上 下
7 / 83
1章

7・妻に対する家令の反応が予想外すぎて意味がわからない

しおりを挟む
「……ポリー、どうした。なにがおかしい?」

「っ、ふふ。い、いえ。幼い頃から女性に関心を持たなかった坊ちゃんが、まさか奥さまには……ふふっ」

「? 男にも関心を持たなかったが。それとうっかり坊ちゃんと言うのは、そろそろやめないか」

「はい、そうでしたね。ともかく奥さまのことは私にお任せください」

 ポリーの笑顔に見送られて、セルディはそのままもう一人の住み込みの使用人、家令のバートを呼び寄せる。

(さて、どうなるか)

 眠ったままのエレファナを前に、セルディはバートに経緯を簡潔に説明したあと、二人で話すため執務室に移動した。

(大人しく眠っているとはいえ、俺が連れてきた相手はあの『傾国の魔女』だ。精霊の力を取り戻すことができれば、加護を受けられる希望はある。しかしバートがこの地にとって、俺にとって……彼女の扱いをどのように捉えるのか)

 セルディは愛情深く世話好きなポリーより、温厚な振る舞いながらも意外と抜け目のないバートが、エレファナのことをどう考えるか気にかかった。

(必要であれば、この男は厳しい判断も辞さない)

 セルディは懸念を抱いたまま、先ほどから静かに熟考する優男風の青年を見つめる。

 自分より五歳年上の、ポリーの息子でもあるバートは淡々とした調子で「おおよその状況は把握しました」と前置きした。

「今までの話を総括すると。つまり、のろけですか?」

「の……」

「のろけですよね」

 セルディは深刻な顔を崩さず、一瞬、言葉に詰まる。

「違う」

「違う? しかし先ほどの話ですと、セルディさまは傾国の魔女……いえ、奥さまと出会ったばかりですが、もうずいぶんと親しくなられたのでしょう。僕の仕事を中断してまでその話を聞いて欲しがるなんて、セルディさまってそういう方でしたか?」

「だから違う」

「まぁ。面白いので、僕はいいですけど」

「違うと言っているだろう! 大体今の話を聞いて、どうしてそうなるんだ」

「なりますよ」

 大真面目に否定するセルディに対し、バートはこらえきれないと言った様子で口元を抑えてにやついた。

「見ましたし、聞きました。すでに仲睦まじいのでしょう?」

 わかりきっているとでも言いたげなバートの口調に、セルディは眉を寄せた。

「……多分、違う」

「おや。急に声が小さくなりましたね」

「噂の真偽はともかく、彼女はドルフ帝国を滅ぼすほどの魔力を持つと伝えられる魔女だ」

「確かに、手ごわそうな相手ではあります」

「あの弱り果てた姿を見てもわかるのか?」

「はい。どんな命令も表情一つ変えずに承る『無機質黒銀の騎士』の異名で呼ばれるお方が、彼女を気にかけるあまり、あたふたされていましたので。かなりの手練れだと」

 先ほどから侍女や家令の反応が予想外過ぎて、セルディは意味がわからなくなってくる。

「俺が言っているのは、そういうことではないのだが」

「では一体どんな風に口説いたのですか?」

「だからなぜそうなる」

「非常に重要なことです。仕える者として確認しておくべきかと」

「そういうものなのか?」

「はい」

「……いや、面白がっているよな?」

「素敵な奥さまができると、男性はこうも変わるのかと感銘を受けています。しかし家令の立場ですから、もちろん主の最善を考えての確認です」

(ますますわからないのだが……理解できない俺がおかしいのか?)

 エレファナと出会ってから困惑続きのセルディに、バートは笑顔で説明する。



    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

処理中です...