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12・可能性
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「……っ、ちょっと、ミリムに、教えてくる!」
ようやくそれだけを告げると、セレルは慌てて彼らの家へと足を向ける。
「セレル」
ロラッドに呼び止められ、セレルは聞き返した。
「なに?」
「聖女の力のこと、あいつらには教えてもいいかもな」
「え? あっ、そうだね。その方が説明も簡単だし、そうする!」
セレルは再び踏みしめるように駆けだす。
なぜかその言葉が引っかかったが、土地の改善の可能性を、二人に知らせられると思う気持ちが膨らんでいて、すぐ記憶の奥底にしまいこまれてしまった。
それからしばらくの間、セレルは朝起きて身支度を整えると、自分の浄化したモモイモの芽を観察するため、畑に通うことが習慣となった。
軽やかな足取りで畑へ向かうと、セレルらしからぬ清々しい笑顔で、いつもの芽に挨拶をする。
「おはよう! 今日も元気かな?」
セレルは畑にやってくると、たったひとり、地面に向かって話しかけた。
怪しい女だと、自覚はある。
しかし、ある赤髪の男のように「ミリムという奇跡の子が生まれた胎教の知識を生かして、俺はモモイモの赤子のため、笑い声に満ちた日々を送らせてやるんだ!」と、一人で大爆笑しながら畑を走り回ったり、あるツインテールの少女のように「ご清聴ください」と、なぜか哲学風の絵本を読み聞かせている方々にはとても敵わないので、気兼ねなく怪しい女をやっている。
それぞれの努力の成果かはわからなったが、育ち始めた浄化モモイモの芽は、青々と潤った双葉の先に、数枚の若葉を伸ばしていた。
うまくいっている。
セレルは晴れやかな気持ちで、その様子をまじまじと見つめた。
いいモモイモが育っているだけではない。
粘り気のある土は新芽の周辺だけ、健やかな湿度と柔らかさを持った黒土に変化していて、それが期待を募らせた。
もしモモイモ自体に浄化能力があるのなら、セレルが無暗に土をきれいにしようと力をこめるより、ずっといい。
セレルの脳内で、少しずつ浄化モモイモを増やしていき、大農園を作りつづけ、最後には土地が蘇るという壮大な計画が繰り広げられていく。
かなり怪しげににやついていると、町の隣にある涸れ森へと向かう、ロラッドの後ろ姿を見つけた。
セレルの想像でたるんでいた表情が、引き締まった。
ロラッドは時折、セレルにふざけた様子で、じゃれついてくる。
からかい半分でも、残りの半分の目的が呪いの発作緩和であることは、間違いなかった。
呪いが解けているわけではないのに、セレルから離れて、一人でどこへ行くのか。
妙な胸騒ぎに突き動かされ、セレルはロラッドを追いかけた。
カーシェスによると、涸れ森は緑が生い茂り、生き物の楽園のような、豊かな場所だったらしい。
しかし地域の土地の汚染が始まってから、みるみるうちに生命力を失い、今はミイラのような木の屍が形を残しているだけの、さびしい場所となっていた。
枯れた木ばかりの道を進み、迷わないか不安になりはじめたころ、少し先にロラッドの姿を見つけて、ほっとする。
「ロラッド、どこに行くの」
何気ないふうを装って声をかけると、ロラッドは立ち止まり、振り返った。
「さっき、カーシェスから気になる話を聞いたからさ」
「へぇ、どんな?」
「気になるなら、おいで」
「うん」
隠し事があるわけではないように思えて、少しほっとする。
セレルが追いつくと、ロラッドはまた気ままな足取りで進み始めた。
せっかくなので、セレルは先ほど観察した、浄化モモイモの成長について熱く語ると、ロラッドも耳を傾けてくれる。
ようやくそれだけを告げると、セレルは慌てて彼らの家へと足を向ける。
「セレル」
ロラッドに呼び止められ、セレルは聞き返した。
「なに?」
「聖女の力のこと、あいつらには教えてもいいかもな」
「え? あっ、そうだね。その方が説明も簡単だし、そうする!」
セレルは再び踏みしめるように駆けだす。
なぜかその言葉が引っかかったが、土地の改善の可能性を、二人に知らせられると思う気持ちが膨らんでいて、すぐ記憶の奥底にしまいこまれてしまった。
それからしばらくの間、セレルは朝起きて身支度を整えると、自分の浄化したモモイモの芽を観察するため、畑に通うことが習慣となった。
軽やかな足取りで畑へ向かうと、セレルらしからぬ清々しい笑顔で、いつもの芽に挨拶をする。
「おはよう! 今日も元気かな?」
セレルは畑にやってくると、たったひとり、地面に向かって話しかけた。
怪しい女だと、自覚はある。
しかし、ある赤髪の男のように「ミリムという奇跡の子が生まれた胎教の知識を生かして、俺はモモイモの赤子のため、笑い声に満ちた日々を送らせてやるんだ!」と、一人で大爆笑しながら畑を走り回ったり、あるツインテールの少女のように「ご清聴ください」と、なぜか哲学風の絵本を読み聞かせている方々にはとても敵わないので、気兼ねなく怪しい女をやっている。
それぞれの努力の成果かはわからなったが、育ち始めた浄化モモイモの芽は、青々と潤った双葉の先に、数枚の若葉を伸ばしていた。
うまくいっている。
セレルは晴れやかな気持ちで、その様子をまじまじと見つめた。
いいモモイモが育っているだけではない。
粘り気のある土は新芽の周辺だけ、健やかな湿度と柔らかさを持った黒土に変化していて、それが期待を募らせた。
もしモモイモ自体に浄化能力があるのなら、セレルが無暗に土をきれいにしようと力をこめるより、ずっといい。
セレルの脳内で、少しずつ浄化モモイモを増やしていき、大農園を作りつづけ、最後には土地が蘇るという壮大な計画が繰り広げられていく。
かなり怪しげににやついていると、町の隣にある涸れ森へと向かう、ロラッドの後ろ姿を見つけた。
セレルの想像でたるんでいた表情が、引き締まった。
ロラッドは時折、セレルにふざけた様子で、じゃれついてくる。
からかい半分でも、残りの半分の目的が呪いの発作緩和であることは、間違いなかった。
呪いが解けているわけではないのに、セレルから離れて、一人でどこへ行くのか。
妙な胸騒ぎに突き動かされ、セレルはロラッドを追いかけた。
カーシェスによると、涸れ森は緑が生い茂り、生き物の楽園のような、豊かな場所だったらしい。
しかし地域の土地の汚染が始まってから、みるみるうちに生命力を失い、今はミイラのような木の屍が形を残しているだけの、さびしい場所となっていた。
枯れた木ばかりの道を進み、迷わないか不安になりはじめたころ、少し先にロラッドの姿を見つけて、ほっとする。
「ロラッド、どこに行くの」
何気ないふうを装って声をかけると、ロラッドは立ち止まり、振り返った。
「さっき、カーシェスから気になる話を聞いたからさ」
「へぇ、どんな?」
「気になるなら、おいで」
「うん」
隠し事があるわけではないように思えて、少しほっとする。
セレルが追いつくと、ロラッドはまた気ままな足取りで進み始めた。
せっかくなので、セレルは先ほど観察した、浄化モモイモの成長について熱く語ると、ロラッドも耳を傾けてくれる。
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