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4 朝食

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 ◇

 ハリエット夫人への手紙を書き終えた私は、マリスヒル伯爵邸の朝食に向かいました。

 私は十歳のころから、あの小屋にひとりで暮らしています。
 もともと私は義父母から邪険にされていました。
 でも動物と話せるようになったことを知られると、露骨に嫌悪されるようになりました。

 ソディエ王国では、動物は邪悪でおぞましい存在だと嫌われているのです。

「おまえを後妻にして相手から高額の支度金をもらう予定だったのに、獣と話せるだと? 薄気味悪いせいでまともな値がつかなかったらどうするつもりだ!?」

「その不吉な力は他の誰にも知られないようにしなさい!」

 私はあのボロボロの小屋に押し込められました。
 でも誰も近づかないため、私は動物たちと気兼ねなく話せました。

 食事は残り物を取りに行きました。
 エレナの機嫌が悪いとわざと廃棄されて、なにもないこともあります。
 でも動物たちはよく果実や野草をわけてくれたので、飢えをしのぐこともできました。



 ◇

「あら、お義姉様。相変わらず土みたいな色の髪と目……しかも地味な顔よね! 使用人すら着ないようなボロ服とボロ靴、とってもお似合いだわ!」

 マリスヒル伯爵邸の食堂の入り口で家族を待っていると、現れた義妹のエレナは勝ち誇ったように嘲笑っています。
 ピンクブロンドを派手に巻いた彼女は主役のようなドレスをひるがえし、一番に食堂へ入っていきます。

 それから横幅のある義父と縦に細長い義母がやってきました。
 挨拶をしましたが、返事はありません。

 どれも記憶の通りです。
 やはり今日は私の成人した日、二十歳の誕生日なのでしょう。

 席につくと朝食が給仕されていきます。
 私の席には、しなびたパンがひとつ置かれているだけです。
 いつもと同じ使用人の残り物のようですが、しっかりといただきます。
 これからやることがたくさんありますから!

「ねぇお父様! 来年のエレナの誕生日には、エレナにふさわしい男性と会える豪華なパーティーをしてほしいわ!」

 エレナの甲高い声が食堂に響き渡りますが、義父母はとがめません。
 それどころか彼らも無作法に食器を鳴らしたり、スープの音を立ててすすったりしています。

「わかっておる、ソディエ国王陛下から『国一番の美女だ』と注目されたエレナにふさわしい縁談相手を探さなければな!」

 ソディエ王国の王侯貴族の子は、婚約者候補を探すために誕生日にパーティーを開くことが一般的です。
 私は養女となってからパーティーに参加したことがないので、詳しくはわかりません。
 でもエレナはより好みが多くてなかなか相手が見つからないと、メイドたちが陰口を言っているのを聞いたことがあります。

「でもエレナ、下位貴族なんて自慢できないからイヤよ。伯爵位があっても、ドレスもアクセサリーも好きなだけ買えるほどのお金持ちじゃないとダメね。侯爵位は妥協ラインだけど、見た目が悪いのは絶対にムリっ!! そうよね、お母様?」

「もちろんよ。エレナの来年の誕生日には、高位貴族令息や聖騎士団の若い男性を招待しましょう。世界的に注目されているロアフ辺境伯の令息、そしてロアフ騎士団長でもあるセレイブ様も忘れずにね」

「セレイブ様!?」

 エレナの瞳が輝き、頬も赤く染まっています。
 彼の名前は若いメイドたちが夢中になって噂しているので、聞いたことがあります。
 類まれなほど優れた容姿と才能を持ち、性格はとても冷淡なようです。

「それって美形でお金持ちで強くて世界中で人気のある、あのセレイブ・ロアフ卿よね? 彼と婚約できたら、お茶会で他のご令嬢たちに羨ましがられるわ! お父様、彼と今すぐ会うことはできないの?」

「そういえばセレイブ様は、我がマリスヒル伯爵領で一番豪華な別荘をソディエ国王から下賜されている。そこに仕える使用人たちの慌ただしい様子から、近々来訪するのではないかと小耳に挟んだぞ」

「本当!? セレイブ様がマリスヒル伯爵領に来るかもしれないのね! 彼の一族は縁談をすべて断るって聞いたことがあるけれど、エレナに会ったら他の令息みたいに夢中になるかも……。ふふっ、彼が来ているか、後でセレイブ様の別荘まで、縁談を申し込みに行ってみようかしら!」

「たしかにエレナに会えば、セレイブ様も夢中になるだろうな!」

「そうね。エレナはソディエ国王夫妻にも認められるほど美しいもの!」

 三人は盛り上がっていますが、それは相手の方にあまりにも失礼なことです。
 私は思わず口を開きました。

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