【完結】あやかしの隠れ家はおいしい裏庭つき

入魚ひえん

文字の大きさ
上 下
7 / 30

7・璃月

しおりを挟む
 朝食を終えたあと、冬霧はなにも告げずにふらりと出かけたので、私はようやくスマホを取り出した。

「璃月さん、私、うみだけど! 昨日からおばあちゃんの家にいるの!」

 通話が始まったとたん、私はお父さんもお母さんもいない自分の後継人になってくれた相手に向かって、今までのことを勢いよくしゃべり続ける。

 そんな私に対して璃月さんはいつものように、のんびりしているのかはきはきしているのかわからない調子で明るく笑った。

「無事に着いた? よかったねぇ」

 私はおばあちゃんの家で起こった一連の出来事を璃月さんに伝える。

 璃月さんは時折「ふーん」とか「ほぉ」とか気の抜けた相槌を打ちながらも聞いてくれた。

 他の人なら信じてもらえないと思うような話でも、璃月さんになら話せる。

 なにしろ彼女は、あかかしの感情が流れてくるという私の特異体質をあっさり受け入れてくれて、それどころかおもしろがったり羨ましがったりするくらいの奇人変……個性的な人柄だ。

「なるほどねぇ。うみに気持ちが伝わってきたのなら動物のあやかしだよね、やっぱり」

「そうだと思う。今まで人の気持ちを感じたことはないし」

 冬霧のことを話すのも、頭がおかしくなったのかと疑われる心配もほんの少しだけあったけれど、璃月さんはそういうこともあるのか、程度の軽さだった。

「それでそのイケメンから、どんな気持ちが伝わってくるの?」

「……私、狐のあかやしとしか言ってないけど、」

「狐が人型になったらイケメンに決まってるでしょ。イマイチな顔立ちの狐なんているなら連れてきて見せてよ。あ、連れてくるならやっぱり美形のほうがいいな」

 断言する璃月さんに、私は負けを認める。

 話がそれることを予想して、はじめから冬霧の容姿については一切伝えていなかったのに。

「璃月さん、おもしろがってるでしょ」

「え? 他になにかある?」

「あるよ。ひとりじゃないのはいいこともあるけど、私、あやかしの気持ちが入ってくるのはやっぱり……」

「その狐の感じていること、結構面倒くさいの?」

 私は玄関で会ったときの痺れるような緊張感や、眠りから呼び起こされるほどの深い悲しみを感じたときも、冬霧が飄々として見えたことを思い出す。

「それが……入ってくる感情がその狐の気持ちなのかもよくわからなくて。その狐のあやかしは言動や行動と、伝わってくる気持ちが一致していない気がする。あと私に、変な嘘ついてからかってきたりするし……」

「うみにちょうどいいじゃない」

「どこが!」

「おもしろいペットっぽくて……あれ。それだとうみがペットになってるか」

「璃月さん……」

「でもそのあやかし、私の想像ではクール系のイケメンなんだけど、もしかしてセクシーな方? それはそれでたまらないんだけど、修正しないままで話を進めていいよね?」

「あのね璃月さん、私、真剣な話をしていて……」

「失敬な、私はいつだって真剣だよ。それにせっかくの貴重な人生経験なのに、おもしらがらないと損でしょ。だいたい肝心のうみはどうしたいの?」

「え」

 私は返事もできずに黙り込む。

 どうしたいのかなんて、考えてなかった。

「ほら。一生懸命騒いでるけどあまり考えてないの、うみの癖だよ」

「そ、それは」

「どうするのかはうみが決めるしかないからね」

「だけど決めるって?」

「追い出すとか、こき使うとか、食べるなら煮るのかそれとも焼くのか」

「璃月さん……」

「私だったら、そのイケメンあやかしをとっ捕まえて、楽しい日々を過ごすよ」

「その言い方だと、楽しそうなのは璃月さんだけなんだけど」

「そりゃあまずは私がおもしろくないと……私ね、耳掃除してあげたい! あと毛づくろいもしてあげて、もふもふなしっぽを見せてもらったり、あわよくば撫でたり、この後は言葉にしてもいいのかわからないけど……」

 璃月さんはなにやら、聞こえないほうがいいであろうことをぶつぶつ言っている。

 そんな璃月さんに冬霧を会わせるのは危険な気もするけれど、意外と冬霧も嬉しそうに耳掃除してもらっていそうだと思うと、私ももう少し気楽になってもいい気がしてきた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

癒しのあやかしBAR~あなたのお悩み解決します~

じゅん
キャラ文芸
【第6回「ほっこり・じんわり大賞」奨励賞 受賞👑】  ある日、半妖だと判明した女子大生の毬瑠子が、父親である美貌の吸血鬼が経営するバーでアルバイトをすることになり、困っているあやかしを助ける、ハートフルな連作短編。  人として生きてきた主人公が突如、吸血鬼として生きねばならなくなって戸惑うも、あやかしたちと過ごすうちに運命を受け入れる。そして、気づかなかった親との絆も知ることに――。

†レクリア†

希彗まゆ
キャラ文芸
不完全だからこそ唯一の『完全』なんだ この世界に絶望したとき、世界中の人間を殺そうと思った わたしのただひとつの希望は、ただあなたひとりだけ レクリア───クローンの身体に脳を埋め込み、その身体で生きることができる。 ただし、完全な身体すぎて不死になるしかない─── ******************** ※はるか未来のお話です。 ストーリー上、一部グロテスクな部分もあります。ご了承ください

闇に堕つとも君を愛す

咲屋安希
キャラ文芸
 『とらわれの華は恋にひらく』の第三部、最終話です。  正体不明の敵『滅亡の魔物』に御乙神一族は追い詰められていき、とうとう半数にまで数を減らしてしまった。若き宗主、御乙神輝は生き残った者達を集め、最後の作戦を伝え準備に入る。  千早は明に、御乙神一族への恨みを捨て輝に協力してほしいと頼む。未来は莫大な力を持つ神刀・星覇の使い手である明の、心ひとつにかかっていると先代宗主・輝明も遺書に書き残していた。  けれど明は了承しない。けれど内心では、愛する母親を殺された恨みと、自分を親身になって育ててくれた御乙神一族の人々への親愛に板ばさみになり苦悩していた。  そして明は千早を突き放す。それは千早を大切に思うゆえの行動だったが、明に想いを寄せる千早は傷つく。  そんな二人の様子に気付き、輝はある決断を下す。理屈としては正しい行動だったが、輝にとっては、つらく苦しい決断だった。

ひかるのヒミツ

世々良木夜風
キャラ文芸
ひかるは14才のお嬢様。魔法少女専門グッズ店の店長さんをやっていて、毎日、学業との両立に奮闘中! そんなひかるは実は悪の秘密結社ダーク・ライトの首領で、魔法少女と戦う宿命を持っていたりするのです! でも、魔法少女と戦うときは何故か男の人の姿に...それには過去のトラウマが関連しているらしいのですが... 魔法少女あり!悪の組織あり!勘違いあり!感動なし!の悪乗りコメディ、スタート!! 気楽に読める作品を目指してますので、ヒマなときにでもどうぞ。 途中から読んでも大丈夫なので、気になるサブタイトルから読むのもありかと思います。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

闇の翼~Dark Wing~

桐谷雪矢
キャラ文芸
 人ならざる異種族がさりげなく紛れ込んでいる……知るモノにはそんな非日常が隣り合わせにある日常。  バーのマスターである俺は、常連客の便利屋とのひょんな仕事がきっかけで、面倒ごとに巻き込まれるコトに。  そもそも俺が吸血鬼でその異種族なせいで、巻き込まれたんだか、呼び込んだんだかしちまったのか、それとも後の祭りなのか。  気がつけば、非日常が日常になっていた? *・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・**・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・*  ちょっと昔の伝奇ジュヴナイル系のイメージです。 ↓↓↓↓↓↓  怖くないのにホラーカテゴリーでいいのだろうか、でもファンタジーも違う気が、と悩んでいましたが、落ち着けそうなカテゴリーができたので、早速お引っ越しいたしました。  お気に入り・感想、よろしくです。 *・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・**・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・* カクヨムさんにも置いてみました。

誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。【完結】

双葉
キャラ文芸
【本作のキーワード】 ・幽霊カフェでお仕事 ・イケメン店主に翻弄される恋 ・岐阜県~愛知県が舞台 ・数々の人間ドラマ ・紅茶/除霊/西洋絵画 +++  人生に疲れ果てた璃乃が辿り着いたのは、幽霊の浄化を目的としたカフェだった。  カフェを運営するのは(見た目だけなら王子様の)蒼唯&(不器用だけど優しい)朔也。そんな特殊カフェで、璃乃のアルバイト生活が始まる――。  舞台は岐阜県の田舎町。  様々な出会いと別れを描くヒューマンドラマ。 ※実在の地名・施設などが登場しますが、本作の内容はフィクションです。

いたくないっ!

かつたけい
キャラ文芸
 人生で最大級の挫折を味わった。  俺の心の傷を癒すために、誰かアニソンを作ってくれ。  神曲キボンヌ。  山田定夫は、黒縁眼鏡、不潔、肥満、コミュ障、アニメオタクな高校生である。  育成に力を注いでいたゲームのキャラクターを戦死させてしまった彼は、  脱力のあまり掲示板にこのような書き込みをする。  本当に素晴らしい楽曲提供を受けることになった定夫は、  その曲にイメージを膨らませ、  親友二人と共に、ある壮大な計画に胸を躍らせる。  それはやがて、日本全国のオタクたちを巻き込んで……

鬼の御宿の嫁入り狐

梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中! 【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】  鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。  彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。  優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。 「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」  劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。  そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?  育ててくれた鬼の家族。  自分と同じ妖狐の一族。  腹部に残る火傷痕。  人々が語る『狐の嫁入り』──。  空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。

処理中です...