上 下
65 / 83
8章

65・そっくりですね

しおりを挟む
「セルディさまは、アステリオンさまの命を狙ったりしないと思います。でもたとえそう命じられることがあるとしても、私は危ないことをしません」

(私はセルディさまからたくさんのことを教えていただいたので、自分の時間を自分のために使うことも覚えました。だから今は自分がどうしたいのか、よくわかります)
 
「あなたはセルディさまにとって大切な方です。そして私も、アステリオンさまと仲良くしたいです。だから私はあなたをお守りします」

 アステリオンはエレファナの言葉を聞き、納得したように唇の端を上げた。

「そうか……君と話して、セルディが変わった理由も分かった気がする。エレファナは実直すぎる夫を補う賢妻なんだね」

(補う? 上手にセルディさまのお手伝いができているということでしょうか? セルディさまはいつも私の好きなものを食べさせてくださるので、私がセルディさまの嫌いなものをいただくということでしょうか。……あら。それって、私だけもらい続けている気もしますが。でもそれでうまく行くのなら、いいのではないでしょうか!)

「セルディさまが困っているのでしたら、ピーマンは半分だけ私が食べます!!」

 セルディが真顔で「それは助かるな」と呟く。

「ポリーに好き嫌いしてはいけないと言われています。ですからセルディさまも少しは食べましょう!」

「……わかっている」

 気付けば普段と変わらない調子の会話となっていた。

 アステリオンはその様子に頷きながら、静かに席を立つ。

「二人とも、今日はご足労ありがとう。あとは自由にしてくれていいよ」

「いいのですか?」

「ああ。先ほど君が……。あの傾国の魔女が、私をふくめ王国の守護を宣言してくれただろう? なによりエレファナに余計なことをすれば、セルディの怒りを買うことになるだろう。そんなの私はごめんだからね。君たちの信頼を得る方が、こちらにとって得策ってことだよ」

 アステリオンはそう結論付けると、セルディにいたずらっぽい様子で目配せをする。

「ただセルディには形だけでも、王国に忠誠を誓って欲しかったんだけどな……今からでも遅くないよ?」

「ご冗談を。殿下は私の愚直なところも楽しまれる方でしょう」

「ははっ。そうだとしてもこの場合、ちょっとくらい譲歩してくれてもいいじゃないか」

「もちろんそのつもりです。エレファナのこと以外でしたら」

「怖いなぁ。私も色々な人と会う機会があるけれど、セルディを敵に回すのが一番嫌だよ」

 慣れた様子で軽口を叩き合う二人を見つめながら、エレファナは胸を撫でおろした。

(良かったです。私ではなく、まさかのセルディさまが誤解を受けかねない発言だった気もしますが。でもアステリオンさまのゆるゆる判定で、不届き者ではないとしてもらえたようです)

「ところでエレファナ、私の印象はどうだった?」

 アステリオンから意味深なことを聞かれて、エレファナは思っていることを口にした。

「はい。アステリオンさまは気さくな王太子さまでした。そしてセルディさまから、いつもとは違う楽しそうな雰囲気が伝わってきて、私も嬉しかったです。アステリオンさまは言いませんが、私たちのことを守ろうとして色々と考えてくださっていること、とても感謝しています」

「ははっ、買いかぶり過ぎだよ」

(あ、またです)

「アステリオンさまが笑ったときの目じりは、セルディさまとそっくりですね」

 エレファナは先ほど気づいたことをぽろりと言うと、アステリオンは不意を突かれたように目を開いた。

「……へぇ、驚いたな。そんなところを見てるんだね」

「はい。先ほど初めてセルディさまのにこりとした、とってもかわいらしい笑顔を見たのです。そのとき、アステリオンさまとご兄弟かと思うくらい似ていました」






 *

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

処理中です...