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12 義妹の焦り
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私はさらさらとした銀髪と背の高い後ろ姿を見上げます。
エレナは彼を前にすると、目の色が変わりました。
「あなたはもしかして、世界で注目を集めるロアフ騎士団団長、セレイブ・ロアフ卿ではありませんか!?」
たしかエレナは今日の朝食中、セレイブ・ロアフ卿の話題でとても盛り上がっていました。
彼の名を聞いて、御者と従者も目を剥いて驚いています。
「ま、まさかロアフ辺境伯の令息!?」
「我がソディエ国王よりも世界的に影響力があるという……!」
彼らは相手が自分の主人や国王より強い立場だと知ると、表情を変えてうろたえました。
「先ほどの失言、お許しください!」
「たいへん失礼いたしました!」
「まさか君たちは、謝罪する相手が俺だと思っているのか?」
セレイブ・ロアフ卿が冷ややかにたしなめると、御者と従者は青ざめています。
「ぶ、無礼な振る舞い、申し訳ありませんでした」
「すみません……!」
ふたりは私とミュナに向かって頭を下げて謝りはじめます。
でもエレナは謝罪をする様子もなく、再び馬車の上から甲高い声を上げました。
「セレイブ様、お会いできて嬉しいわ! わたくし、マリスヒル伯爵令嬢、エレナというのよ! 実は今、セレイブ様に縁談のお話を申し込んだ帰りだったの!」
浮かれているエレナに対し、ロアフ卿は抑揚のない口調で答えます。
「俺も含めてロアフ辺境伯直系の者は、縁談を受け付けないと公言している。君の家はそのことを確認もせず申し込んだのか?」
「そのくらい知っているけど、エレナは特別なの! ソディエ国王夫妻から国一番の美女だって褒められたのよ! セレイブ様も私に興味があるでしょう?」
「いや、まったく」
ロアフ卿は冷淡に拒絶するとエレナに背を向け、私とミュナのそばに屈みました。
彼の氷のような瞳が真剣に見つめてきます。
無表情の美貌が、私とミュナを交互に観察しました。
万人に好まれる整った顔立ちは、どこかミュナと似ています。
冷淡な方だと聞いていましたが荒々しいところはなく、とても静かな振る舞いです。
「怪我はないか?」
「はい。この子は大きな怪我などしていないようです」
「君は?」
「……? 私ですか? 私は平気です」
「そうか。では行こう」
ロアフ卿はミュナを抱いている私を軽々と横抱きにしました。
でも私は解けた雪道で転んだミュナを抱いているので、泥まみれです。
「あの、ロアフ卿! 私は歩けますから下ろしてください!」
「なぜ? 君の靴は壊れている」
「あなたの外套が汚れてしまいます」
私の言葉に、彼の無表情が一瞬だけ和らいだ気がしました。
「君は汚れることも構わずミュナを抱いている。それと同じように俺も君のためなら汚れることは気にならない。そして君は自分のことを後回しにする気質のようだ。なおのこと放っておくわけにはいかないな」
彼はミュナの名前を知っているようです。
もしかしてロアフ卿は、ミュナの保護者の方でしょうか?
「近くに俺の別荘があるから、念のため侍医に見せよう。君にぴったりの靴も贈らせてもらう」
エレナはいつも私を引き立て役にして喜んでいましたが、ロアフ卿から相手にされていないことが気に食わないらしく、目をつり上げています。
「ま、待ってセレイブ様! あなたの別荘にはエレナが行きますわ!」
「なぜ? 君を呼んだ覚えはない」
はっきり断られても、エレナはあきらめきれないようです。
「……ちょっとあんた、私を早くおろしなさいよ!」
エレナは従者に命じて馬車から降りると、ロアフ卿に向かってわざとらしくふらついて倒れ込みました。
それは彼女がよく使う手段です。
彼が避ければエレナは倒れて怪我をしてしまうので、間違いなく支えてもらえるように仕向けているのですが……。
エレナは彼を前にすると、目の色が変わりました。
「あなたはもしかして、世界で注目を集めるロアフ騎士団団長、セレイブ・ロアフ卿ではありませんか!?」
たしかエレナは今日の朝食中、セレイブ・ロアフ卿の話題でとても盛り上がっていました。
彼の名を聞いて、御者と従者も目を剥いて驚いています。
「ま、まさかロアフ辺境伯の令息!?」
「我がソディエ国王よりも世界的に影響力があるという……!」
彼らは相手が自分の主人や国王より強い立場だと知ると、表情を変えてうろたえました。
「先ほどの失言、お許しください!」
「たいへん失礼いたしました!」
「まさか君たちは、謝罪する相手が俺だと思っているのか?」
セレイブ・ロアフ卿が冷ややかにたしなめると、御者と従者は青ざめています。
「ぶ、無礼な振る舞い、申し訳ありませんでした」
「すみません……!」
ふたりは私とミュナに向かって頭を下げて謝りはじめます。
でもエレナは謝罪をする様子もなく、再び馬車の上から甲高い声を上げました。
「セレイブ様、お会いできて嬉しいわ! わたくし、マリスヒル伯爵令嬢、エレナというのよ! 実は今、セレイブ様に縁談のお話を申し込んだ帰りだったの!」
浮かれているエレナに対し、ロアフ卿は抑揚のない口調で答えます。
「俺も含めてロアフ辺境伯直系の者は、縁談を受け付けないと公言している。君の家はそのことを確認もせず申し込んだのか?」
「そのくらい知っているけど、エレナは特別なの! ソディエ国王夫妻から国一番の美女だって褒められたのよ! セレイブ様も私に興味があるでしょう?」
「いや、まったく」
ロアフ卿は冷淡に拒絶するとエレナに背を向け、私とミュナのそばに屈みました。
彼の氷のような瞳が真剣に見つめてきます。
無表情の美貌が、私とミュナを交互に観察しました。
万人に好まれる整った顔立ちは、どこかミュナと似ています。
冷淡な方だと聞いていましたが荒々しいところはなく、とても静かな振る舞いです。
「怪我はないか?」
「はい。この子は大きな怪我などしていないようです」
「君は?」
「……? 私ですか? 私は平気です」
「そうか。では行こう」
ロアフ卿はミュナを抱いている私を軽々と横抱きにしました。
でも私は解けた雪道で転んだミュナを抱いているので、泥まみれです。
「あの、ロアフ卿! 私は歩けますから下ろしてください!」
「なぜ? 君の靴は壊れている」
「あなたの外套が汚れてしまいます」
私の言葉に、彼の無表情が一瞬だけ和らいだ気がしました。
「君は汚れることも構わずミュナを抱いている。それと同じように俺も君のためなら汚れることは気にならない。そして君は自分のことを後回しにする気質のようだ。なおのこと放っておくわけにはいかないな」
彼はミュナの名前を知っているようです。
もしかしてロアフ卿は、ミュナの保護者の方でしょうか?
「近くに俺の別荘があるから、念のため侍医に見せよう。君にぴったりの靴も贈らせてもらう」
エレナはいつも私を引き立て役にして喜んでいましたが、ロアフ卿から相手にされていないことが気に食わないらしく、目をつり上げています。
「ま、待ってセレイブ様! あなたの別荘にはエレナが行きますわ!」
「なぜ? 君を呼んだ覚えはない」
はっきり断られても、エレナはあきらめきれないようです。
「……ちょっとあんた、私を早くおろしなさいよ!」
エレナは従者に命じて馬車から降りると、ロアフ卿に向かってわざとらしくふらついて倒れ込みました。
それは彼女がよく使う手段です。
彼が避ければエレナは倒れて怪我をしてしまうので、間違いなく支えてもらえるように仕向けているのですが……。
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