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8章
65・そっくりですね
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「セルディさまは、アステリオンさまの命を狙ったりしないと思います。でもたとえそう命じられることがあるとしても、私は危ないことをしません」
(私はセルディさまからたくさんのことを教えていただいたので、自分の時間を自分のために使うことも覚えました。だから今は自分がどうしたいのか、よくわかります)
「あなたはセルディさまにとって大切な方です。そして私も、アステリオンさまと仲良くしたいです。だから私はあなたをお守りします」
アステリオンはエレファナの言葉を聞き、納得したように唇の端を上げた。
「そうか……君と話して、セルディが変わった理由も分かった気がする。エレファナは実直すぎる夫を補う賢妻なんだね」
(補う? 上手にセルディさまのお手伝いができているということでしょうか? セルディさまはいつも私の好きなものを食べさせてくださるので、私がセルディさまの嫌いなものをいただくということでしょうか。……あら。それって、私だけもらい続けている気もしますが。でもそれでうまく行くのなら、いいのではないでしょうか!)
「セルディさまが困っているのでしたら、ピーマンは半分だけ私が食べます!!」
セルディが真顔で「それは助かるな」と呟く。
「ポリーに好き嫌いしてはいけないと言われています。ですからセルディさまも少しは食べましょう!」
「……わかっている」
気付けば普段と変わらない調子の会話となっていた。
アステリオンはその様子に頷きながら、静かに席を立つ。
「二人とも、今日はご足労ありがとう。あとは自由にしてくれていいよ」
「いいのですか?」
「ああ。先ほど君が……。あの傾国の魔女が、私をふくめ王国の守護を宣言してくれただろう? なによりエレファナに余計なことをすれば、セルディの怒りを買うことになるだろう。そんなの私はごめんだからね。君たちの信頼を得る方が、こちらにとって得策ってことだよ」
アステリオンはそう結論付けると、セルディにいたずらっぽい様子で目配せをする。
「ただセルディには形だけでも、王国に忠誠を誓って欲しかったんだけどな……今からでも遅くないよ?」
「ご冗談を。殿下は私の愚直なところも楽しまれる方でしょう」
「ははっ。そうだとしてもこの場合、ちょっとくらい譲歩してくれてもいいじゃないか」
「もちろんそのつもりです。エレファナのこと以外でしたら」
「怖いなぁ。私も色々な人と会う機会があるけれど、セルディを敵に回すのが一番嫌だよ」
慣れた様子で軽口を叩き合う二人を見つめながら、エレファナは胸を撫でおろした。
(良かったです。私ではなく、まさかのセルディさまが誤解を受けかねない発言だった気もしますが。でもアステリオンさまのゆるゆる判定で、不届き者ではないとしてもらえたようです)
「ところでエレファナ、私の印象はどうだった?」
アステリオンから意味深なことを聞かれて、エレファナは思っていることを口にした。
「はい。アステリオンさまは気さくな王太子さまでした。そしてセルディさまから、いつもとは違う楽しそうな雰囲気が伝わってきて、私も嬉しかったです。アステリオンさまは言いませんが、私たちのことを守ろうとして色々と考えてくださっていること、とても感謝しています」
「ははっ、買いかぶり過ぎだよ」
(あ、またです)
「アステリオンさまが笑ったときの目じりは、セルディさまとそっくりですね」
エレファナは先ほど気づいたことをぽろりと言うと、アステリオンは不意を突かれたように目を開いた。
「……へぇ、驚いたな。そんなところを見てるんだね」
「はい。先ほど初めてセルディさまのにこりとした、とってもかわいらしい笑顔を見たのです。そのとき、アステリオンさまとご兄弟かと思うくらい似ていました」
*
(私はセルディさまからたくさんのことを教えていただいたので、自分の時間を自分のために使うことも覚えました。だから今は自分がどうしたいのか、よくわかります)
「あなたはセルディさまにとって大切な方です。そして私も、アステリオンさまと仲良くしたいです。だから私はあなたをお守りします」
アステリオンはエレファナの言葉を聞き、納得したように唇の端を上げた。
「そうか……君と話して、セルディが変わった理由も分かった気がする。エレファナは実直すぎる夫を補う賢妻なんだね」
(補う? 上手にセルディさまのお手伝いができているということでしょうか? セルディさまはいつも私の好きなものを食べさせてくださるので、私がセルディさまの嫌いなものをいただくということでしょうか。……あら。それって、私だけもらい続けている気もしますが。でもそれでうまく行くのなら、いいのではないでしょうか!)
「セルディさまが困っているのでしたら、ピーマンは半分だけ私が食べます!!」
セルディが真顔で「それは助かるな」と呟く。
「ポリーに好き嫌いしてはいけないと言われています。ですからセルディさまも少しは食べましょう!」
「……わかっている」
気付けば普段と変わらない調子の会話となっていた。
アステリオンはその様子に頷きながら、静かに席を立つ。
「二人とも、今日はご足労ありがとう。あとは自由にしてくれていいよ」
「いいのですか?」
「ああ。先ほど君が……。あの傾国の魔女が、私をふくめ王国の守護を宣言してくれただろう? なによりエレファナに余計なことをすれば、セルディの怒りを買うことになるだろう。そんなの私はごめんだからね。君たちの信頼を得る方が、こちらにとって得策ってことだよ」
アステリオンはそう結論付けると、セルディにいたずらっぽい様子で目配せをする。
「ただセルディには形だけでも、王国に忠誠を誓って欲しかったんだけどな……今からでも遅くないよ?」
「ご冗談を。殿下は私の愚直なところも楽しまれる方でしょう」
「ははっ。そうだとしてもこの場合、ちょっとくらい譲歩してくれてもいいじゃないか」
「もちろんそのつもりです。エレファナのこと以外でしたら」
「怖いなぁ。私も色々な人と会う機会があるけれど、セルディを敵に回すのが一番嫌だよ」
慣れた様子で軽口を叩き合う二人を見つめながら、エレファナは胸を撫でおろした。
(良かったです。私ではなく、まさかのセルディさまが誤解を受けかねない発言だった気もしますが。でもアステリオンさまのゆるゆる判定で、不届き者ではないとしてもらえたようです)
「ところでエレファナ、私の印象はどうだった?」
アステリオンから意味深なことを聞かれて、エレファナは思っていることを口にした。
「はい。アステリオンさまは気さくな王太子さまでした。そしてセルディさまから、いつもとは違う楽しそうな雰囲気が伝わってきて、私も嬉しかったです。アステリオンさまは言いませんが、私たちのことを守ろうとして色々と考えてくださっていること、とても感謝しています」
「ははっ、買いかぶり過ぎだよ」
(あ、またです)
「アステリオンさまが笑ったときの目じりは、セルディさまとそっくりですね」
エレファナは先ほど気づいたことをぽろりと言うと、アステリオンは不意を突かれたように目を開いた。
「……へぇ、驚いたな。そんなところを見てるんだね」
「はい。先ほど初めてセルディさまのにこりとした、とってもかわいらしい笑顔を見たのです。そのとき、アステリオンさまとご兄弟かと思うくらい似ていました」
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