眺めています。
早く中を見たいのかもしれませんが、自分のものではないので我慢しているようです。
「そうです。ミュナが開けて、私とセレイブ様に見せてくれますか?」
「うん! ミュナあける! じょうずみせるね!」
そこで私たちは家に着くと、さっそくお茶の準備をしてもらいました。
◇
ネスト公爵からいただいた東方の食品は、オモチではありませんでした。
それは少し残念ですが、まんじゅうという食べ物と緑茶という飲み物をいただいたので、メイドたちが裏庭の近くのガゼボに用意してくれました。
ジンジャーとオモチを呼ぶと、ふたりはまんじゅうに目を輝かせて夢中になって食べています。
私はその間にふたりの額の魔石を撫でて、魔力のつながりを強めていきます。
これでミュナがもらったからの魔石杖に、魔力を注ぐ準備ができました。
それからミュナとセレイブ様と一緒に、ガゼボの中心に置かれた円卓の席に着きます。
カップを満たす緑茶は神秘的な泉のようで、異国を思わせる香りがしました。
まんじゅうは磨かれた石みたいにころんとした見た目で、愛嬌があります。
茶色は黒糖まんじゅう、緑色は草まんじゅう、どちらも魅力的な響きです。
「リシェラとミュナの瞳の色だな」
セレイブ様はまんじゅうを手に取ると、私の前に緑色、ミュナに茶色の方を置きました。
「互いの瞳の色を同時に受け取るのは、永久の愛を意味する」
「とわのあい、なに?」
「ずっと愛するということだ」
ミュナは目を輝かせながらあの跳躍力で私に飛びつき、ぎゅっと抱きしめてきます。
「リシェラすき、ずっとね!」
「ふふ。私もミュナがずっと好きです!」
私とミュナは永久の愛を確かめながら、さっそく東方の食品をいただくことにします。
……これは!
「草まんじゅう、おいしいです!」
表面の皮から香草のかぐわしい匂いがふわっとしました。
その中には豆をペースト状にして作られた粒餡という塊がたくさん入っていて、予想以上に甘いです。
私は一瞬で東方の甘味に心を奪われました。
そして緑茶のまろやかな渋みが口を潤すと、今までの甘さが沁みるように調和されていきます。
なんてすばらしい取り合わせなのでしょうか!
「リシェ、こっちもあるよ」
セレイブ様がいつになくやさしい声で、今度は黒糖まんじゅうを私の口元に持ってきてくださいます。
私も自然とくちびるを開いて、気づけばしっとりとしたおまんじゅうが口の中に……これは!
「黒糖まんじゅう、おいしいです!」
今度は粒のないなめらかな餡に、複雑な深みのある甘さ……。
このコクは黒糖の風味でしょうか。
一度食べたら忘れられない、うっとりするような味わいです!
「あっ、リシェラとセレイブさまのプレゼントね!」
ミュナが思い出したように、ヴァイオラ様からいただいた包みを開けはじめました。
そうです、日持ちしないかもしれませんから、今のうちに確認して食べておきたいところです。
「みて、すごい!!」
ミュナは感激に声を弾ませ、ヴァイオラ様からの贈り物を私たちに見えるように持ち上げます。
周囲の視線は釘付けになり、あたりには一瞬の静けさが満ちます。
やがて私の隣にいるセレイブ様が、うめくように声を漏らしました。
「……っ、姉上!」
すごいです、お義姉様!
お食事中はいつも私がドキドキする側なのに、今回はセレイブ様が見たこともないくらい動揺しています。
でも私もこれほど素敵なもの、はじめて見ました!
「お義姉様、ありがとうございます」
「私の方こそお礼を言いたいわ。セレイブは幼いころから大人びた子で、どんな風に接しても淡々としていたから……。私もようやくあの子が心から喜ぶ贈り物ができそうで、すごく嬉しいの」
ヴァイオラ様は弟思いのお姉様のようです。
そんな彼女は努力家で、類まれな努力をしてネスト公爵夫人の地位を勝ち得たため、貴族たちの間でも一目置かれています。
なにより相手のことを考え抜く彼女の贈り物は、どんな人でも驚きと喜びを得られると人気があります。
きっとこの贈り物も私とセレイブ様のために、最良の品を選んでくれたはずです。
これは見たこともないような、おいしいものを食べさせてもらえる予感がします。
……いえ、食べ物ばかり期待しすぎてはいけませんね。
でもとても楽しみです。
「今日はリシェラもソディエ王家の相手で疲れたでしょう?」
ヴァイオラ様は私と並んでソファに座ると、肩や手を揉んでくれました。
これはなんて……なんて心地よいのでしょうか!
まさかおいしいもの以外で、これほど心をときめかせるものがあるとは思いませんでした。
「私はソディエ王家と会ったあと、いつもこうしてエドの手を揉んでいるの」
「旦那様をこんな風に癒せるなんて、とても素敵な奥様です」
「え、逆よ? 癒やされるのは私の方だもの。だってこうすればエドの休憩時間を邪魔せず肩に触れたり、手もつなげるのよ! しかも珍しく気の緩んだ顔をそばで眺められて、疲れもどこかへ飛んでくわ」
ヴァイオラ様はネスト公爵の顔を思い出しているのか、恋する少女のようにうっとりしながら私の手をほぐしてくれます。
これはネスト公爵を労っているわけではなく、ヴァイオラ様自身のごほうびだったのですね。
伴侶に一途なロアフ辺境伯の血筋を目の当たりにした気がします。
「そうだわリシェラ、私が先日出席した夜会で、あなたの裏庭は大評判だったわよ。貴族夫人の間で、野菜のガーデニングが流行しはじめているわ」
私の育てている裏庭の野菜は、相変わらずおいしく実っています。
ただ食べても食べても増え続けるので、ロアフ辺境伯邸に持っていっていったり、使用人に渡したり、配ったりしていました。
どうやらそれが、貴族夫人たちの口にまで届いていたようです。
「私も今日、あれほどたくさんの野菜をもらって驚いたもの。それにあなたのつくった野菜は本当に味が良いから、アーサーもナタリアもよく食べるの」
「野菜をもらっていただけて、私の方こそ助かりました。予想外なことにどんどん増え続けて、どうすればいいのかと思っていたところです」
「それなら来月ネスト公爵領で催される、収穫祭に出品してみない?」
それは年に一度、自然の実りに感謝して行われる、ネスト公爵領のお祭りのような行事だといいます。
その日はネスト公爵邸の広大な敷地が開放され、領民が持ち寄った野菜や果物、焼き菓子などが格安で振る舞われるそうです。
とてもおいしい予感がします。
なにより裏庭で出番を待っている、かわいい野菜たちの行き場ができます!
「子どもたちは仮装すればおかしがもらえるのよ。だからミュナもうちの子と一緒に回ったらどうかしら? きっといい思い出になるわ」
それはとても良いアイデアです。
私は帰りの馬車の中で、さっそくセレイブ様に相談してみました。
「それはミュナも喜ぶだろうな。リシェラが行くなら俺も行くよ」
「いこうね!」
ミュナはヴァイオラ様からいただいた、魔力の空になった魔石杖を掲げて喜んでいます。
いとこたちと遊んだミュナは、魔法使いごっこがとても楽しかったようです。
「しゅうかくさい、はやくこようねー!」
ミュナは馬車の窓から顔を出し、ネスト公爵領の方に向かって伸びやかな声を上げました。
その元気な姿に、セレイブ様もどこかホッとした様子です。
「ミュナは窓を開けていても平気そうだな」
行きの道では、ミュナをはじめオモチやジンジャーが薬草や毒草の強すぎる異臭を訴える地点がありました。
ネスト公爵に聞いてみると、そのあたりはマイア王女が慈善活動で後援する薬草園の近くだといいます。
オモチによれば猫にとって強烈な悪臭となる、ケルゲオの臭いも混ざっていたそうです。
「帰りは別の道を選んで正解だった。ミュナが不満を訴えないということは、体調にも問題いのだろう」
「体調の問題といえば……お義姉様からハリエット夫人がまた不調になっていると聞きました」
ヴァイオラ様が先日出席した夜会では、ハリエット夫人が突然欠席して噂になっていたそうです。
ハリエット夫人は十数年に渡る不調が続いていました。
でも今年の春ごろから急に元気を取り戻し、今回は久しぶりの出席で注目が集まっていました。
ところが数日前に体調が急変し、もしかすると冬まで持たないかも……とささやかれるほど悪化しているようです。
「セレイブ様、私はハリエット夫人の体調の異変で少し気になることがあります。そのことでフレディに手紙を送ってもいいですか?」
「ああ、もちろん」
セレイブ様は頷きながら少し上体を傾けて、隣の私に身を寄せました。
彼は馬車に乗るとき、いつも私の顔をずっと見ていたいと向かいに座るのに、今日はいつもと違うようです。
「セレイブ様、私の隣に座るなんて珍しいですね」
「今日はソディエ国王夫妻にリシェラを会わせて疲弊した。リシェラが足りない」
セレイブ様は私の手を取って、やさしく撫でたり口づけてくれます。
ヴァイオラ様とは違う触れ方で、こちらもとても心地よいです。
セレイブ様は甘えるように私の頭に額を寄せてきます。
「家が遠い……。ネスト公爵からもらった東方の食品を、早くリシェに食べさせたい。心ゆくまで甘やかしたい……」
セレイブ様からかすれた声でささやかれて、馬車の中だというのに私の鼓動が強まってきました。
東方の食品とは、まさか本物のオモチでしょうか?
それは早くお目にかからなければ……私も家に着くのが待ち遠しいです。
なにより他にも、私は期待に満ちた贈り物を忘れていません。
「セレイブ様、実はお義姉様から、私とセレイブ様にプレゼントをいただきました」
「へぇ、姉上が……。あの人は贈り物が上手なことで有名だけど、俺が幼少期からどんな品をもらっても平然としているのが物足りなかったようだな。いつか俺をあっと驚かせるほど喜ばせてみせると、何度宣言されたか」
「弟思いのお姉様ですね」
「負けず嫌いの類だと思うが……。だからおそらく、今回は俺がリシェラに食べさせたくなるような、おいしいなにかを贈ってくれたのだろう」
「やはりセレイブ様もそう思いますか?」
私たちの会話に反応して、ミュナが振り返りました。
「ミュナのプレゼント、まほうつかいのつえ。こっちリシェラとセレイブさま!」
ミュナは私が膝にのせている、ヴァイオラ様からいただいた包みを興味深そうに見つめています。
「きれいなおはな!」
ミュナは花柄の包装が気に入ったようで、手にしてよくよく眺めています。
早く中を見たいのかもしれませんが、自分のものではないので我慢しているようです。
「そうです。ミュナが開けて、私とセレイブ様に見せてくれますか?」
「うん! ミュナあける! じょうずみせるね!」
そこで私たちは家に着くと、さっそくお茶の準備をしてもらいました。
◇
ネスト公爵からいただいた東方の食品は、オモチではありませんでした。
それは少し残念ですが、まんじゅうという食べ物と緑茶という飲み物をいただいたので、メイドたちが裏庭の近くのガゼボに用意してくれました。
ジンジャーとオモチを呼ぶと、ふたりはまんじゅうに目を輝かせて夢中になって食べています。
私はその間にふたりの額の魔石を撫でて、魔力のつながりを強めていきます。
これでミュナがもらったからの魔石杖に、魔力を注ぐ準備ができました。
それからミュナとセレイブ様と一緒に、ガゼボの中心に置かれた円卓の席に着きます。
カップを満たす緑茶は神秘的な泉のようで、異国を思わせる香りがしました。
まんじゅうは磨かれた石みたいにころんとした見た目で、愛嬌があります。
茶色は黒糖まんじゅう、緑色は草まんじゅう、どちらも魅力的な響きです。
「リシェラとミュナの瞳の色だな」
セレイブ様はまんじゅうを手に取ると、私の前に緑色、ミュナに茶色の方を置きました。
「互いの瞳の色を同時に受け取るのは、永久の愛を意味する」
「とわのあい、なに?」
「ずっと愛するということだ」
ミュナは目を輝かせながらあの跳躍力で私に飛びつき、ぎゅっと抱きしめてきます。
「リシェラすき、ずっとね!」
「ふふ。私もミュナがずっと好きです!」
私とミュナは永久の愛を確かめながら、さっそく東方の食品をいただくことにします。
……これは!
「草まんじゅう、おいしいです!」
表面の皮から香草のかぐわしい匂いがふわっとしました。
その中には豆をペースト状にして作られた粒餡という塊がたくさん入っていて、予想以上に甘いです。
私は一瞬で東方の甘味に心を奪われました。
そして緑茶のまろやかな渋みが口を潤すと、今までの甘さが沁みるように調和されていきます。
なんてすばらしい取り合わせなのでしょうか!
「リシェ、こっちもあるよ」
セレイブ様がいつになくやさしい声で、今度は黒糖まんじゅうを私の口元に持ってきてくださいます。
私も自然とくちびるを開いて、気づけばしっとりとしたおまんじゅうが口の中に……これは!
「黒糖まんじゅう、おいしいです!」
今度は粒のないなめらかな餡に、複雑な深みのある甘さ……。
このコクは黒糖の風味でしょうか。
一度食べたら忘れられない、うっとりするような味わいです!
「あっ、リシェラとセレイブさまのプレゼントね!」
ミュナが思い出したように、ヴァイオラ様からいただいた包みを開けはじめました。
そうです、日持ちしないかもしれませんから、今のうちに確認して食べておきたいところです。
「みて、すごい!!」
ミュナは感激に声を弾ませ、ヴァイオラ様からの贈り物を私たちに見えるように持ち上げます。
周囲の視線は釘付けになり、あたりには一瞬の静けさが満ちます。
やがて私の隣にいるセレイブ様が、うめくように声を漏らしました。
「……っ、姉上!」
すごいです、お義姉様!
お食事中はいつも私がドキドキする側なのに、今回はセレイブ様が見たこともないくらい動揺しています。
でも私もこれほど素敵なもの、はじめて見ました!
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