【完結】僻地がいざなう聖女の末裔

入魚ひえん

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25・症状

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 一角獣は体を震わせ、地べたに伏した。

「苦しいの?」

 もしかすると、食べさせた薬草が悪かったのだろうか。

 セレルは少しでも楽になればと背中をさすってみる。

 しかし症状は悪化の一途をたどるように、先ほどまでの柔らかな毛色はくすみ、みるみるうちに黒ずんでいく。

「どうしよう。私、こんなことになるなんて……ごめん。ごめんね」

 セレルの悲痛な声色に一角獣は弱々しく視線を上げると、相手を安心させようとするかのように顔をすり寄せてくる。

 その様子が痛々しくて、セレルはいたたまれなくなった。

「いいよ。私はだいじょうぶだから……お願い。無理、しないで……」

 言いながら、セレルはミリムが自分を頑なに休ませようとしてくれたこと、カーシェスが少なくなってしまったモモイモを食べさせようと持ってきてくれたことが浮かんできて、再び涙が溢れてくる。

 自分が無理をするたびに周りの人がどれほどつらい思いをしていたのか。

 少し考えればわかることだった。

 ロラッドの怪我を治すため、セレルは気を失ってしばらくの間まともな生活もできないほど衰弱したのだ。

 セレルに会いに行けないほど、触れるのを避けるほど、ロラッドを傷つけていたのだと今さらになって知る。

 低い獣の唸り声にセレルは我に返った。

 一角獣は以前の醜い漆黒に変貌していて、全身から不快感をにじませている。

 さっと飛びのいたセレルに猶予を与えず、漆黒の巨体は俊敏な動きで距離を詰めた。

 牙を剥く獣の顔面に冷たい飛沫がかかる。

 守護獣はひるんだかと思うとそばの廃墟の陰から現れたロラッドに気づき、悲鳴のように一声あげて逃げ出していく。

 セレルはロラッドの手にある、ミリムが使っているものと同じかわいい熊型の瓶に目を向けた。

「あの子に、なにをかけたの?」

「清涼系の香草を混ぜた、ただの冷たいハーブティーだよ。驚かせようと思ったんだけどあいつ、そんなことよりも俺を見て迷いなく逃げていったな」

「だけどあの子、さっきまでは元気だったの。でも私が薬草食べさせたら急に苦しみだして……」

「いや、それは違う。原因はおそらく巨大化したモモイモの消失だ」

 ロラッドが顔を畑の方角にやると見間違いではなかったらしく、やはりあのモモイモは見えなかった。

「俺もなにが起こったのかはわからないから、戻ってからあいつらに聞くけど。さっきまではあの巨大化したモモイモが土地に良い作用を起こして、それが一時的に守護獣の姿を戻すほどの回復につながったんじゃないか」

「じゃあ前みたいな黒色に戻ったのは、大きなモモイモが無くなって土地の浄化が弱まったせい?」

「多分な。俺はセレルと守護獣の様子を見ていてそう思った」

「見ていたの?」

「……ああ、まあ。一角獣の様子が以前と違ったから観察したかったんだ。でも俺はさんざん痛い目に合わせたから、出て行けば逃げられるだろ? だから建物の陰に隠れてた。ちょうど驚かせられそうなハーブティーも持ってるし、もし襲ってきたとしてもセレルを連れて逃げるくらい楽勝だから。それに、楽しそうだったからな」

「うん。楽しかった」

 セレルの目は先ほどの悲しみを忘れられず潤んでいたが、一角獣とのひとときを思い出して笑顔が戻ってくる。

 それを見てロラッドも少し表情を緩めた。

「畑に戻って、あの巨大モモイモのこと聞いてくるか」

「うん」

 ロラッドが普段通り話してくれることもあり、セレルはほっとする。

 自分と一角獣のやりとりを邪魔しないように観察と言いながら見守ってくれたところにも、ロラッドらしい思いやりを感じた。


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