【完結】白猫聖女は従僕魔帝の腕の中~婚約破棄された前世悪役令嬢が、冷酷魔帝陛下から溺愛されているワケ~

入魚ひえん

文字の大きさ
上 下
47 / 76

47・黒猫

しおりを挟む
 私はとっさに通路を振り返る。

 でもいくら見回しても、黒猫は見当たらなかった。

「あれ、また見失いました」

 イザベラも不思議そうに首をかしげる。

「黒猫ちゃん、さっきもいた子ですよね? 師匠のこと見て……懐かれているみたいですね」

 さっきの猫、やっぱり……。

「師匠、あの黒猫が気になるんですか?」

「うん、ちょっとね。でも大丈夫。大体わかっているから」

「?」

「イザベラはこのあと魔導具店へ行くんだよね。私も連れていってくれる?」

「師匠と一緒に行けたら嬉しいです! ほしいものでもあるんですか?」

「そうなの。私の大切な人に持って行きたいなって」

「大切な人……」

 私の言葉に、イザベラの瞳が好奇心に輝いた。

「それって、師匠の特別な方ですよね! 素敵な予感だらけで気になります!! 一体どんな方ですか!?」

「どんな……見た目は百九十セトルくらいの大きさで。目の色は青で、毛色は黒で」

「予想を上回るくらい、師匠とお似合いな感じが伝わってきます!」

「得意なのは剣技と魔術かな」

「すごっ、師匠が認める実力!!」

「それに言い付けたことはきちんと聞くし、撫で心地がすっごくいいよ!」

「!? 師匠、最後ので全然想像できなくなったんですけど!!」

 え、そうなの?

 最高にかわいいのに、残念だなぁ。





 *

「という感じで過ごして、楽しい一日だったよ」

 執務を終えたディルが私室に戻ってきたので、いつものカウチに座らせて休んでもらう。

 半日会わなかっただけなのに、すごく久々に再会したような気持ちになった。

 私は彼の横顔をまじまじと見つめる。

 頬にかかった黒い髪も、澄んだ青い瞳も、いつも通り隙がないほど整っていた。

 見ているだけでうっとりするほどかわいい、やっぱりかわいい、本当にかわいい!

「その様子だと、ずいぶん楽しかったようだな」

「うん! でも一番嬉しいのは、今ディルに会えたことだよ」

 予想していなかった言葉なのか、ディルは不思議そうにぱちぱちと瞬きをしてる。

「実はまつげがふさふさで長いところも、かわいいんだよね」

「……レナがそう判断するのなら、そういうことにしておく」

「あとこの制服、プレゼントしてくれてありがとう。はじめは試着のつもりだったんだけど、着心地がいいから今日は一日中これだったの」

「気に入ってもらえたのなら、なによりだ。それと主に言うことではないかもしれないが、その帝国の制服はレナによく似合っている」

 ディルはメイド服を着たままの私を見つめて、幸せそうに目を細めた。

「いや……レナはなにを着ても、自分の美しさを損なわないだろうな」

「本当? 実は今日歩き回って、魔術師の衣とか騎士の全身鎧とか牢屋にいた人の囚人服とか、いろいろ自分で着てみたい衣装があったんだよね。似合うかな?」

「似合わない方がいい物もあるが、おそらくお前は着こなすだろう」

 よし、今度挑戦してみよう。

「でも皇城の制服って、私は割とサイズも合っているけれど、小柄過ぎてぶかぶかの人がいるのはもったいない気がするな。せっかく素敵な制服なんだから、ぴったり着こなせた方が見た目もいいのに」

「なるほど。帝国の印象作りとしても、仕える者の容姿や雰囲気は重要……レナの指摘は的確だな。それにこれからの帝国には、さまざまな人材が増えるだろう。制服はサイズ選択だけでなく、オーダーメイドについても検討しておく」

「本当? 楽しみにしてるね。それと、こちらをどうぞ! 私からディルへ心をこめて、おみやげだよ」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

すみません! 人違いでした!

緑谷めい
恋愛
 俺はブロンディ公爵家の長男ルイゾン。20歳だ。  とある夜会でベルモン伯爵家のオリーヴという令嬢に一目惚れした俺は、自分の父親に頼み込んで我が公爵家からあちらの伯爵家に縁談を申し入れてもらい、無事に婚約が成立した。その後、俺は自分の言葉でオリーヴ嬢に愛を伝えようと、意気込んでベルモン伯爵家を訪れたのだが――  これは「すみません! 人違いでした!」と、言い出せなかった俺の恋愛話である。  ※ 俺にとってはハッピーエンド! オリーヴにとってもハッピーエンドだと信じたい。

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

処理中です...