23 / 31
23・巨大化
しおりを挟む
さらに数日が過ぎると、セレルの体調はほとんど元通りになった。
ちいさな手かごを提げて、久々に家を出ることにする。
いい天気だった。
快晴の下で泥畑に立つミリムが、愛らしいマンモス顔のじょうろで栄養剤をまいているのが見える。
無表情ながらも張り切った様子のミリムのそばには、くわを振って泥を耕しているカーシェスもいて、セレルに気づくと駆け寄ってきた。
「セレル、ずいぶん顔色も良くなったな! 浄化たねいもづくりは明日から頼むぞ!」
「うん」
「だから畑に来ても、今日の仕事はなしだからな! なにがあってもまだ妙な力は使うなよ、絶対だ!」
「わかってる」
「じゃあなにしに来……あっ、そうか! ミリムの作った栄養剤を見たかったんだな!」
「ううん。今日は身体が弱りすぎないように、町の方に散歩でも行こうかと……」
「聞いてくれよ! ミリムは難しそうな絵本を読んで、それをヒントに色々な栄養剤を作って、試して、改良を重ねて……すごいだろ! あの子は努力と才能とかわいさの塊なんだ!」
出かけたいセレルの言葉を遮ってカーシェスが身振り手振りで暑苦しく語っていると、足元にわずかな揺れを感じた。
地鳴りのような音が響きはじめる。
大地が突き上げるように震えて、二人はよろめきながらしゃがみこんだ。
晴れ渡っていたはずの頭上が日陰でおおわれる。
「なんだ……? ミリム! 無事か!?」
カーシェスの声につられてセレルもミリムの方を振り返る。
尻もちをついた少女の目の前で、こんもりと葉を茂らせた木のような植物が驚異的な速度で成長していき、あっという間に家ほどの高さに迫っていた。
セレルもカーシェスもあんぐりと口を開けて見上げていると、揺れが収まった直後にミリムが興奮気味で走ってくる。
「み、見てください! あれは木ではないのです。モモイモの葉です!」
カーシェスは理解を越えているらしく、立派に茂る葉を見上げたままでいる。
セレルも驚きを隠さず聞き返した。
「あれがモモイモの葉?」
「そうです! この、このマンモスちゃんじょうろに入っている配合の栄養剤が、おそらくモモイモを巨大にさせたのです!」
「じゃあこんなに巨大になったんだから、土を浄化する力も……」
「はっ……確かに! さっそく確認してみます!」
カーシェスはようやく事態の好転を理解したのか「すごい!」「すごい!」と語彙力乏しく騒ぎ立てながら、セレルと共に巨大化したモモイモへと走っていくミリムに続く。
幹のようにたくましく育った巨大モモイモの根元の様子を確認してみると、泥気味なのは変わりなく、まだ強い浄化の作用は見られなかった。
むしろ土の状態は以前よりひどくねばついていて、嫌な匂いを発しているようにすら思える。
久々に畑を見たセレルは地質悪化を感じたが、思いつめたように根元の土を見つめるミリムに気づいて口にはせず、その肩を軽くたたく。
「これからどんどん良くなるかもね。明日になったらまた見てみようよ」
「そうだな!」
カーシェスも無駄に大きな動きで頷いた。
「ミリムのおかげでこんな巨大な浄化モモイモができたんだ! 急がず、明日までのんびり楽しみにすればいいじゃないか! これは俺たちの大農園の歴史に名を残す偉業だぞ!」
二人に激励されてミリムの顔つきが明るくなる。
「そう悠長なことも言っていられません。セレルが浄化モモイモを作る明日に合わせて、さっそく栄養剤を増産します!」
きっぱりと決意表明をすると、ミリムは準備に取りかかるためにきびきびと家へ戻っていく。
その後ろ姿をカーシェスは惚れ惚れした様子で見つめた。
「なんて……なんてかわいくて努力家でかわいくて可憐でかわいくて魅力的な子なんだ! よーし! 俺も明日の巨大モモイモたちの居場所を作るために、今日は耕しまくるぞ!」
カーシェスは疲れ知らずで再びくわを持ち直した。
巨大化したモモイモの出現にやる気をみなぎらせた二人と別れてから、セレルは泥にぬかるむ廃墟の町を進み、店主のいない道具屋へたどり着いた。
鍵は開いているので勝手に入り、埃っぽい薬品棚から日持ちのする薬草の束を見つけて、それを手かごに入れる。
数枚なら、癒しの力をこめて強化しても体に問題はなかったが、休ませようとしてくれている人たちの信頼を裏切る気がして、なんとか思いとどまった。
ちいさな手かごを提げて、久々に家を出ることにする。
いい天気だった。
快晴の下で泥畑に立つミリムが、愛らしいマンモス顔のじょうろで栄養剤をまいているのが見える。
無表情ながらも張り切った様子のミリムのそばには、くわを振って泥を耕しているカーシェスもいて、セレルに気づくと駆け寄ってきた。
「セレル、ずいぶん顔色も良くなったな! 浄化たねいもづくりは明日から頼むぞ!」
「うん」
「だから畑に来ても、今日の仕事はなしだからな! なにがあってもまだ妙な力は使うなよ、絶対だ!」
「わかってる」
「じゃあなにしに来……あっ、そうか! ミリムの作った栄養剤を見たかったんだな!」
「ううん。今日は身体が弱りすぎないように、町の方に散歩でも行こうかと……」
「聞いてくれよ! ミリムは難しそうな絵本を読んで、それをヒントに色々な栄養剤を作って、試して、改良を重ねて……すごいだろ! あの子は努力と才能とかわいさの塊なんだ!」
出かけたいセレルの言葉を遮ってカーシェスが身振り手振りで暑苦しく語っていると、足元にわずかな揺れを感じた。
地鳴りのような音が響きはじめる。
大地が突き上げるように震えて、二人はよろめきながらしゃがみこんだ。
晴れ渡っていたはずの頭上が日陰でおおわれる。
「なんだ……? ミリム! 無事か!?」
カーシェスの声につられてセレルもミリムの方を振り返る。
尻もちをついた少女の目の前で、こんもりと葉を茂らせた木のような植物が驚異的な速度で成長していき、あっという間に家ほどの高さに迫っていた。
セレルもカーシェスもあんぐりと口を開けて見上げていると、揺れが収まった直後にミリムが興奮気味で走ってくる。
「み、見てください! あれは木ではないのです。モモイモの葉です!」
カーシェスは理解を越えているらしく、立派に茂る葉を見上げたままでいる。
セレルも驚きを隠さず聞き返した。
「あれがモモイモの葉?」
「そうです! この、このマンモスちゃんじょうろに入っている配合の栄養剤が、おそらくモモイモを巨大にさせたのです!」
「じゃあこんなに巨大になったんだから、土を浄化する力も……」
「はっ……確かに! さっそく確認してみます!」
カーシェスはようやく事態の好転を理解したのか「すごい!」「すごい!」と語彙力乏しく騒ぎ立てながら、セレルと共に巨大化したモモイモへと走っていくミリムに続く。
幹のようにたくましく育った巨大モモイモの根元の様子を確認してみると、泥気味なのは変わりなく、まだ強い浄化の作用は見られなかった。
むしろ土の状態は以前よりひどくねばついていて、嫌な匂いを発しているようにすら思える。
久々に畑を見たセレルは地質悪化を感じたが、思いつめたように根元の土を見つめるミリムに気づいて口にはせず、その肩を軽くたたく。
「これからどんどん良くなるかもね。明日になったらまた見てみようよ」
「そうだな!」
カーシェスも無駄に大きな動きで頷いた。
「ミリムのおかげでこんな巨大な浄化モモイモができたんだ! 急がず、明日までのんびり楽しみにすればいいじゃないか! これは俺たちの大農園の歴史に名を残す偉業だぞ!」
二人に激励されてミリムの顔つきが明るくなる。
「そう悠長なことも言っていられません。セレルが浄化モモイモを作る明日に合わせて、さっそく栄養剤を増産します!」
きっぱりと決意表明をすると、ミリムは準備に取りかかるためにきびきびと家へ戻っていく。
その後ろ姿をカーシェスは惚れ惚れした様子で見つめた。
「なんて……なんてかわいくて努力家でかわいくて可憐でかわいくて魅力的な子なんだ! よーし! 俺も明日の巨大モモイモたちの居場所を作るために、今日は耕しまくるぞ!」
カーシェスは疲れ知らずで再びくわを持ち直した。
巨大化したモモイモの出現にやる気をみなぎらせた二人と別れてから、セレルは泥にぬかるむ廃墟の町を進み、店主のいない道具屋へたどり着いた。
鍵は開いているので勝手に入り、埃っぽい薬品棚から日持ちのする薬草の束を見つけて、それを手かごに入れる。
数枚なら、癒しの力をこめて強化しても体に問題はなかったが、休ませようとしてくれている人たちの信頼を裏切る気がして、なんとか思いとどまった。
1
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる