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25・探検とお掃除
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「はい。『ヴァレリーちゃんの名を呼ぶの禁止令』を受けるようなことはしないと誓います」
ハーロルトさんは敬礼とともに宣言すると、隠し通路を引き返して去っていった。
「俺の私室はここも含めて十部屋ほど繋がっていて、それぞれがワンルームのように利用できる。盗聴も侵入も不可能な魔術を施してあるから、変身を見られることはない」
「完璧に自由にできる空間がたくさんあるのね、おもしろそう」
「魂剥離の治癒以外の時間は、どこでも好きにくつろぐといい。気に入らないものは取り除き、ほしいものがあれば全て揃えよう」
ディルが本棚の隠し扉を元に戻して、その通路に強固な魔術防壁を張りはじめた。
私は探検気分で、ディルの私室を一回りしてくることにする。
魔術で扉を開くたび、まったく別の空間が現れた。
それは蔵書が並ぶおしゃれな書斎風だったり、シャンデリアが美しいアンティーク調だったり、きれいな絵画が壁に並ぶ美術館のような場所まであった。
それぞれが統一感のある趣向で凝らされていて、その場にずっといたいのに別の部屋へ行かずにはいられない好奇心をくすぐられてしまう。
部屋巡りを満喫した私は人の姿に戻ると、隠し扉のある部屋に帰った。
ディルも隠し扉に防衛の魔術をかけ終えている。
「気に入った部屋はあったか?」
「どの部屋も素敵だけど、やっぱりこの場所が一番落ち着くかも」
私はディルにかけよって腕を取る。
「ちょっと危ないから、私から離れないでね」
私は部屋の奥に視線を送り、そこにある天蓋付きの巨大な寝台をふわりと浮かばせた。
同時にテーブル、長椅子、柱時計に円卓──のっている食事は周囲の影響を受けないように結界を張って時魔術で保存をして──ディルの私室の、あらゆるものが床から離れる。
私は魔術でコントロールしながら、隣にいるディルと自分自身も浮かせていた。
「家具を浮かせて、一体なにをする気だ?」
「せっかくだから、ここも掃除しようと思って」
「ここも? まさか周ってきた部屋全てを掃除したのか? 衛生面は問題なかったはずだが、清掃なら他の者に、」
「いいじゃない。私だって少しくらい、あなたのお世話をしたいんだもの」
よしっ、まずは除去から!
頭上にかすかな光が溢れはじめる。
それは見上げるほど高い天井に触れてから徐々に下り、みるみるうちに壁や床の汚れを取り除いていく。
うん!
もともと清掃の行き届いた部屋だったけれど、自分で手入れをすると気分もすっきりした。
「次は浄化、整頓、結界……」
私は聖女の浄化や結界、それに魔術で除去や整頓など、それぞれを複数展開させていく。
そうして構築されていく煌めきは部屋に満ちながら、天井から床まで隅々を磨きあげていった。
シーツや枕が自ら踊るような軽やかさでベッドメイクされていき、仕上げには部屋の隅々に聖なる結界が張り巡らせる。
素敵な空間が新たに生まれ変わっていく光景は、爽快だった。
「これでできあがり!」
声とともに、室内に浮遊していたあらゆるものが音もたてず定位置に着地する。
私は満足して頷いた。
この空間にいれば、ディルの薄らいでいる魂も衰弱しないはずだ。
「ふぅ、お腹空いたわ」
視線を感じて顔を上げると、ディルがあっけに取られた様子で私を見ている。
「これは清掃という次元なのか?」
ハーロルトさんは敬礼とともに宣言すると、隠し通路を引き返して去っていった。
「俺の私室はここも含めて十部屋ほど繋がっていて、それぞれがワンルームのように利用できる。盗聴も侵入も不可能な魔術を施してあるから、変身を見られることはない」
「完璧に自由にできる空間がたくさんあるのね、おもしろそう」
「魂剥離の治癒以外の時間は、どこでも好きにくつろぐといい。気に入らないものは取り除き、ほしいものがあれば全て揃えよう」
ディルが本棚の隠し扉を元に戻して、その通路に強固な魔術防壁を張りはじめた。
私は探検気分で、ディルの私室を一回りしてくることにする。
魔術で扉を開くたび、まったく別の空間が現れた。
それは蔵書が並ぶおしゃれな書斎風だったり、シャンデリアが美しいアンティーク調だったり、きれいな絵画が壁に並ぶ美術館のような場所まであった。
それぞれが統一感のある趣向で凝らされていて、その場にずっといたいのに別の部屋へ行かずにはいられない好奇心をくすぐられてしまう。
部屋巡りを満喫した私は人の姿に戻ると、隠し扉のある部屋に帰った。
ディルも隠し扉に防衛の魔術をかけ終えている。
「気に入った部屋はあったか?」
「どの部屋も素敵だけど、やっぱりこの場所が一番落ち着くかも」
私はディルにかけよって腕を取る。
「ちょっと危ないから、私から離れないでね」
私は部屋の奥に視線を送り、そこにある天蓋付きの巨大な寝台をふわりと浮かばせた。
同時にテーブル、長椅子、柱時計に円卓──のっている食事は周囲の影響を受けないように結界を張って時魔術で保存をして──ディルの私室の、あらゆるものが床から離れる。
私は魔術でコントロールしながら、隣にいるディルと自分自身も浮かせていた。
「家具を浮かせて、一体なにをする気だ?」
「せっかくだから、ここも掃除しようと思って」
「ここも? まさか周ってきた部屋全てを掃除したのか? 衛生面は問題なかったはずだが、清掃なら他の者に、」
「いいじゃない。私だって少しくらい、あなたのお世話をしたいんだもの」
よしっ、まずは除去から!
頭上にかすかな光が溢れはじめる。
それは見上げるほど高い天井に触れてから徐々に下り、みるみるうちに壁や床の汚れを取り除いていく。
うん!
もともと清掃の行き届いた部屋だったけれど、自分で手入れをすると気分もすっきりした。
「次は浄化、整頓、結界……」
私は聖女の浄化や結界、それに魔術で除去や整頓など、それぞれを複数展開させていく。
そうして構築されていく煌めきは部屋に満ちながら、天井から床まで隅々を磨きあげていった。
シーツや枕が自ら踊るような軽やかさでベッドメイクされていき、仕上げには部屋の隅々に聖なる結界が張り巡らせる。
素敵な空間が新たに生まれ変わっていく光景は、爽快だった。
「これでできあがり!」
声とともに、室内に浮遊していたあらゆるものが音もたてず定位置に着地する。
私は満足して頷いた。
この空間にいれば、ディルの薄らいでいる魂も衰弱しないはずだ。
「ふぅ、お腹空いたわ」
視線を感じて顔を上げると、ディルがあっけに取られた様子で私を見ている。
「これは清掃という次元なのか?」
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