【完結】僻地がいざなう聖女の末裔

入魚ひえん

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5・たどり着いた先

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 どのくらいの時間が経ったのかも、わからない。

 セレルは全身に衝撃を受けながら、板が大破する音を通り抜けた。

 直後、宙に投げ出されていた身体が動かなくなる。

 まあまあ痛い。

 ということは、生きている。

 おそるおそる顔を上げると、粗末な物置のような場所にいた。

 頭上の屋根には、人が通れるほどの穴があり、青空が覗いている。

 落ちてきたらしい。

 物置のおかげで、衝撃が和らいだため、大きな怪我もなさそうだった。

 ほっとしたセレルの下で、血まみれの美青年が押しつぶされれている。

 一瞬、思考が凍り付いたが、慌てて飛びのいた。

「ど、どうしよう……まさか私がロラッドを押しつぶして、勢いよくとどめをさしてしまった……?」

「気にするな」

「そ、そういうものなの? いや、違うと……ん?」

 セレルはあわあわしながら、声の方に顔を向けると、うっすらと開いた緋色の眼差しを投げかけられる。

 生きている。

 どっと安堵がおしよせてきて、セレルは生まれて初めて、自分が小柄なことに感謝した。

「あっ、でも傷……!」

 その答えとして、ロラッドはセレルの手を取ると、自分の血まみれの胸に押し当てた。

 セレルは息をのみ、ロラッドを見る。

「傷が……ない?」

「本当に、治したんだな」

「嘘……」

「嘘なのか」

「だって私、聖女の末裔だって信じられないくらい、力が弱いし」

「よく言うよ。その力で、俺をどこに連れてきたんだ」

 セレルの脳裏で、真っ白なホールに吸い込まれていく時の恐怖が、まざまざと思いだされる。 

「もしかして、あの白いホールを通ったせいかも」

「なんだそれ」

「覚えていない? 突然白い渦が現れて、私たち引っ張られて、のみ込まれて……ここにいるの」

「あぁ……白亜空間転移みたいなやつか?」

「知ってるの? そういえば、ロラッドを追ってきた騎士みたいな人も、そんなこと言っていたような……」

「王室関係の仕事に就くやつは、基礎として習うから。建国した初代国王が死にかけていたとき、聖女が白亜空間を作り出して、今の王都がある場所まで転移してくれたらしい。全快つきで。セレルの言う白いホールがそれだとしたら、俺の怪我がほとんど気にならないことや、痛みがなくなった理由も説明がつく」

「そう言われると、私も……」

 いつもの慢性的な疲労はどこかへ行ってしまったかのように、身体が軽く、気分もすっきりしている。

 セレルははっとして、ロラッドの胸から手を離した。
 
「ロラッド、呪いは?」

「ああ……」

 ロラッドは歯切れ悪く黙る。

 その表情は落ち着いていたが、セレルは落胆する。

「わかるの?」

「わかる。胸が常になにかがひっかかっているみたいな、妙な感じが残ってる」

 怪我は治ったのに、呪いは解けていないらしい。

 先ほどまで浮かれていたセレルは、深々と息を吐いた。

「ごめん。私、治すって意地張ったのに……」

 ロラッドは静かにセレルの手を握り、そのままじっと見つめてくる。

 人に触られることに慣れていないセレルは居心地悪くなり、目を泳がせた。

「な……なんでしょうか」

「やっぱり、気のせいじゃないな。セレルに触れていると、胸のつかえが楽になる」

「呪いが押さえられている、ってこと?」

「多分。白いホールもそうだし、聖女の末裔ってのは本当かもしれないけど、人には知られないほうがいいだろうな」

「どうして?」

「俺以外には、こき使われたくないだろ」

「うん。……ん?」

「でも助かった。発作が起こるのは、本当、面倒だったから」

 ロラッドはセレルの手を取ったまま目を閉じた。

「俺、寝るから。白亜空間転移で全快して疲れた」

「え、そういうもの? でもここ、どこかすらわからないし、」

「そういうのは後で確認すればいいよ」

「昼寝こそ、今じゃなくてもいいと思うけど……」

 発作の不安から解放され、気ままにお昼寝をするのは心地よさそうだとは思うが、セレルはそわそわする。

 いつも触れているのは小石や薬草ばかりで、人に触れていることに慣れていなかった。

 おまけに、目の前に置かれているのが、超絶美貌ということも落ち着かない。

 目のやり場に困っていると、背後で倉庫の扉が開いた。

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