【完結】僻地がいざなう聖女の末裔

入魚ひえん

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18・一角獣

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 父に抱きしめられたまま、ミリムは荒らされた泥地へ目を向ける。

「父上……畑が」

「いいんだ。それより今は、ミリムの安全が最優先だから」

「ですが、畑が!」

「畑は何度だって作ってやる! ……だけどミリムを失ったら、たとえどんな言い訳が準備できたって、俺は納得できないんだよ!」

 親子の会話を遮るように、一角獣は背後でうなり声をあげ、体を起こした。

 カーシェスはミリムから柄の長いくわを預かり、空いた方の手でミリムを抱き上げて振り返ると、再び襲い来る一角獣を迎え撃つ。

 あっという間に距離が詰められ、巨獣の腕が振り下ろされると、カーシェスの柄はしなやかに受けた。

 それを皮切りに、一角獣の追撃が容赦なく注ぎ込まれるが、カーシェスは次々に襲い来る鋭利な爪や牙を、驚異的な集中力でいなしていく。

 見事な柄さばきだった。

 しかし、片手にミリムを抱いているため、防戦一方となっている。

 決め手がなければ押し切られてしまう……という所だっだ。

「ん……おまえ」

 カーシェスはなにかに気づいたらしいが、その一瞬が隙になった。

 柄が爪を受け損ねると、カーシェスは腕に鋭い一撃を受ける。

 裂かれた肌から、血の筋が奔流した。

 カーシェスの動きはよどみ、足元がふらつく。

 しかし一角獣にためらいはなく、なおも爪を振り下ろした。

「父上!」

 ミリムは前へ走り出ると、父を守るように両手を広げて立ちはだかった。

 セレルはとっさに、そばにあったモモイモを握りしめると、その方向へ力いっぱい投げつける。

「これを、食べて!」

 セレルに注目が集まる。

 カーシェスはセレルに気づくと、大真面目に叫んだ。

「確かに力は出ないが、味見なら後でさせてくれ!」

「カーシェスじゃない! そこにいる一角獣に、言ってるの!」

 三つの光が、セレルの方へ向く。

 二人から注意を逸らそうという思惑通り、一角獣は投げつけられたモモイモに向かって走り出した。

 上手くいった、と確信したのとほぼ同時に、一角獣は地面に転がったそれを押しつぶし、迷いなくセレルへ向かってくる。

 一瞬だけ、思考が止まった。

 逃げなくては。

 セレルは足をかばいながら立ち上がったが、背後が大きな影におおわれる。

 振り返ると、見上げるほどの巨獣の牙が、セレルめがけて迫っていた。

 見開いたセレルの瞳に、貪欲に濡れた牙がうつる。

 目の前で閃光が弾けた。

 気づいたときには、一筋の刃が瞬き、真っ赤な飛沫が噴水のようにふき上がる。

 降雨のように注がれる血の中に、ロラッドが立っていた。

 セレルの方は見ない。

 ただ、言葉を発するのも厭わしいように、低く短く告げた。

「行って」

 それが自分に向けられたものだとわかったが、セレルはそのまま地面に腰を落とした。

 壊れてしまったかのように、力が入らない。

 ロラッドの強撃を受けた一角獣は、胸元を自分の血で染めたままよろめいたが、飽くなき食欲で血走った目は、しっかりとセレルに向いている。

 一角獣は胸元の傷も物ともせず、突き動かされるように跳びかかってきた。

 その動きにすぐ反応し、ロラッドが静かに構えたのを見て、カーシェスは叫んだ。

「待て、ロラッド! その獣は、この土地の守護獣だ!」

 一角獣の前に躍り出た、ロラッドの動きがよどむ。

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