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35・なんとなくわかるよ

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「まさか……あなたが助けてくれたの?」

「うまくいってよかった。怪我はない?」

「はい、私も庭園にいた人も助かりました。でも暴走した雷撃をあの一瞬でコントロールするなんて、相当の魔力量と高度な技術のある大魔術師しか……」

 私が返事をするより先に、地を揺るがすような盛大なお腹の音が鳴る。

 空腹だった私は思わず、へその辺りを両手で押さえた。

 でも魔術師の青い顔がみるみるうちに赤くなっていくのに気づいて、事情を察する。

「ねぇ、皇城魔術師さん。私はこの皇城に来たばかりで、まだよくわからないの。皇城内で一番パスタのおいしい食堂を教えてくれない?」





 *

 案内されたカフェ風の食堂は、木々に囲まれたテラスが併設されている。

 庭園が隣接しているので、空と噴水と花々の取り合わせが美しい景色を堪能できた。

 私はできたてのカルボナーラをフォークでくるくると巻き、さっそくいただいている。

 厚切りの燻製肉は期待大だったけれど、それを裏切らない塩加減と肉厚感!

 パスタに絡んだ艶のあるソースは乳製品のコクとしっとりとした満足感があって、本当においしい。

 黒コショウを散らした見た目は食欲をそそられるし、濃厚でクリーミーな味にぴりっとしたアクセントが絶妙だ。

 私が夢中になって至福のパスタを味わっていると、テーブルを挟んで向かいに座る小柄な皇城魔術師、イザベラが頭を下げる。

 勢いがありすぎて、彼女の肩の上で切りそろえた赤毛も跳びはねた。

「師匠、さっきは未熟な私を素晴らしい機転と魔術で助けてくださって、本当にありがとうございました!!」

「し、師匠……? 年もひとつしか変わらないし、レナでいいよ。それにさっきのことなら、私が好きでやったことだもの。次から魔術の種類に気を付ければいいだけだよ」

「次……」

 つり目で快活そうな顔立ちだけど、今のイザベラは自信なさそうにうつむく。

「だけど最近の私、全然魔術が発現しなくなってしまっているんです。待機時間の合間を縫って、少しでも練習を増やそうとしたら、あんな結果になってしまって……」

「時間を見つけては魔術の訓練をするなんて、イザベラって努力家なんだね」

「そ、そんなことは」

「努力を重ねていることは、魔力の流れを見ればわかるよ。でも練習なら、雷のような高度で不安定な魔術より、もっと初歩的な魔術のほうがいいかもね。毒に汚染された古井戸の周りを進入禁止にしようとして、微弱な雷のフェンスを立てようとしていたのは面白い試みだけど」

「! 井戸の水が毒されているのも見ていないし、私の魔術も雷を発現をしたわけではないのに! 師匠はどうやって井戸の汚染と雷撃に気づいたんですか!?」

 毒の気配は、聖女として培った瘴気感知で察知できる。

 イザベラの魔術に関しては発現前の魔力の流れと、詠唱をつむぐ口の動きを確認した。

 つまり。

「なんとなくわかるよ」

「ええっ! 師匠何者!? すごすぎますっ!」






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