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51・その姿で頼まれたら

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「今の私が叶えたい望みは、世界中で一番かわいい黒猫をだっこして寝ることだよ」

 ディルははじめて見るような、にっこり笑顔になった。

「あの変化魔術は一年に一度しかできないという設定だ」

「それは設定ミスね。イザベラが目撃しているだけでも、二回は黒猫を確認しているから」

「……ニャーン」

「!」

 それ、白猫になった私がよく使うごまかし方!!

「しかも私より本格的な鳴き声……」

 完全に猫の声帯かと思った。

 前世猫のせい?

 でも白猫になった私は猫の声帯なのに、どうして個性的になってしまうのかな。

 なんかちょっと悔しい、そして羨ましい。

 私だって上手に「ニャーン」って言ってみたい!

「ね、ディル。もう一回鳴いて!」

「なんのことだ」

「もう一回、さっきのすばらしい猫語を聞きたいの!」

「……」

「それにディルはとってもかわいいから。猫になりきって『にゃーん』しても、全然恥ずかしくないよ。ね、もう一回だけ!」

「……二」

「に?」

「二」

「にゃ?」

「ニシンのパイは、近々用意する……」

 姿は見えなかったけど、その話まで聞いていたらしい。

 それからディルは食べ物の話をしてきたので、私もつい夢中になってしまった。

 気付けばいつもの就寝時間になっている。

 私は「ニャーン」を今日聞くことは諦めて、寝台の毛布をめくった。

 そこに美しい黒猫が寝そべっている。

 ほ、本物!?

 絶対会えないと思っていた、まさかの猫ディルとの対面……?

 だけど凛とした佇まいは人のときと変わらない。

 立ち耳に長いしっぽ。

 つやつやの黒い毛並みに浮かぶふたつの澄んだ青い目が、私を見上げている。

「かわいいが生きてる!!」

「……ずっと思っていたが。俺に関するレナの感想はよくわからない」

「だけどどうして、その姿になってくれたの?」

「レナに頼みたいことがある」

 確かにその姿で頼まれたら、聞かないなんて選択はない……。

 もちろん人の姿でも、ディルからの頼みなら叶えてあげたいけど。

「いったいどんなお願いなの?」

「建国祭が終わるまで、白猫にならないでほしい」

「え? せっかく猫嫌いが直ったと思ったのに、また戻ったの?」

「言っておくが、別に猫好きになったわけではない。しかし建国祭が終わってから、レナに話したいことがある。どうかそれまで、白猫には変化しないでいてくれないか」

 ここまで真剣に頼むなんて、なぜだろう。

 だけどなりたくない黒猫の姿に変化するほどのお願いだから、大切な話なんだと思う。

「その代わりに建国祭まではレナではなく、俺が猫になって寝ることにする」

「本当!?」

「ニャーン」

「!」

 お利口な返事までしてくれた!!

 でも黒猫の姿でも鳴くのは恥ずかしいらしく、ディルは気まずそうに視線をそらす。

 その仕草は、聖水以上の癒しの効果があると思えるほど愛らしい。

 私は引き寄せられるように寝台へ滑り込んだ。

 触れれば夢のように消えてしまうのではないかと思いながら、おそるおそる彼を腕の中に招き入れる。

 しっかりとした重みを感じた。

 毛並みの感触と抱き心地もすばらしいし、なにより反則過ぎるほどかわいい。

 猫を抱いて眠るという、前世から続く私の望みが腕の中にあった。

 ここまで尽くされてしまうと、彼の頼みを叶えないわけにはいかない気がしてくる。

「ディルが私に建国祭のときに話したいって、どんなこと?」

「俺の望みだ」

 ディルの……へぇ、珍しい。

「いつもなら『従僕が主に言うのは』とか気にして、あまりお願いしてこないのに」

「そうだな。しかしレナに望みがあるように、俺にも望みはある」

 うん、それはそうだよね。

「ディルの望みって、一体どんなこと?」






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