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53・魔帝専属メイドの評判
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つい手に力が入り、私が抱えている紙の束がかさりと鳴る。
先ほど陛下に確認を取った書類です。
そこには魔術師長とメイド長の間で、待機中の皇城魔術師がメイドの補助をする話がまとめられています。
これにより過剰だった魔術師の人員削減は不要となり、メイド側の人手不足も解消されました。
他にも魔術師の魔力不調が激減している報告書や、放置されていた古井戸から聖水が湧き出るようになったという奇跡まがいの事例まであるのです。
おそらくそのすべてが、最近現れた陛下の専属メイド、レナ嬢によるものだと私は踏んでいるのですが……。
「私がはじめて彼女を見かけたときのことです。彼女は諍いを引き起こしていた全身タイツ……いえ、皇城魔術師の変化魔術を見破り、強制的に解除してくれたようでした。そのおかげで不届き者は現行犯で捕まえましたし、さまざまな余罪も発覚したのです。彼女がいなければ、あの事態は未だに放置されていたかもしれません」
「なかなかいいメイドだろう?」
「しかし皇城魔術師の資格を持つ者を相手に、あそこまで気軽に魔術を解除できるとは一体……」
少し熱っぽく訴えすぎたかもしれません。
陛下の冷たい色をした目が、私を値踏みするように細められた。
「ハーロルト。そこまで彼女にこだわって、一体なにを企んでいる?」
やはりバレていましたか。
私の訴えを聞けば、冷徹な陛下ですら動揺するかもしれません。
しかしご安心ください。
今回のハーさんが贈る『陛下おめでとう大作戦』は本気ですよ?
「私は彼女はこの帝国に必要だと伝えたかったのです。陛下は突然レナ嬢を連れてきましたが、その経緯などを私に教えていただくことは?」
「つまりお前は、俺が不用意にスパイを連れてきたと疑っているのか?」
「いいえ。彼女が何者かは気になりますが、それはさほど重要ではありません。わが国にはあなたが……最強の魔帝がついておりますから。たとえスパイが紛れ込んだとしても、圧倒的な力を持つ我が国の魔帝にできることなど、色仕掛け程度でしょう」
「それで、俺がスパイの色仕掛けにかかっているとでも?」
「いいえ。色仕掛けをするのはこちらです」
陛下の眼差しが怖ろしく冷えびえとしたものに変化していく。
この話題は地雷かもしれません。
しかし帝国、そしてディルベルト陛下に忠誠を誓っている身としては、命を懸けても引くわけにいかないのです!
「陛下、彼女が現れてから帝国内における事情が、みるみるうちに改善されているのです。彼女の才能を逃すわけにはいきません」
「それで、レナに色仕掛けだと? そんなことを誰にさせるつもりだ」
「あなたです。陛下」
彼の青い瞳が、わずかに見開かれた。
「……なに?」
「陛下がレナ嬢に色仕掛けをするのです」
「……」
「ですからディルベルト陛下が魔帝とは思えないほど、レナ嬢をやさしくやさしく口説いてめろめろになってもらうのです! そして皆が幸せになる『陛下おめでとう大作戦』です!!」
先ほど陛下に確認を取った書類です。
そこには魔術師長とメイド長の間で、待機中の皇城魔術師がメイドの補助をする話がまとめられています。
これにより過剰だった魔術師の人員削減は不要となり、メイド側の人手不足も解消されました。
他にも魔術師の魔力不調が激減している報告書や、放置されていた古井戸から聖水が湧き出るようになったという奇跡まがいの事例まであるのです。
おそらくそのすべてが、最近現れた陛下の専属メイド、レナ嬢によるものだと私は踏んでいるのですが……。
「私がはじめて彼女を見かけたときのことです。彼女は諍いを引き起こしていた全身タイツ……いえ、皇城魔術師の変化魔術を見破り、強制的に解除してくれたようでした。そのおかげで不届き者は現行犯で捕まえましたし、さまざまな余罪も発覚したのです。彼女がいなければ、あの事態は未だに放置されていたかもしれません」
「なかなかいいメイドだろう?」
「しかし皇城魔術師の資格を持つ者を相手に、あそこまで気軽に魔術を解除できるとは一体……」
少し熱っぽく訴えすぎたかもしれません。
陛下の冷たい色をした目が、私を値踏みするように細められた。
「ハーロルト。そこまで彼女にこだわって、一体なにを企んでいる?」
やはりバレていましたか。
私の訴えを聞けば、冷徹な陛下ですら動揺するかもしれません。
しかしご安心ください。
今回のハーさんが贈る『陛下おめでとう大作戦』は本気ですよ?
「私は彼女はこの帝国に必要だと伝えたかったのです。陛下は突然レナ嬢を連れてきましたが、その経緯などを私に教えていただくことは?」
「つまりお前は、俺が不用意にスパイを連れてきたと疑っているのか?」
「いいえ。彼女が何者かは気になりますが、それはさほど重要ではありません。わが国にはあなたが……最強の魔帝がついておりますから。たとえスパイが紛れ込んだとしても、圧倒的な力を持つ我が国の魔帝にできることなど、色仕掛け程度でしょう」
「それで、俺がスパイの色仕掛けにかかっているとでも?」
「いいえ。色仕掛けをするのはこちらです」
陛下の眼差しが怖ろしく冷えびえとしたものに変化していく。
この話題は地雷かもしれません。
しかし帝国、そしてディルベルト陛下に忠誠を誓っている身としては、命を懸けても引くわけにいかないのです!
「陛下、彼女が現れてから帝国内における事情が、みるみるうちに改善されているのです。彼女の才能を逃すわけにはいきません」
「それで、レナに色仕掛けだと? そんなことを誰にさせるつもりだ」
「あなたです。陛下」
彼の青い瞳が、わずかに見開かれた。
「……なに?」
「陛下がレナ嬢に色仕掛けをするのです」
「……」
「ですからディルベルト陛下が魔帝とは思えないほど、レナ嬢をやさしくやさしく口説いてめろめろになってもらうのです! そして皆が幸せになる『陛下おめでとう大作戦』です!!」
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