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14・開拓

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「うぉおおおっ!」

 青空の下、広がる泥畑の真ん中にいるカーシェスは、剛力でくわをふるっていた。

 疲れしらずの機械のような勢いにより、泥地が高速開墾されていく。

 彼の後には耕された土の溝が残り、そこに、娘のミリムが等間隔でたねいもを植えていた。

 セレルは畑の端に用意した椅子に座り、大農園をつくると張り切っている二人を眺めながら、横にある簡易的な木のテーブルに手を伸ばす。

 その上に置かれたかごの中には、セレルが先ほどから力をこめて浄化したモモイモが、ごろごろと入っていた。

 そこに最後のモモイモを置き、息をつく。

 今日やると決めた分は終わったので、気は楽なはずなのに、心が晴れなかった。

 開拓が順調に進んだとしても、自分たちの望む結果が出るのは何年先になるのか、わからない。

 それでも、ミリムとカーシェスの気合の入りようは本物で、「もしセレルが、次の日に浄化たねいもを作れないほど無理をすれば、私たちのペース配分に影響がでます」「なにっ! それは絶対ダメだ! 俺とミリムの都合を考えろ! 無理はやめろ!」と、厳しく念を押されていた。

 共同作業に慣れていないセレルは、そういう事情もあり、ついたくさんこなしたくなる気持ちを抑えている。

「なんだセレル、つまらない顔をしてると、たねいもたちに悪影響だ! 笑え!」

 一休みに来たらしいカーシェスが、妙な命令をしながら駆け寄ってくる。

「ん? ロラッドはどこだ?」

「サボるって」

「またかあいつ! 涸れ森の石像を見に行ってから、すぐサボるな!」

「……難しそうな本を読んでいたから、なにか調べているんじゃない」

「なにっ? なにをだ!」

「石像を見に行ってから調べているんだし、そのことでしょ」

「ふーん。あいつ、そんなに石像が好きなのか」

 的外れな解釈をしたカーシェスは、テーブルに手を伸ばす。

 そして準備しておいた、かわいい笑顔の熊の形をした瓶からコップに水を注ぐと、透明に揺れる冷えた水を飲んだ。

「そういやあいつ、涸れ森にある石像が、消えているとか言ってたな。目、おかしいんじゃないのか」

「おかしくないよ。私も見たけど、大きな四角い、台座っぽいのしかなかった」

「なるほど、おまえの目もおかしいんだろうな。あんなに大きいんだから、無くなるはずがない!」

「信じないなら、カーシェスも見てくれば」

「それがだ! ミリムが喜ぶと思って、涸れ森の散歩をいつもせがんでいるんだけど、ハエを追い払うような手つきで断ってきて、付き合ってくれないんだよ!」

「わずらわしいんだろうね」

 わかりきったことを言うと、セレルは涸れ森へ目を向ける。

 ロラッドが、ひとりで出て行くと言ったときのことを思い出すと、漠然とした不安に包まれた。

 発作を抱えたまま、どうして、ひとりで離れていこうとするのか。

 セレルは呪いを解けなかった自分を、責めたくなる。

 カーシェスは肩にかけたタオルで汗をぬぐいながら、思いつめたように涸れ森を睨むセレルのまなざしを、ちらりと見た。

「ん。なんだ、おまえ。暗いぞ。イモたちのためにも、元気出せ!」

「その持論に巻き込まないでよ……」

「疲れているなら、休んでろ。復活したら、笑え!」

 人の話を聞かず、カーシェスは豪快に笑った。

 この男は、感傷的になったことなんて、ないのだろう。

 セレルはぼんやりと思いながら、呟いた。

「ロラッドが突然いなくなっても、カーシェスはそんな風に笑えるんだろうね」

「いなくなる? 俺が汗を流して働いているのに、あの野郎、これ以上サボる気か!」

「じゃあ、サボりとは言えない、立派な理由つけて出て行くならいいの?」

「んあ? あぁ、そうか。そうだなぁ」

 カーシェスはあごに指を当て、珍しく考え込むと、セレルの隣に座った。

「思い出せば、あいつがいなくなったときは、確かに納得いかなかったな」

「あいつって?」

「俺の美しすぎる妻の話だ!」

「奥さんのことを、美しすぎるとか堂々と自慢する人、初めて見たよ」

「そんなことないだろ! うわー醜いから妻にしたいってやつの方が、おかしい!」

「うん、そんな人も見たことないんだけど」

「俺もない!」

「奥さんがいなくなった時、納得いかなかったって、どういうこと?」

「ああ、それは俺がな……こんなことになるなら、行くなって言ってたのになあ、ってことだ」


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