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39 勝負の結果
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「ライハントはリシェラに好意を寄せているのです」
マイア王女の言葉に、私は耳を疑いました。
彼女はライハント王子が私をだまし、魔獣を乱獲するために捕まえようとしていることを知らないのでしょう。
それに万が一マイア王女の話が本当だとしても、ますますライハント王子を信用できなくなるだけです。
好きな人をだまして利用したあげく、自分の立場が悪くなると処刑を命じるなんて、私には理解できません。
どちらにせよ、私はライハント王子が嫌いだということを再確認しただけでした。
でもマイア王女は考え込む私がときめいていると思ったのか、口元に笑みを浮かべています。
「リシェラ、どうかしら。ライハントとの結婚を考えてくださらない?」
「それはなにがあっても絶対に嫌です。なにより私はセレイブ様の妻ですから!」
そのことをマイア王女は知っているはずです。
それなのになぜ、私にライハント王子との結婚を勧めてくるのでしょうか。
「セレイブ様のことでしたら、リシェラが心配する必要はありません。わたくしがリシェラのかわりに妻になってさしあげます」
なるほど……。
マイア王女の言葉に、私はジンジャーから聞いた、セレイブ様の縁談の悩みを思い出しました。
セレイブ様が私に住み込みのお仕事として妻の仕事を与えてくれたのは、このような人がやってきて困っていたからです。
つまり今こそ、セレイブ様の妻としての出番がきたということではないでしょうか?
それに私はセレイブ様からおいしい物を食べさせていただける権利を、誰かに渡したくなんてありません。
ここは華麗に毅然に対応してみせます!
「マイア王女にセレイブ様の妻をゆずるつもりはありません。それに今のセレイブ様には私が必要ですから」
嘘ではありません。
セレイブ様は私が作った焼きプリンを知ったら、もうそれ以外は食べられないと言っていました。
それに私がおいしく食べる顔を見ないと食欲が落ちたり、「リシェ」とささやかなければ寝付きが悪くなったりするそうです。
なによりミュナの通訳は他の人に任せられません。
「リシェラはずいぶん自信があるようですね。でもわたくしに負ける要素があるなんて考えられません。化粧品や香料用品、髪から足の爪先まで磨き上げているのですから。この技術と香りで彼を癒してみせます」
香りは止めたほうがいいと思うのですが、マイア王女はお化粧で整えられた赤いくちびるに、余裕のある笑みを浮かべました。
その華やかな顔立ちは、彼女の双子の妹だったシャーロット王女にそっくりだったといいます。
ただ瞳はシャーロット王女がソディエ国王と同じ緑色なのに対し、マイア王女はライハント王子と同じく母親ゆずりの金色をしています。
「わたくしは王女である前に、薬師でもあります。すべて個々に合わせたものを調合できるので、身の回りの手入れはすべてそうしています。でもリシェラは……悪くはありませんが地味ですし、あまりお手入れをしていなさそうですね」
「そんなことはありません」
薬師であるマイア王女が、慈善活動で薬草園を保護している話は聞いたことがあります。
でも私の育てている裏庭が負けているとは思いません。
きっと私の裏庭の野菜たちのほうがおいしいです。
「私は毎日きちんと愛情を込めてお世話しています。もちろんどんどん成長しています」
私がひるまず答えると、マイア王女は不意をつかれたように目を見開きました。
「成長している? リシェラは成人しているのですよね? 私でも不可能なのに、そんなまさか……」
「本当です。信じてもらえないのでしたら、見ていただいてもけっこうです」
彼女の視線はそのまま下がっていき、なぜか私の胸元を凝視しています。
私の胸、そんなに変でしょうか。
わかりませんが、マイア王女は葛藤するような表情で黙り込んでしまいました。
でも私はセレイブ様の妻として毅然に対応します。
「マイア王女は薬師の技術で、どのような育て方をしているのですか?」
「わ、わたくしはその、育つのはまだで……」
「えっ、育たないのにお世話しているのですか? それでは信頼できる方に相談してはいかがでしょうか。私はミュナやセレイブ様にもお手伝いしてもらっています」
最近はトマトにキュウリ、ピーマンやナスにトウモロコシなどもどんどん実っています。
そのまま食べるのはもちろん、オモチがいてくれるのでその場ですぐお肉と焼いたり煮てスープにすると、本当においしいです。
「おかげで執事や料理長、メイドたちの誰もがすばらしいと褒めてくれます。そうです、私とマイア王女でお互いに見せ合えば、なにかの参考になるかも――」
「こ、この話はもういいです!」
マイア王女はとても悔しそうな顔をして、自分から振った話をやめました。
よかったです。
裏庭に助けられて、どうにかセレイブ様の妻の座を守ることができました。
「リシェラ、待たせたな」
声のする方を見ると、観客席の入り口から銀髪の騎士がやって来ました。
気づけば休憩の時間になっていたようです。
そのためセレイブ様もリラックスした様子でこちらへ向かってきたのですが、私がマイア王女といることに気づくと表情が変わりました。
マイア王女の言葉に、私は耳を疑いました。
彼女はライハント王子が私をだまし、魔獣を乱獲するために捕まえようとしていることを知らないのでしょう。
それに万が一マイア王女の話が本当だとしても、ますますライハント王子を信用できなくなるだけです。
好きな人をだまして利用したあげく、自分の立場が悪くなると処刑を命じるなんて、私には理解できません。
どちらにせよ、私はライハント王子が嫌いだということを再確認しただけでした。
でもマイア王女は考え込む私がときめいていると思ったのか、口元に笑みを浮かべています。
「リシェラ、どうかしら。ライハントとの結婚を考えてくださらない?」
「それはなにがあっても絶対に嫌です。なにより私はセレイブ様の妻ですから!」
そのことをマイア王女は知っているはずです。
それなのになぜ、私にライハント王子との結婚を勧めてくるのでしょうか。
「セレイブ様のことでしたら、リシェラが心配する必要はありません。わたくしがリシェラのかわりに妻になってさしあげます」
なるほど……。
マイア王女の言葉に、私はジンジャーから聞いた、セレイブ様の縁談の悩みを思い出しました。
セレイブ様が私に住み込みのお仕事として妻の仕事を与えてくれたのは、このような人がやってきて困っていたからです。
つまり今こそ、セレイブ様の妻としての出番がきたということではないでしょうか?
それに私はセレイブ様からおいしい物を食べさせていただける権利を、誰かに渡したくなんてありません。
ここは華麗に毅然に対応してみせます!
「マイア王女にセレイブ様の妻をゆずるつもりはありません。それに今のセレイブ様には私が必要ですから」
嘘ではありません。
セレイブ様は私が作った焼きプリンを知ったら、もうそれ以外は食べられないと言っていました。
それに私がおいしく食べる顔を見ないと食欲が落ちたり、「リシェ」とささやかなければ寝付きが悪くなったりするそうです。
なによりミュナの通訳は他の人に任せられません。
「リシェラはずいぶん自信があるようですね。でもわたくしに負ける要素があるなんて考えられません。化粧品や香料用品、髪から足の爪先まで磨き上げているのですから。この技術と香りで彼を癒してみせます」
香りは止めたほうがいいと思うのですが、マイア王女はお化粧で整えられた赤いくちびるに、余裕のある笑みを浮かべました。
その華やかな顔立ちは、彼女の双子の妹だったシャーロット王女にそっくりだったといいます。
ただ瞳はシャーロット王女がソディエ国王と同じ緑色なのに対し、マイア王女はライハント王子と同じく母親ゆずりの金色をしています。
「わたくしは王女である前に、薬師でもあります。すべて個々に合わせたものを調合できるので、身の回りの手入れはすべてそうしています。でもリシェラは……悪くはありませんが地味ですし、あまりお手入れをしていなさそうですね」
「そんなことはありません」
薬師であるマイア王女が、慈善活動で薬草園を保護している話は聞いたことがあります。
でも私の育てている裏庭が負けているとは思いません。
きっと私の裏庭の野菜たちのほうがおいしいです。
「私は毎日きちんと愛情を込めてお世話しています。もちろんどんどん成長しています」
私がひるまず答えると、マイア王女は不意をつかれたように目を見開きました。
「成長している? リシェラは成人しているのですよね? 私でも不可能なのに、そんなまさか……」
「本当です。信じてもらえないのでしたら、見ていただいてもけっこうです」
彼女の視線はそのまま下がっていき、なぜか私の胸元を凝視しています。
私の胸、そんなに変でしょうか。
わかりませんが、マイア王女は葛藤するような表情で黙り込んでしまいました。
でも私はセレイブ様の妻として毅然に対応します。
「マイア王女は薬師の技術で、どのような育て方をしているのですか?」
「わ、わたくしはその、育つのはまだで……」
「えっ、育たないのにお世話しているのですか? それでは信頼できる方に相談してはいかがでしょうか。私はミュナやセレイブ様にもお手伝いしてもらっています」
最近はトマトにキュウリ、ピーマンやナスにトウモロコシなどもどんどん実っています。
そのまま食べるのはもちろん、オモチがいてくれるのでその場ですぐお肉と焼いたり煮てスープにすると、本当においしいです。
「おかげで執事や料理長、メイドたちの誰もがすばらしいと褒めてくれます。そうです、私とマイア王女でお互いに見せ合えば、なにかの参考になるかも――」
「こ、この話はもういいです!」
マイア王女はとても悔しそうな顔をして、自分から振った話をやめました。
よかったです。
裏庭に助けられて、どうにかセレイブ様の妻の座を守ることができました。
「リシェラ、待たせたな」
声のする方を見ると、観客席の入り口から銀髪の騎士がやって来ました。
気づけば休憩の時間になっていたようです。
そのためセレイブ様もリラックスした様子でこちらへ向かってきたのですが、私がマイア王女といることに気づくと表情が変わりました。
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