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24・仲直り
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用事を終えて道具屋を出ると、そこから割と近くにある涸れ森の入り口が視界に入る。
セレルは涸れ森に逃げた守護獣の体の病を改善できないか、手に入れた薬草を強化したり解毒薬にして試してみるつもりだった。
誰かに相談しかったが、畑に忙しそうなミリムとカーシェスの邪魔はしたくないし、ロラッドとは相変わらず顔も合わせていない。
セレル自身が会うことを恐れて部屋で食事をとっていたせいもあった。
それでも呪いの発作が気になり何度も会いに行こうかと迷っていたが、その間ロラッドからの訪問もない。
セレルは暗い気持ちで朽ちゆく景色を眺めて、目を疑った。
涸れ森の入り口にあの一角獣がたたずんでいる。
そしてセレルに気づくとためらうことなく近づいてきた。
予想外の出来事にセレルは動転したが、そばにある道具屋に逃げようと考えて来た道を引き返す。
しかしなにかが引っかかって走りながらも後ろを確認すると、やはり一角獣の様子は以前とは違った。
毛並みは駆け抜ける風に美しく波打ち、真っ黒だった色もほんのり淡く白みがかっている。
しやし額には見覚えのある黄色い宝石と鋭い角がはえていて、胸のあたりにはロラッドがつけた目印かのように大きな傷がある。
やはり守護獣のようだった。
セレルはふと遠くにこんもりと葉を茂らせた巨大な植物を見つめる。
もしかすると成長したモモイモが土地の状態を回復させて、守護獣にいい影響を与えているのかもしれない。
考え事をしている間に一角獣は前に回り込んできて、セレルは息をのんだ。
しかし予想に反して一角獣はつぶらな瞳で見つめてくると、愛嬌たっぷりに狼のような顔を少しかしげる。
相変わらずの大きさで迫力はあったが妙に人懐っこい仕草に、セレルは逃げそびれたことも忘れて笑顔を浮かべた。
「仲直り、しに来たの?」
返事の代わりに一角獣の瞳が明るく光り、セレルを待つようにその場でお座りをする。
また襲われるかもしれないという不安を抱えながらも、セレルはおそるおそる近づいてみた。
それでも一角獣はおとなしくして待っているので手を伸ばして首のあたりを慎重に撫でると、嬉しそうにしっぽを振る。
それを見てしまうと我慢できなくなり、セレルは一角獣の脇に身体を寄せてすこし癖のある毛並みを手ぐしでとかしていく。
その間一角獣は気持ちよさそうに目を細めていた。
しかし毛の裏にある皮膚は硬く黒ずんでいて、まだ痛々しい傷あとも残っている。
調子はよさそうだと感じたが、病も怪我も治っているわけではない。
それに撫でている手のひらに、呪いを抱えているロラッドとは違うざらつきのようなものを感じて、種類の違う不調を抱えていることも伝わってくる。
「まだ、具合悪いよね」
セレルはふと癒しの力をこめてみたい思いにとらわれたが、みんなの心配を裏切ることはできずに諦めるしかなかった。
すぐそばにいるのに助けられない。
「ごめんね。私、あなたのことを治すお手伝い、まだできないんだ」
不意に目の奥が熱を帯びてきて、セレルは慌てて顔をそむけた。
自分を助けるために他者を犠牲にしている罪悪感が溢れてくると、ロラッドと最後に会ったときの喪失感まで押し寄せてきて涙が止まらなくなる。
セレルの横顔に一角獣の舌先が触れた。
予想もしなかった出来事にセレルは驚いたが、一角獣があまりにも深刻な様子で舐めてくるので、涙が渇く間もなく笑い声を上げた。
「違うよ。私じゃなくて、心配なのはあなたなんだよ」
セレルは気持ちが緩んでその首元に飛びついた。
「私は元気だよ。だから明日から土地を治すのに協力するの。それがうまくいけば土地もあなたも、もっと良くなるからね。それに今度会ったときは、少しだけ元気になる力をこめて撫でることもできるよ」
セレルが話している間、一角獣は機嫌よさそうに耳を動かしていたが、それが終わるとセレルの持っている手かごが気になるようで、顔を近づけて匂いを嗅ぎはじめる。
「薬草、食べてみる?」
セレルはまだ力を込めはいない薬草を少しちぎり、念のため自分でも味見をしてみたが、それを待たずに一角獣はセレルの手から残りの薬草をはんだ。
「あっ、まだダメだよ。でも薬草が動物にも効果があることはわかっているしだいじょうぶかな」
一角獣は薬草が気に入ったのか一枚をぺろりと食べ終えると、ねだるように柔らかい鼻先を近づけてくる。
「吸収が良くなるように、よく噛んで食べてね」
もう一枚渡すと、一角獣はセレルの言葉が伝わっているのか満足そうによく噛んた。
薬草はおいしいものでもなかったが、身体が治るために欲しがっているのかも知れない。
セレルはもう少しあげようかと思案しながら何気なく空を見上げると、先ほどまで遠くに見えていたモモイモの葉がないことに気づいた。
「あれ……見間違いかな?」
セレルが呟いたのとほぼ同時に一角獣が変な鳴き声を出して、地面に薬草を吐き出す。
セレルは涸れ森に逃げた守護獣の体の病を改善できないか、手に入れた薬草を強化したり解毒薬にして試してみるつもりだった。
誰かに相談しかったが、畑に忙しそうなミリムとカーシェスの邪魔はしたくないし、ロラッドとは相変わらず顔も合わせていない。
セレル自身が会うことを恐れて部屋で食事をとっていたせいもあった。
それでも呪いの発作が気になり何度も会いに行こうかと迷っていたが、その間ロラッドからの訪問もない。
セレルは暗い気持ちで朽ちゆく景色を眺めて、目を疑った。
涸れ森の入り口にあの一角獣がたたずんでいる。
そしてセレルに気づくとためらうことなく近づいてきた。
予想外の出来事にセレルは動転したが、そばにある道具屋に逃げようと考えて来た道を引き返す。
しかしなにかが引っかかって走りながらも後ろを確認すると、やはり一角獣の様子は以前とは違った。
毛並みは駆け抜ける風に美しく波打ち、真っ黒だった色もほんのり淡く白みがかっている。
しやし額には見覚えのある黄色い宝石と鋭い角がはえていて、胸のあたりにはロラッドがつけた目印かのように大きな傷がある。
やはり守護獣のようだった。
セレルはふと遠くにこんもりと葉を茂らせた巨大な植物を見つめる。
もしかすると成長したモモイモが土地の状態を回復させて、守護獣にいい影響を与えているのかもしれない。
考え事をしている間に一角獣は前に回り込んできて、セレルは息をのんだ。
しかし予想に反して一角獣はつぶらな瞳で見つめてくると、愛嬌たっぷりに狼のような顔を少しかしげる。
相変わらずの大きさで迫力はあったが妙に人懐っこい仕草に、セレルは逃げそびれたことも忘れて笑顔を浮かべた。
「仲直り、しに来たの?」
返事の代わりに一角獣の瞳が明るく光り、セレルを待つようにその場でお座りをする。
また襲われるかもしれないという不安を抱えながらも、セレルはおそるおそる近づいてみた。
それでも一角獣はおとなしくして待っているので手を伸ばして首のあたりを慎重に撫でると、嬉しそうにしっぽを振る。
それを見てしまうと我慢できなくなり、セレルは一角獣の脇に身体を寄せてすこし癖のある毛並みを手ぐしでとかしていく。
その間一角獣は気持ちよさそうに目を細めていた。
しかし毛の裏にある皮膚は硬く黒ずんでいて、まだ痛々しい傷あとも残っている。
調子はよさそうだと感じたが、病も怪我も治っているわけではない。
それに撫でている手のひらに、呪いを抱えているロラッドとは違うざらつきのようなものを感じて、種類の違う不調を抱えていることも伝わってくる。
「まだ、具合悪いよね」
セレルはふと癒しの力をこめてみたい思いにとらわれたが、みんなの心配を裏切ることはできずに諦めるしかなかった。
すぐそばにいるのに助けられない。
「ごめんね。私、あなたのことを治すお手伝い、まだできないんだ」
不意に目の奥が熱を帯びてきて、セレルは慌てて顔をそむけた。
自分を助けるために他者を犠牲にしている罪悪感が溢れてくると、ロラッドと最後に会ったときの喪失感まで押し寄せてきて涙が止まらなくなる。
セレルの横顔に一角獣の舌先が触れた。
予想もしなかった出来事にセレルは驚いたが、一角獣があまりにも深刻な様子で舐めてくるので、涙が渇く間もなく笑い声を上げた。
「違うよ。私じゃなくて、心配なのはあなたなんだよ」
セレルは気持ちが緩んでその首元に飛びついた。
「私は元気だよ。だから明日から土地を治すのに協力するの。それがうまくいけば土地もあなたも、もっと良くなるからね。それに今度会ったときは、少しだけ元気になる力をこめて撫でることもできるよ」
セレルが話している間、一角獣は機嫌よさそうに耳を動かしていたが、それが終わるとセレルの持っている手かごが気になるようで、顔を近づけて匂いを嗅ぎはじめる。
「薬草、食べてみる?」
セレルはまだ力を込めはいない薬草を少しちぎり、念のため自分でも味見をしてみたが、それを待たずに一角獣はセレルの手から残りの薬草をはんだ。
「あっ、まだダメだよ。でも薬草が動物にも効果があることはわかっているしだいじょうぶかな」
一角獣は薬草が気に入ったのか一枚をぺろりと食べ終えると、ねだるように柔らかい鼻先を近づけてくる。
「吸収が良くなるように、よく噛んで食べてね」
もう一枚渡すと、一角獣はセレルの言葉が伝わっているのか満足そうによく噛んた。
薬草はおいしいものでもなかったが、身体が治るために欲しがっているのかも知れない。
セレルはもう少しあげようかと思案しながら何気なく空を見上げると、先ほどまで遠くに見えていたモモイモの葉がないことに気づいた。
「あれ……見間違いかな?」
セレルが呟いたのとほぼ同時に一角獣が変な鳴き声を出して、地面に薬草を吐き出す。
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