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7・璃月

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 朝食を終えたあと、冬霧はなにも告げずにふらりと出かけたので、私はようやくスマホを取り出した。

「璃月さん、私、うみだけど! 昨日からおばあちゃんの家にいるの!」

 通話が始まったとたん、私はお父さんもお母さんもいない自分の後継人になってくれた相手に向かって、今までのことを勢いよくしゃべり続ける。

 そんな私に対して璃月さんはいつものように、のんびりしているのかはきはきしているのかわからない調子で明るく笑った。

「無事に着いた? よかったねぇ」

 私はおばあちゃんの家で起こった一連の出来事を璃月さんに伝える。

 璃月さんは時折「ふーん」とか「ほぉ」とか気の抜けた相槌を打ちながらも聞いてくれた。

 他の人なら信じてもらえないと思うような話でも、璃月さんになら話せる。

 なにしろ彼女は、あかかしの感情が流れてくるという私の特異体質をあっさり受け入れてくれて、それどころかおもしろがったり羨ましがったりするくらいの奇人変……個性的な人柄だ。

「なるほどねぇ。うみに気持ちが伝わってきたのなら動物のあやかしだよね、やっぱり」

「そうだと思う。今まで人の気持ちを感じたことはないし」

 冬霧のことを話すのも、頭がおかしくなったのかと疑われる心配もほんの少しだけあったけれど、璃月さんはそういうこともあるのか、程度の軽さだった。

「それでそのイケメンから、どんな気持ちが伝わってくるの?」

「……私、狐のあかやしとしか言ってないけど、」

「狐が人型になったらイケメンに決まってるでしょ。イマイチな顔立ちの狐なんているなら連れてきて見せてよ。あ、連れてくるならやっぱり美形のほうがいいな」

 断言する璃月さんに、私は負けを認める。

 話がそれることを予想して、はじめから冬霧の容姿については一切伝えていなかったのに。

「璃月さん、おもしろがってるでしょ」

「え? 他になにかある?」

「あるよ。ひとりじゃないのはいいこともあるけど、私、あやかしの気持ちが入ってくるのはやっぱり……」

「その狐の感じていること、結構面倒くさいの?」

 私は玄関で会ったときの痺れるような緊張感や、眠りから呼び起こされるほどの深い悲しみを感じたときも、冬霧が飄々として見えたことを思い出す。

「それが……入ってくる感情がその狐の気持ちなのかもよくわからなくて。その狐のあやかしは言動や行動と、伝わってくる気持ちが一致していない気がする。あと私に、変な嘘ついてからかってきたりするし……」

「うみにちょうどいいじゃない」

「どこが!」

「おもしろいペットっぽくて……あれ。それだとうみがペットになってるか」

「璃月さん……」

「でもそのあやかし、私の想像ではクール系のイケメンなんだけど、もしかしてセクシーな方? それはそれでたまらないんだけど、修正しないままで話を進めていいよね?」

「あのね璃月さん、私、真剣な話をしていて……」

「失敬な、私はいつだって真剣だよ。それにせっかくの貴重な人生経験なのに、おもしらがらないと損でしょ。だいたい肝心のうみはどうしたいの?」

「え」

 私は返事もできずに黙り込む。

 どうしたいのかなんて、考えてなかった。

「ほら。一生懸命騒いでるけどあまり考えてないの、うみの癖だよ」

「そ、それは」

「どうするのかはうみが決めるしかないからね」

「だけど決めるって?」

「追い出すとか、こき使うとか、食べるなら煮るのかそれとも焼くのか」

「璃月さん……」

「私だったら、そのイケメンあやかしをとっ捕まえて、楽しい日々を過ごすよ」

「その言い方だと、楽しそうなのは璃月さんだけなんだけど」

「そりゃあまずは私がおもしろくないと……私ね、耳掃除してあげたい! あと毛づくろいもしてあげて、もふもふなしっぽを見せてもらったり、あわよくば撫でたり、この後は言葉にしてもいいのかわからないけど……」

 璃月さんはなにやら、聞こえないほうがいいであろうことをぶつぶつ言っている。

 そんな璃月さんに冬霧を会わせるのは危険な気もするけれど、意外と冬霧も嬉しそうに耳掃除してもらっていそうだと思うと、私ももう少し気楽になってもいい気がしてきた。



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