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13・涸れ森の石像

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「なるほどな。土地の様子はどうなんだ」

「そうなの! 土地もきれいになってる。やっぱり癒しの力をこめたモモイモ自体に、浄化の力が備わっているんだよ。だからこれからはモモイモの数を増やして、土地を浄化しながらお腹も満たす大農園を作れたらいいと思うんだ。それに、あの二人は痩せた土地でも育ちやすいモモイモばかり食べていたみたいだから、他の食材も作ってみたいし……」

 セレルがいきいき話しているのを見て、ロラッドはほっとしたように目を細めた。

「歓喜のあまりに騒ぎたてるカーシェスと、それをいさめるミリムが浮かぶな」

「あの光景に少し慣れてきた自分がいるよ」

「これからもここにいるんだろうし、慣れたほうがいいだろ。農園の方も順調にいけば、セレルが意地張って土地に癒しの力をこめ続ける理由もなくなるし、少し楽できるんじゃないか」

「ロラッドが変にからかってこなければね」

「かわいいから、ついな」

「だから、それをからかってるって言うんだよ!」

 結局、いつもの言い合いになったころ、乾いた木々ばかりだった道が急に開け、ちいさな草地が現れた。

 その中心に、セレルが両手を伸ばしても届かないほど幅のある、四角く加工された石がたたずんでいる。

 どこか神聖な雰囲気に、セレルは息をのんだ。

「これは……?」

「昔からある、土地の守り神の石像らしい」

「石像? 石碑じゃなくて?」

 石には植物を模した繊細な装飾が施されていて、ところどころに見知らぬ言葉が書き込まれている。

 しかし、四角いだけのそれが、なにかの像というのは妙に思えた。

 ロラッドは腰の高さほどの位置にある、石碑の上面を撫でる。

「どちらかというと、台座って感じか」

「そっか。この上に、大きな石像が乗っていたって考えたら、不自然じゃないね」

「多分な。問題は、どうしてきれいさっぱり無いのか、ってことだけか。一応、カーシェスにも聞いてみるけど。探したほうが早いかもな」

「探すって、ここら辺?」

「いや、もっと遠く」

「いつ行くの?」

「今」

「えっ! だけど、準備が……」

 セレルが明らかに慌てているので、ロラッドはそれを不思議そうに見つめる。

「まじめだな」

「……からかってる?」

「半分は」

「半分? じゃあ半分は本当に行く気ってこと? ロラッドはいいのかもしれないけど、私は準備が……」

「セレルはここの仕事があるだろ」

「え?」

 セレルは目をしばたいた。

「だけどロラッドの呪いを抑えるのには、私がいたほうが……」

「なんだ。そんなにいて欲しいのか」

「……また、からかうし」

「セレルも悪い」

「私?」

「セレルは俺の呪いばかり見てる」

「え? だって呪い、怖いし、心配だし」

「呪われていない俺も怖いし、心配かもよ」

「ロラッドが? そ、そうかな……」

 意味の分からないまま、セレルは口ごもる。

 それでも一抹の不安がよぎり、聞かずにはいられなかかった。

「だけど……ひとりで、どこか行ったり、しないよね?」

 安心したくて確認したはずなのに、言葉にしてしまうと現実になってしまったような気がしてきて、セレルは泥で汚れた自分の靴に視線を落とす。

 呪いの発作を抑えるため、ロラッドのためのはずなのに。

 ただ、自分が離れたくないだけのような気がしてきて、そんな自分に戸惑った。

「心配なら、ほら」

 ロラッドが手を差し伸べてくる。

「つかまえておけば?」

 胸の奥で、鼓動が強く打ちつけた。

 つかまえて、いたい。

 自分の本心が暴かれたような気がして、セレルはうろたえる。

 それを隠すため、不満げな口ぶりでごまかそうとした。

「今日、からかうの多くない?」

「セレルが振ってくるから」

「振ってない」

「ん、これも振ってるのか?」

「違うよ! ……もういい、帰る」

 セレルはひとりで踵を返し、元来た道を戻り始める。

 後ろから足音が追いかけてくると、ロラッドはセレルの腕に自然と触れ、そのままてのひらを包んできた。

「帰る前に、発作予防しておくか」

 相手の慣れた感じがなんとなく悔しくて、セレルは動揺をひた隠そうと、そっけなく呟く。

「好きにすれば」

 その様子を見て、ロラッドは静かにほほえんだ。

 わびしい涸れ森の中を、ふたりは言葉もなく、進んでいく。



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