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55・私の知っている陛下

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「……」

「陛下、なにをためらうことがあるのです?」

 そうは言っても、私も彼の葛藤には気づいています。

 陛下は幼いころから、自分とは別の意志に突き動かされるように、武術も魔術も貪欲に身につけていたそうです。

 そしてその才能と努力で得た力を先帝、彼の実の父に目を付けられ、利用されていました。

 陛下の美しくも病弱だった母親が、他界していたこともあるのでしょう。

 幼いというのに保護されるどころか、父の命で過酷な戦地へ送り込まれては勝利を収めていたようです。

 陛下は父と帝国のために尽くしつつ、強さをいっそう増していきます。

 彼を利用していたはずの先帝は、息子を恐れるようになりました。

 そして拘束魔術で縛られていた陛下は、父親に命を狙われながらも利用されるという、理不尽な身の上を受け入れるしかなかったようです。

 しかしそれは侵略で国を疲弊させた先帝に対する民の不満が高まり、私の父によって先帝が暗殺されたことで終わりました。

 そして若きディルベルト陛下が帝国を治めるようになると、ラグガレド帝国は今までにない豊かさと平和の共存する国へと生まれ変わっていったのです。

 陛下は気づいていないようですが、自分の力を暴力に使うことなど望んでいなかったのでしょう。

 私はそんな陛下に仕えていることを誇りに思っていましたが、ずっと気がかりでした。

 陛下はひとりでいるときが一番安らいだ顔をしている、そんな孤独な方だったのですから。

 しかしレナ嬢が来てから、私はどれほど驚いたか。

 陛下もレナ嬢と関わっていくうちに、今まで与えられたことのない、見知らぬ感情に戸惑っているのだと思います。

 私はそれを考察した結果、あるひとつの見解に行き着きました。

「陛下、彼女にめろめろですよね?」

「以前から思っていたが、ハーロルトの言葉選びは少々癖が強すぎるのではないか」

「陛下の想いを私に隠すことはありません。レナ嬢との出会いは喜ばしいことなのですから!」

「俺にとってはそうだが。しかしレナにとって、今はそのときではないのだと思う」

 ということは……相当アタックしているのに玉砕しているということですか?

 レナ嬢は魔帝ですら破れない、精神的魔術防壁を発現させているのでしょうか。

 私には、彼女が陛下のことを慕っているとしか思えませんでしたが……。

「陛下、恐れ多くも確認せずにはいられないのですが、現時点ではレナ嬢から、その……嫌われているようなのですか?」

「いや、それはない。レナは迷うことなく本心から、俺のことを想ってくれているのだろう。俺は理由もわからず、ただ力を得ることに憑りつかれている自分に不快感しかないというのに。それすらも受け入れて、偽りのない心でそばにいてくれる」

 つい目頭が熱くなり、私はハンカチを取り出しました。

 私は陛下をそこまで想ってくださる方が現れて、本当に嬉しいです。

 嬉しいのですが……。

「そこまで想い合っているというのに、なぜ『陛下おめでとう大作戦』を承諾してくださらないのですか?」






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