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34 おでかけの約束
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「ネスト公爵の話している姪は、俺の兄……ミュナの父であるオスカーの早逝した婚約者だ」
「えっ」
つまりネスト公爵の姪御様とは、彼の兄であるソディエ国王の娘様ですから……。
「兄上の婚約者はソディエ王国の王女、シャーロット王女だった」
シャーロット王女の名前は、マリスヒル伯爵邸からほとんど出たことがない私も聞いたことがありました。
ソディエ国王夫妻は三人のお子様に恵まれています。
双子で瓜ふたつの美しさを持つマイア王女とシャーロット王女、そして弟のライハント王子です。
双子の姉のマイア王女はいつも国花柄のスカーフを巻いていて、国への忠誠心を示しているそうです。
また慈善活動に力を入れているため、国民からの人気は高いといいます。
でもソディエ国王夫妻は姉のマイア王女を「醜い」と毛嫌いしているのだと、ライハント王子から聞いたことがあります。
反対に双子の妹であるシャーロット王女は「美しい娘」だと、かわいがられていたそうです。
姉妹は瞳の色以外そっくりの美しい双子だと、国民からも評判です。
そしてソディエ国王夫妻の姉妹に対する評価が極端に異なっている理由は、ライハント王子もわからないようでした。
「俺から見ても、兄上とシャーロット王女は相思相愛の関係だった。だがふたりの結婚にソディエ国王夫妻は猛反対した。邪悪な獣のはびこるロアフ辺境伯領の次期当主と、清らかなソディエ王国の王女が結ばれるのは不適切だと」
オスカー様はシャーロット王女との婚姻を認めてもらう条件として、ソディエ国王夫妻から無理難題をいくつも出されたといいます。
そして彼はすべてを成し遂げたそうです。
さすがあの一族と思わせる、執念ともいえる一途さを感じます。
ソディエ国王夫妻はオスカー様が失敗すると思っていたようですが、渋々ふたりの婚姻を認めたそうです。
ただしシャーロット王女は王位継承権を放棄すること、そしてオスカー様と婚姻した後はソディエ王国に戻ってこないことを条件として、ふたりは婚約者となりました。
ソディエ国王夫妻はそれから、シャーロット王女を以前のようにかわいがらなくなったそうです。
彼らはもともと、マイア王女のことを毛嫌いしていました。
そのため末息子のライハント王子を次期国王に推し、彼だけをひいきするようになったようです。
「シャーロット王女は婚姻までの間、ソディエ王国の国民に感謝の別れを伝えるため、普段より精力的に慈善活動を行っていた。そして無理をされたのか、その最中に体調を崩して亡くなってしまった。だが王族の者はネスト公爵以外、悲しんでいるようには見えなかった……。マイア王女は知らないが」
「えっ……それはどういうことですか?」
「マイア王女はシャーロット王女の葬儀の席に参列しなかった。それどころかいつも不調を理由に、ソディエ王国の国儀に出席したことすらないようだ」
それは変な気がします。
マイア王女が熱心に慈善活動を行っているのは有名ですから。
いつも国儀に参加しない理由が体の不調なんて不思議です。
「……いや、彼女の話はやめよう」
セレイブ様はマイア王女について話したくないのか、話題を戻しました。
「ミュナの話すオモチと、兄の婚約者だったシャーロット王女が好きな東国の食品が一致しているかはわからない。だが可能性としてはあるだろう」
『ミュナ、サンドイッチ、木のあるところいく。オモチあげる……』
ミュナが再びつぶやく姿は、どこかオモチを恋しがっているように見えます。
私はミュナから得たオモチ情報を、もう一度思い出すことにしました。
「ミュナの話すオモチとは、木のあるところにあって、白く、ふわふわで、温かく、火で焼くらしいのです」
ただパンのようなものだとすれば、ミュナが山や木のあるところを探していた理由はよくわかりません。
パンのなる木、オモチのなる木のような、すばらしい木があるのでしょうか?
セレイブ様も顎に指を当てて思案しています。
「もしオモチが食材なら、サンドイッチの材料にするという可能性があるかもしれない」
「なるほど。裏庭で採ったものを使って作ったサンドイッチを、ミュナはとても気に入っていました」
サンドイッチを持って木のあるところに行きたいというのは、そこで見つけたオモチをサンドイッチにはさんで食べたい、ということかもしれません。
どんなものか想像はつきませんが、私もぜひ食べてみたいです。
「ねぇミュナ、オモチっておいしいのでしょうか?」
ミュナはサンドイッチの具材の残りの、赤いジャムのかけられたヨーグルトをスプーンですくったまま手を止めました。
「おいしい?」
「はい。ミュナはオモチを食べたことがありますか? 私は機会があれば、オモチを食べてみたいのです」
ミュナは困惑した表情で沈黙しました。
予想と反応が違いすぎます。
私とセレイブ様は顔を見合わせました。
「オモチはおいしくないのでしょうか?」
もしかすると木のそばに生える毒などかもしれません。
でもミュナは嗅覚が優れているので、オモチが毒なら嫌がる気もします。
オモチの謎はますます深まりました。
「セレイブ様、オモチのもうひとつの手がかりは、木のあるところです。ミュナの行きたがっている『木のあるところ』とは、彼女が保護されたネイランダー山脈ではないでしょうか」
「俺もそう思う」
ロアフ辺境伯領の端に連なるネイランダーは険しく広大な山脈で、ソディエ王国との国境になっています。
ミュナはその奥地の木の根元で眠っているところを保護されました。
木のあるところへ行きたいのは、ミュナが自分のいたネイランダー山脈へ行きたがっているような気がします。
セレイブ様は口元に手を当てて考え込んでいた視線を上げて、明るい口調で言いました。
「よし、ピクニックに行こう」
「ピクニック……ですか?」
「このままだとオモチについて謎が深まっていくばかりだ。ミュナの話す『木のあるところ』……ネイランダー山脈に行けば、オモチの手がかりが見つかるかもしれない」
ネイランダー山脈の奥地は険しく、危険な魔獣などが棲んでいるそうです。
でも入り口は山菜や川魚を釣る人がよく訪れる、自然豊かな場所だといいます。
ミュナが山のふもとで元気に走り回る姿を想像すると、ピクニックをするのに最適な場所に思えてきました。
「リシェラはどう思う?」
「行きたいです! 実は私、子どものころからピクニックに憧れていました」
『ピクニック、なに……?』
ミュナが不思議そうにしているので説明すると、その大きな目がみるみるうちに輝いていきます。
『ピクニック、ミュナいく!』
「行きましょう!」
それに私にとってもはじめてのピクニック、楽しみです!
感謝を込めたサンドイッチ、これはぜひともセレイブ様の口元へ……。
と思ったのですが、運ぼうとしたサンドイッチを受け取ったのはセレイブ様の口ではなく、彼の指先でした。
「そんなに喜んでもらえると、君の望むものすべてを与えたくなる。リシェ、そのかわいい口を開けて」
この流れは危険です……!
セレイブ様は私から受け取ったサンドイッチを、私の口元へ運ぼうとします。
でも私は顔を背けて、はじめてセレイブ様に抵抗しました。
そんな私の態度に、セレイブ様は傷ついた様子もありません。
むしろ視界の端に見えるのが、いつもより甘やかな笑顔なのはなぜでしょう。
「わがままをいうなんて珍しいな……どうした、リシェ?」
セレイブ様は自分の椅子を、私のすぐそばまで持ってきて座り直しました。
そして私の背中ごしに、やさしい声でささやきます。
「いい子だからリシェ、こっちを向いて幸せに食べる顔を俺に見せてくれ」
「セレイブ様、どうかリシェと呼ぶのはおやめください」
「なぜ?」
「このままでは私、セレイブ様が隣にいるだけで、『これからリシェと呼ばれて、おいしいものが食べられるのかもしれない』と、ずっと期待してしまいます。これは本当に大変なことなのです。期待が膨らみすぎて心臓が持ちませ――」
「素直は君の魅力だよ、リシェ」
セレイブ様の指が私の背後から顔へ近づいたときには、すでに私の口の中へ食べ物がやってきていました。
シラタマ鳥の卵サンド、これを食べたら他の卵サンドは食べられないような濃厚なふわふわ感がたまらなくおいしいです……はっ!
このままではセレイブ様の手中に落ちてしまいます。
すでに食べ物にすら集中できないほど、セレイブ様からリシェと呼ばれるだけで胸が高鳴り続けているのですから!
私は心苦しいながらも、セレイブ様の持つサンドイッチにそっぽを向いたまま訴えました。
「セレイブ様、リシェ呼びはどうか封印して欲しいのです! このままではセレイブ様といるだけで、私の心臓はずっとドキドキしつづけることに――」
「ダメだよリシェ。そんなこと言われると、もっと甘やかしたくなる」
私の口の中に、再び柔らかな生地のサンドイッチがやってきます。
なんて甘い、とろけるようなジャムでしょうか……!
このままでは私、リシェと呼ばれることをまた期待して……。
「ほら、リシェ。あーん」
ぱくっ……!
「いい子だな、リシェ」
ぱくっ……!
「困ったな。リシェは本当にかわいい」
ぱくっ……!
リシェと呼ばれるたびに甘い幸せがやってくる心地よさで、私はつい油断していました。
私の顎をセレイブ様の指が捉えると、彼の方へと顔を向けさせられます。
ずっとそらしていた目が合うと、セレイブ様は不敵な微笑を浮かべました。
「逃さないよ、俺のリシェ」
私の口の中に甘いジャムが滑り込んできます。
その魅惑のささやきと甘美な味には、とても抗いきれません。
私は、リシェは幸せです……!
でもこんな状態でセレイブ様とピクニックに行ったら、私はどうなってしまうのでしょうか。
間違いなく「リシェ」と呼ばれることを期待して、一日中ドキドキし過ぎてしまいます。
これではピクニックそのものを楽しんだり、おいしいものを味わう心の余裕すら失われてしまいそうです。
この幸せすぎる悩み、ピクニックまでにどうにかしなくては……ぱくっ!
「えっ」
つまりネスト公爵の姪御様とは、彼の兄であるソディエ国王の娘様ですから……。
「兄上の婚約者はソディエ王国の王女、シャーロット王女だった」
シャーロット王女の名前は、マリスヒル伯爵邸からほとんど出たことがない私も聞いたことがありました。
ソディエ国王夫妻は三人のお子様に恵まれています。
双子で瓜ふたつの美しさを持つマイア王女とシャーロット王女、そして弟のライハント王子です。
双子の姉のマイア王女はいつも国花柄のスカーフを巻いていて、国への忠誠心を示しているそうです。
また慈善活動に力を入れているため、国民からの人気は高いといいます。
でもソディエ国王夫妻は姉のマイア王女を「醜い」と毛嫌いしているのだと、ライハント王子から聞いたことがあります。
反対に双子の妹であるシャーロット王女は「美しい娘」だと、かわいがられていたそうです。
姉妹は瞳の色以外そっくりの美しい双子だと、国民からも評判です。
そしてソディエ国王夫妻の姉妹に対する評価が極端に異なっている理由は、ライハント王子もわからないようでした。
「俺から見ても、兄上とシャーロット王女は相思相愛の関係だった。だがふたりの結婚にソディエ国王夫妻は猛反対した。邪悪な獣のはびこるロアフ辺境伯領の次期当主と、清らかなソディエ王国の王女が結ばれるのは不適切だと」
オスカー様はシャーロット王女との婚姻を認めてもらう条件として、ソディエ国王夫妻から無理難題をいくつも出されたといいます。
そして彼はすべてを成し遂げたそうです。
さすがあの一族と思わせる、執念ともいえる一途さを感じます。
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ただしシャーロット王女は王位継承権を放棄すること、そしてオスカー様と婚姻した後はソディエ王国に戻ってこないことを条件として、ふたりは婚約者となりました。
ソディエ国王夫妻はそれから、シャーロット王女を以前のようにかわいがらなくなったそうです。
彼らはもともと、マイア王女のことを毛嫌いしていました。
そのため末息子のライハント王子を次期国王に推し、彼だけをひいきするようになったようです。
「シャーロット王女は婚姻までの間、ソディエ王国の国民に感謝の別れを伝えるため、普段より精力的に慈善活動を行っていた。そして無理をされたのか、その最中に体調を崩して亡くなってしまった。だが王族の者はネスト公爵以外、悲しんでいるようには見えなかった……。マイア王女は知らないが」
「えっ……それはどういうことですか?」
「マイア王女はシャーロット王女の葬儀の席に参列しなかった。それどころかいつも不調を理由に、ソディエ王国の国儀に出席したことすらないようだ」
それは変な気がします。
マイア王女が熱心に慈善活動を行っているのは有名ですから。
いつも国儀に参加しない理由が体の不調なんて不思議です。
「……いや、彼女の話はやめよう」
セレイブ様はマイア王女について話したくないのか、話題を戻しました。
「ミュナの話すオモチと、兄の婚約者だったシャーロット王女が好きな東国の食品が一致しているかはわからない。だが可能性としてはあるだろう」
『ミュナ、サンドイッチ、木のあるところいく。オモチあげる……』
ミュナが再びつぶやく姿は、どこかオモチを恋しがっているように見えます。
私はミュナから得たオモチ情報を、もう一度思い出すことにしました。
「ミュナの話すオモチとは、木のあるところにあって、白く、ふわふわで、温かく、火で焼くらしいのです」
ただパンのようなものだとすれば、ミュナが山や木のあるところを探していた理由はよくわかりません。
パンのなる木、オモチのなる木のような、すばらしい木があるのでしょうか?
セレイブ様も顎に指を当てて思案しています。
「もしオモチが食材なら、サンドイッチの材料にするという可能性があるかもしれない」
「なるほど。裏庭で採ったものを使って作ったサンドイッチを、ミュナはとても気に入っていました」
サンドイッチを持って木のあるところに行きたいというのは、そこで見つけたオモチをサンドイッチにはさんで食べたい、ということかもしれません。
どんなものか想像はつきませんが、私もぜひ食べてみたいです。
「ねぇミュナ、オモチっておいしいのでしょうか?」
ミュナはサンドイッチの具材の残りの、赤いジャムのかけられたヨーグルトをスプーンですくったまま手を止めました。
「おいしい?」
「はい。ミュナはオモチを食べたことがありますか? 私は機会があれば、オモチを食べてみたいのです」
ミュナは困惑した表情で沈黙しました。
予想と反応が違いすぎます。
私とセレイブ様は顔を見合わせました。
「オモチはおいしくないのでしょうか?」
もしかすると木のそばに生える毒などかもしれません。
でもミュナは嗅覚が優れているので、オモチが毒なら嫌がる気もします。
オモチの謎はますます深まりました。
「セレイブ様、オモチのもうひとつの手がかりは、木のあるところです。ミュナの行きたがっている『木のあるところ』とは、彼女が保護されたネイランダー山脈ではないでしょうか」
「俺もそう思う」
ロアフ辺境伯領の端に連なるネイランダーは険しく広大な山脈で、ソディエ王国との国境になっています。
ミュナはその奥地の木の根元で眠っているところを保護されました。
木のあるところへ行きたいのは、ミュナが自分のいたネイランダー山脈へ行きたがっているような気がします。
セレイブ様は口元に手を当てて考え込んでいた視線を上げて、明るい口調で言いました。
「よし、ピクニックに行こう」
「ピクニック……ですか?」
「このままだとオモチについて謎が深まっていくばかりだ。ミュナの話す『木のあるところ』……ネイランダー山脈に行けば、オモチの手がかりが見つかるかもしれない」
ネイランダー山脈の奥地は険しく、危険な魔獣などが棲んでいるそうです。
でも入り口は山菜や川魚を釣る人がよく訪れる、自然豊かな場所だといいます。
ミュナが山のふもとで元気に走り回る姿を想像すると、ピクニックをするのに最適な場所に思えてきました。
「リシェラはどう思う?」
「行きたいです! 実は私、子どものころからピクニックに憧れていました」
『ピクニック、なに……?』
ミュナが不思議そうにしているので説明すると、その大きな目がみるみるうちに輝いていきます。
『ピクニック、ミュナいく!』
「行きましょう!」
それに私にとってもはじめてのピクニック、楽しみです!
感謝を込めたサンドイッチ、これはぜひともセレイブ様の口元へ……。
と思ったのですが、運ぼうとしたサンドイッチを受け取ったのはセレイブ様の口ではなく、彼の指先でした。
「そんなに喜んでもらえると、君の望むものすべてを与えたくなる。リシェ、そのかわいい口を開けて」
この流れは危険です……!
セレイブ様は私から受け取ったサンドイッチを、私の口元へ運ぼうとします。
でも私は顔を背けて、はじめてセレイブ様に抵抗しました。
そんな私の態度に、セレイブ様は傷ついた様子もありません。
むしろ視界の端に見えるのが、いつもより甘やかな笑顔なのはなぜでしょう。
「わがままをいうなんて珍しいな……どうした、リシェ?」
セレイブ様は自分の椅子を、私のすぐそばまで持ってきて座り直しました。
そして私の背中ごしに、やさしい声でささやきます。
「いい子だからリシェ、こっちを向いて幸せに食べる顔を俺に見せてくれ」
「セレイブ様、どうかリシェと呼ぶのはおやめください」
「なぜ?」
「このままでは私、セレイブ様が隣にいるだけで、『これからリシェと呼ばれて、おいしいものが食べられるのかもしれない』と、ずっと期待してしまいます。これは本当に大変なことなのです。期待が膨らみすぎて心臓が持ちませ――」
「素直は君の魅力だよ、リシェ」
セレイブ様の指が私の背後から顔へ近づいたときには、すでに私の口の中へ食べ物がやってきていました。
シラタマ鳥の卵サンド、これを食べたら他の卵サンドは食べられないような濃厚なふわふわ感がたまらなくおいしいです……はっ!
このままではセレイブ様の手中に落ちてしまいます。
すでに食べ物にすら集中できないほど、セレイブ様からリシェと呼ばれるだけで胸が高鳴り続けているのですから!
私は心苦しいながらも、セレイブ様の持つサンドイッチにそっぽを向いたまま訴えました。
「セレイブ様、リシェ呼びはどうか封印して欲しいのです! このままではセレイブ様といるだけで、私の心臓はずっとドキドキしつづけることに――」
「ダメだよリシェ。そんなこと言われると、もっと甘やかしたくなる」
私の口の中に、再び柔らかな生地のサンドイッチがやってきます。
なんて甘い、とろけるようなジャムでしょうか……!
このままでは私、リシェと呼ばれることをまた期待して……。
「ほら、リシェ。あーん」
ぱくっ……!
「いい子だな、リシェ」
ぱくっ……!
「困ったな。リシェは本当にかわいい」
ぱくっ……!
リシェと呼ばれるたびに甘い幸せがやってくる心地よさで、私はつい油断していました。
私の顎をセレイブ様の指が捉えると、彼の方へと顔を向けさせられます。
ずっとそらしていた目が合うと、セレイブ様は不敵な微笑を浮かべました。
「逃さないよ、俺のリシェ」
私の口の中に甘いジャムが滑り込んできます。
その魅惑のささやきと甘美な味には、とても抗いきれません。
私は、リシェは幸せです……!
でもこんな状態でセレイブ様とピクニックに行ったら、私はどうなってしまうのでしょうか。
間違いなく「リシェ」と呼ばれることを期待して、一日中ドキドキし過ぎてしまいます。
これではピクニックそのものを楽しんだり、おいしいものを味わう心の余裕すら失われてしまいそうです。
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